いじめ心身の“傷”見逃さない 浜松の防止学会、初セミナー

 法律、医療、教育など幅広い分野の専門家がいじめ対策の質の向上を目指す「子どもいじめ防止学会」(事務局・浜松市中央区)が3月、特別セミナーを開いた。昨春の学会設立以来初のイベント。「いじめ防止対策推進法」施行から10年が過ぎたが、認知件数は増え、子どもの生命・財産に重大な被害が生じたり不登校につながったりする「重大事態」も止まらない。見えてきた課題や対策について、同学会の野村武司代表理事らがオンラインで講演した。
オンラインセミナーで、いじめ対策の課題を語った(左上から時計回りに)和久田学さん、桝屋二郎さん、野村武司さん
 同法では、重大事態の疑いがあるときは学校などの下に組織を設けて事実関係の調査を行うと定めている。
 重大事態の調査経験が豊富な弁護士の野村さんは「第三者組織を設けてのいじめ調査は法律の目玉だったが、10年がたってさまざまな問題が生じている」と切り出した。具体例として、学校などによる重大事態の判断の遅れ▽いじめ調査委員会の編成の遅滞▽説明不足などによる被害者の不信感▽調査結果の報告までにかかる時間の長さ―などを列挙した。
 いじめとは、心理的・物理的な行為により、受けた子どもが心身の苦痛を感じるもので、行為と傷つきの要素で成り立っていると説明。行為だけを見ていてはいじめを見逃すことがあり、専門性や経験のある組織が「いじめを受けた子どもの傷つきに目を向けるべき」と主張した。
 同学会理事2人も講演した。いじめ予防プログラムの開発などに取り組む「子どもの発達科学研究所」の和久田学所長は、対処の遅れや対応不足の原因として「シンキング・エラー」(認知の間違い)を挙げた。「よくあることで放置しても良い」「少しくらいの傷つきは子どもを鍛える」などと捉えてしまうエラーは、閉鎖的で外部の価値観が入りにくい集団などで起きやすいと指摘。地域や専門家と連携する必要性を訴えた。
 東京医大病院の桝屋二郎准教授は医学・心理学の立場から、いじめが成人してからの精神症状や労働生産性などに影響する可能性を示した。
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 子どもいじめ防止学会は、科学的知見を生かしたいじめ対策を目指して昨年4月に設立。和久田さんらの所属する「子どもの発達科学研究所」浜松オフィスが事務局を担っている。今月以降に会員を募集し、6月下旬にはいじめ防止に向けた多職種連携をテーマにした学術集会を開く予定。
 (教育文化部・鈴木美晴)

 静岡県内認知数 22年度過去最多
 いじめの認知件数と重大事態件数は、いずれも増加傾向だ。文部科学省の問題行動・不登校調査によると2022年度、全国の国公私立の小、中、高、特別支援学校における認知は68万1948件、重大事態は923件で、いずれも過去最多となった。
静岡県内のいじめ認知件数
 県内でも、22年度の認知は2万3314件で過去最多。政令市を含む都道府県別の統計が公表された17年度の1万518件と比べて倍増した。県内の22年度の重大事態は19件。県別の重大事態件数の公表が始まった20年度は15件、21年度は16件だった。
 同省は数字の増加の要因として、法律の理解が進んだことによる積極的な認定とともに、学校による認知や組織的対応に課題があったと分析している。

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