旧型ダム、平均の51%土砂 1960年代以前完成、静岡県内の15基集計 貯水量低下、対策急務 

 土砂がダムに流れ込んで堆積する「堆砂」問題が深刻化している。高度経済成長期の1960年代以前に造られた県内のダム15基について、平均で総貯水容量の51%が土砂で埋まっていることが13日までに、静岡新聞社の集計で分かった。総貯水容量は堆砂容量、利水容量、洪水調節容量などを全て含めた容量。比較的古いダムで堆砂が進み、ダムにためる水量の調節機能が低下している現状が浮き彫りになった。
大井川上流部にある畑薙第一ダム。半分が土砂で埋まっている=2023年11月中旬、静岡市葵区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・久保田竜平)堆砂の進行が顕著な県内のダム
 気候変動に伴い豪雨災害が激甚化する中、水量調節機能の低下によって下流域で河川氾濫などの水害リスクが高まるとされ、専門家はダムの改造など将来を見据えた対策が急務だと危機感を強める。
 データが不十分だった4基を除く県内25基を対象にダムを管理する国土交通省や県、電力会社などが把握した2022年度堆砂量を基に、総貯水容量に占める土砂の割合である全堆砂率(堆砂率)を計算した。1960年代以前に完成したダム15基の堆砂率は平均51%で、70年代以降に造られたダム10基の平均10%を大きく上回った。
 50~60年代は高度経済成長の電力需要を支えるため全国的にダムが増設され、県内でも大型ダムの建設ラッシュが起きた。ただ、比較的古いダムは下流側に土砂を流す仕組みのない構造が多く、対策を講じなければ土砂がたまり続け、水をためられなくなる。
 大井川の最上流部に1962年に造られ、貯水容量が県内3番目の畑薙第一ダムの堆砂率は50%。巨大なダム湖に約5300万立方メートル(東京ドーム42個分)の土砂が既にたまり、毎年約90万立方メートル(ダンプカー15万3千台分)ずつ増え続けている。同じ水系で30年代に完成した千頭、大間、寸又川の各ダムは97~81%でほぼ満砂状態だ。
 管理する中部電力の担当者は「(畑薙第一ダムは)土砂を死水域(排水口より下のダムの水域)へ引き込んでいるが、数十年たつと限界が来る。土砂をかき出す作業には天文学的な費用がかかる」と説明した。
 他の流域でも古いダムの堆砂は著しく、56年に完成した天竜川水系の佐久間ダムには県内最多の約1億3500万立方メートル(東京ドーム108個分)が堆積し、堆砂率は41%に上る。
 ダムの堆砂問題に詳しい京都大の角哲也教授(ダム工学)は「下流に土砂を供給できるようなダムの改造が必要」と抜本的対策の必要性を指摘する。
 (社会部・鈴木紫陽)

 堆砂 予測上回る早さ 気候変動影響か
 県内ではダムの建設時期にかかわらず、ダムへの土砂の堆積は想定以上に進んでいる。静岡新聞社の集計では、100年間に予測される堆積土砂量「計画堆砂量」を試算しているダム13基のうち、11基で予測を上回るスピードで土砂がたまっていた。気候変動による大雨の増加が影響しているという見方もある。佐久間ダムの堆積土砂量は既に100年間の予測量の2倍に達していた。
 2002年に完成した大井川水系の長島ダムの堆砂率は6%と低いが、想定の2倍のスピードで土砂の堆積が進んでいる。国土交通省長島ダム管理所は「毎年土砂をかき出しているが、昨今の異常気象もあり、今までのペースでは間に合わない」と懸念する。
 佐久間だけでなく、天竜川水系の水窪、太田川水系の原野谷川、富士川水系の大倉川の各ダムでも100年分の土砂が既に堆積。国交省静岡河川事務所の担当者は「静岡県は川の流れが急で土砂の供給量が多い。災害を防ぐためにもダム内の土砂を適切に下流へ流していくべき」と話している。

 流域全体に災害リスク
 ダムには発電の機能や、台風・集中豪雨など流域に大雨が降った際に大量の水が下流に一気に流れ下って河川が氾濫するのを防いだり、何カ月も雨が降らない渇水時に備えて下流で必要な水をためておいたりする水量調整の機能がある。だが、ダムにたまる土砂量が増えると、ためられる水量が少なくなるため、調整機能は弱まる。
 京都大の角哲也教授によると、ダムに土砂がたまって流れなくなると、下流の河原の土砂が硬くなって水路が固定化され、豪雨時の水位が高くなったり、河原に木が生えて川の流れを阻害したりする。沿岸部では海岸が浸食されて高波の被害を受けやすくなるほか、ダム上流でも河床が上がり浸水リスクが高まるなど、流域全体に影響が及ぶ。
 堆砂対策には膨大な費用がかかるが、角教授は「ダム内の土砂を下流へ供給することが川や海の環境を取り戻すことにもつながる。流域全体の官民が連携して土砂管理に取り組むことが望ましい」と述べた。

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