浜松市浜名区井伊谷地区 水の神祭る聖地「天白磐座遺跡」 巨石に息づく古代【わたしの街から】

 2017年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」で一躍脚光を浴びた浜松市浜名区引佐町は、井伊家にゆかりのある名所を有し、「ひよんどり」など伝統の民俗行事が今なお受け継がれる“歴史文化のまち”。井伊家が居城としていた井伊谷城跡や、菩提(ぼだい)寺の龍潭寺などで知られる井伊谷地区では、井伊氏が誕生する以前の古代人の営みが感じられる史跡も数多い。
高さ7・4メートルと5・2メートルの岩をはじめとする巨岩群からなる天白磐座遺跡=浜松市浜名区引佐町
 渭伊(いい)神社(同町)の本殿後方の小高い丘を登ると、高さ7・4メートルと5・2メートルの二つの岩をはじめとする巨岩群が目に飛び込んでくる。自然の造形とは思えないほど神秘的な雰囲気が漂うこの地の名は「天白磐座(てんぱくいわくら)遺跡」。岩を神のよりどころとした古代の祭祀(さいし)遺跡で、「渭伊神社境内遺跡」の名称で県史跡に指定されている。
 背の高い樹木が生い茂り、木陰で耳を澄ませば小鳥のさえずりや川音が聞こえてくる。巨岩群はかつて子どもたちの憩いの場だった。郷土史研究家の石原正美さん(81)=同町=は「かくれんぼや鬼ごっこをして遊んだ。岩に登っては母親に怒られていた」と懐かしむ。遺跡は1988年に元同志社大教授の辰巳和弘さん(78)らによって発見され、石原さんも参加した89年の発掘調査を経て日の目を見ることになる。
遺跡の発掘調査を振り返る石原さん=浜松市浜名区引佐町
 「古墳時代の土器が地表で見つかる状況は考えられなかった」。辰巳さんが当時の驚きを回想する。引佐町史の編集、執筆のため学生と同町を訪れていた際、巨岩群を例に磐座について学生に解説しようと同神社に足を運んだ。そこで一人の学生が偶然、土器の破片を拾った。露出していた理由は、遺跡が丘の上にあり土に埋もれなかったこと▽地元住民が周辺の草刈りなどに取り組んでいたこと―などが挙げられるという。
 辰巳さんや学生、地域住民らによる発掘調査では、7・4メートルの岩の西壁直下から多数の手づくね土器や滑石製勾玉(まがたま)、鉄矛などが発見された。出土した遺物からは、住民が古墳時代から平安時代にかけて、西壁直下に祭壇を設けて巨岩を祭っていた可能性が浮かび上がった。
 浜名湖に注ぐ都田川の支流、井伊谷川と神宮寺川が合流する小盆地に位置する井伊谷地区は“水”との関わりが深く、古代は「井の国」と呼ばれた。同遺跡は蛇行する神宮寺川に三方を囲まれ、すぐ下には盆地の水田に水を配る堰(せき)が設けられていることから、水の神を祭る聖地だったと考えられている。
 同地区では、盆地東側の丘陵に沿って地域の豪族の首長が眠る北岡大塚古墳や馬場平古墳なども発見されている。辰巳さんは「祭祀の主体者は井伊谷を治めていた古代の豪族の首長たちで、彼らが後に井伊氏と呼ばれる存在になっていったのだろう」と推察する。
ご当地どら焼き「いい!直虎(ドラ)」好評 どら焼き「いい!直虎」を紹介する内山智恵美さん=浜松市浜名区引佐町
 浜松市浜名区引佐町井伊谷地区に店を構える老舗和菓子店「内山製菓」の人気商品が、井伊直虎の名前をもじったどら焼き「いい!直虎(ドラ)」。大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放送が決定した2015年に同町の竜ケ岩洞とタッグを組んで発売し、ご当地土産として好評を得ている。
 蒸してしっとり仕上げた生地は抹茶、黒糖、プレーンの3種類の味があり、つぶあんを挟んでいる。表面には、井桁の紋の中に濁点付きの「虎」の字をデザインした。同店の内山智恵美さん(69)は「優しい甘みが特徴で、子どもからお年寄りまで幅広く親しんでもらえている」と話す。
 同地区では、「すぎや製菓」も井伊氏にちなんだ和菓子などを販売している。
浜松市浜名区 井伊谷地区

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