時論(4月7日)図書館がまちを変える

 静岡県教委の取材を担当して以来交流があり、県教育長や県立中央図書館長を歴任した鈴木善彦さんから先日、一冊の本を手渡された。
 タイトルは「牧之原『いこっと』誕生物語―民と官で開いた図書館の記録―」。牧之原市は私の故郷。そして「いこっと」は3年前、その地の官民複合施設内にオープンした市立図書交流館。本は新図書館開館に向け、市図書館協議会長として民の立場で中心的に関わってきた鈴木さんと、市の図書館司書として行政実務の先頭に立ってきた水野秀信さんの共著だ。
 「いこっと」については、鈴木さんから度々話を聞いていた。カフェやボルダリング施設などが出店した民間エリアとの境界が仕切られてない県内唯一の図書施設。購入した飲み物を持ち込むことが可能で、逆に本を持ち出して店内で読むこともできる。
 本は人々の図書館への熱い思いが詰まった、まさに「物語」だった。それまで図書館の蔵書冊数や貸出冊数が県内最低水準だった同市。それが、「いこっと」には現在までに目標をはるかに上回る30万人を超える来館者がある。
 一気に読んだ後、古里への不義理を恥じつつ、まだ見ぬ施設に思いを巡らせながら国道150号を西に車を走らせた。靴を脱いでゆったりと読み聞かせを楽しめるコーナーやおしゃれな照明、ソファを配した交流・談話エリア…。訪れたのは土曜の午後で、子ども連れの家族が図書スペースと民間側を自由に行き交っていた。
 「いこっと」が住民に愛される空間になっていることを実感した。同時に、新しい人の流れをつくり、まちを変えていることも。これからも民間側との相乗効果を発揮しながら、成長を続けるに違いない。
(論説委員・川内十郎)

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