浜松市天竜区の盛り土崩落 市の第三者委、検証漏れ 無届け関係条文、論点にせず

 浜松市天竜区緑恵台で2022年9月に無届けの盛り土が崩落して住民3人が負傷した災害を巡り、市が設置した第三者委員会(行政対応検証会)が、無届け盛り土への対応を定めた関係法令の条文を検証の論点としていなかったことが10日までの静岡新聞社の取材で分かった。規制する権限を持つ市職員が盛り土の違法性の確認を怠った可能性があるのに、関係条文に基づく検証が漏れていた。
台風の大雨で崩落して住宅を押しつぶした無届けの盛り土=2022年9月、浜松市天竜区緑恵台(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 行政文書などによると、崩落盛り土は14年度に県土採取等規制条例で規制される規模(面積1000平方メートル以上か土砂量2000立方メートル以上)に該当し違法状態だったとみられる。市は盛り土を把握済みで、違法性の確認が十分だったのか、崩落の被害を防ぐ対応を取れなかったのかが検証の焦点とみられていた。
 14年度の担当職員は現地を確認した際、行為者(土地所有者)に「届け出が必要」などと話をして盛り土を認識していたのに面積を計測せず違法ではないと判断。住民から現地確認の要請を受けた21年度の担当職員は土地所有者の親族に電話で面積の計測を求めたが、文書で報告させず期限も区切らなかったという。
浜松市天竜区緑恵台の盛り土崩落の検証漏れ
 複数の自治体の関係者によると、無届け盛り土に対応する際は同条例13条に基づき行為者に期限を区切って文書で報告を求め、現地調査で面積を計測して違法性を確認。届け出の要請に応じなければ、7条2項で停止命令を出し盛り土の拡大を防ぐ。しかし、第三者委は13条を検証の論点にしなかった。7条2項も論点として明記せず、無届けの場合に停止命令を出せたのか議論していない。
 盛り土災害の行政対応に詳しい関東学院大法学部長の出石[いずいし]稔教授(行政法)は市の当時の対応を「行政の怠慢と言える」と問題視している。
 第三者委で座長を務めた村越啓悦弁護士(同市)は取材に「検証委員としての役割は終わっている。お答えできることはない」と述べた。

 解説=問題の核心 検証されず
 浜松市天竜区緑恵台で2022年9月に崩落した違法盛り土は、法令で必要な届け出がされていない一方で市が崩落前に把握していた点が特徴的だった。なぜ把握済みの無届け盛り土に関して行政対応が機能せず崩落を防げなかったのか―という問題の核心部分が市の第三者委員会で検証されていなかった。
 緑恵台の事案は同様の盛り土崩落で住民28人が死亡した熱海土石流の惨事から1年2カ月後に繰り返された。熱海土石流で県が設置した第三者委でも検証漏れが発覚し、県議会が当局に再検証を求める状況に至っている。浜松市が設置した第三者委にとって、検証の徹底こそが最重要の使命だったはずだ。
 それなのに、検証すべき最も重要な部分が論点にされず、再発防止策にも反映できていない。検証漏れは深刻な事態と言える。論点を絞り込む過程でどのような議論があったのか。第三者委に高い透明性が求められるのは言うまでもない。防げるはずの盛り土による惨事をこれ以上繰り返さないためにも委員にはしっかりと説明責任を果たしてもらいたい。
 (社会部・大橋弘典)

 浜松市「論点重複、意義乏しい」
 浜松市政策法務課は第三者委員会(行政対応検証会)が県土採取等規制条例13条と7条2項を論点に挙げなかった理由について「検証会は同条例6条や7条の権限行使の可否を論点に挙げて検討した。7条2項、13条は論点が重複し、個別に取り上げる意義が乏しいと判断された」と説明した。「職員が主観で土量を判断したことや調査、確認をしなかった点などは検証でも『適切でない』と評価されている」として、検証に大きな欠陥はないとの見解を示した。

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