社説(4月26日)自民規正法改正案 あまりに危機感が薄い

 政権を失うかもしれないという危機感が、この期に及んでまだ薄いのだろう。
 自民党が派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受けてまとめた政治資金規正法改正の独自案を見る限り、そう受け止めざるを得ない。事件によって国民の政治に対する信頼を大きく失墜した責任を自覚し、次期衆院選で下野する可能性があるという認識があるなら、率先して政治改革を断行する姿勢を示そうとするはずだ。
 ところが、自民案は国会議員の監督責任や政治資金の透明化を巡る改正に、十分踏み込んでいない。そこからうかがえるのは、小幅な修正にとどめて抜本改正を先送りし、批判をやり過ごそうとする後ろ向きな姿勢だ。これでは、相手が長らく“多弱”の状況に甘んじてきた野党といえども、政権交代が現実味を帯びてくるに違いない。
 自民と公明党は大型連休明けに「与党案」に最終合意し、今国会中の改正を目指して野党との協議に臨む。このまま与党案を強引に通そうとすれば、かえって国民の政治不信を深めるだろう。岸田文雄首相には、たとえ党内の反発を受けようとも、より厳しく「抜け道」をふさぐ規正法の改正を実現するしか、国民の不信解消につながる道は残されていないのではないか。
 自民案は政治資金収支報告書の提出時、国会議員の「確認書」の添付を義務付け、裏金事件で発覚したような不記載・虚偽記載で会計責任者が処罰された場合は議員にも刑罰を科し、公民権を停止するとした。ただ、議員が「会計責任者の秘書にだまされた」などと主張すれば免責される可能性があり、公選法の連座制に比べて抜け道を残す懸念がある。このため、野党は「連座制もどき」と批判している。
 政治資金の透明化も改正の焦点だが、自民案は政治資金パーティーの収入や、党が幹部に支出し、使途の報告義務がない政策活動費については検討項目としたものの、具体的見直しは先送りする。
 裏金事件で不正の温床になった政治資金パーティーについて、野党は全面禁止や企業・団体のパーティー券購入禁止を改正案に盛り込んだ。政策活動費は使途公表が不要なため、選挙対策の裏金として使われているとの疑惑が消えない。自民の二階俊博元幹事長が在任中、50億円近く受け取っていたことも問題になった。野党案はこれも禁止や廃止を打ち出し、公明も使途公開の義務化を主張した。
 与党案と野党案のどちらが国民の支持を得るか。「火の玉」になって政治改革に取り組むとした岸田首相には、与党案の足らざる部分に、まるごと野党案をのむくらいの覚悟があってしかるべきだ。

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