なくなる学校。地域にできることは?④ 有識者インタビュー【賛否万論】

 少子化時代の学校統廃合と地域の在り方をテーマに静岡市葵区の藁科川上流域や同市清水区両河内地区の事例を取り上げてきました。今週は全国各地の学校統廃合と地域の関係を研究している筑波大准教授の丹間康仁さん(39)のインタビューです。学校統廃合の背景や課題解決の方向性について聞きました。丹間さんが研究対象としていた千葉県君津市の統廃合の事例も紹介します。
 (社会部・大橋弘典)
教委以外の行政も積極関与を 筑波大准教授の丹間康仁さん photo03 筑波大准教授の丹間康仁さん
 全国的な学校統廃合の流れを、どのように捉えていますか。
 「近年、保護者の方から統合してほしいと声を上げるケースが目立ちます。戦後、昭和期の学校統廃合では地域も保護者も反対する例が多かったのですが、今はむしろ保護者が複式学級を心配したり、中学校だと部活動を理由に統合を望んだりする声が強くなっています。私が調べている北海道のある地域では、学校を統合してほしいと望む一部の保護者と、学校を残してほしいという年配の地域住民の間で意向がずれて、子どもの友人関係も地域の人間関係も分裂してしまう事例がありました」
 <広がった生活圏>
 学校統廃合は少子化が進む中で当然の成り行きなのでしょうか。
 「少子化以外にも背景があります。学校統廃合を巡っては『道を取るか、学校を取るか』と言われることがあります。例えば、山間地まで良い道路が整備されると、住民は車で市街地へ通勤するようになり、買い物もより遠くの大型商業施設でする人が増えます。長い歴史の中で人々が移動を繰り返して生活圏を広げたことによって、地域内から必要な施設や行政機関などが消え、暮らしを成り立たせるために移動を必然とする社会に変わりました。しかし、子どもや高齢者は移動権が十分保障されていない交通弱者です。学校統廃合は、大人たちの生活圏が拡大している中で子どもの教育圏をどうするかという問題でもあります」
 統廃合で学校の規模はどのぐらいになりますか。
 「統廃合には限界があります。例えば、通学に時間がかかり過ぎるような地理的条件の学校は小規模でも残ります。小規模でも学校を残し続ける地域と、少子化に合わせて統廃合を進めていく地域に分かれてくるでしょう。法令では1学校当たり12~18学級の規模が一つの目安とされています。自治体による統廃合の判断はスクールバスの運行や路線バスの通学費補助を継続できるかなど財政力とも関係し、地域の人口維持など教育以外の分野にも関わります。どの分野にどれだけの税金を投入するのかは行政全体の課題です。小規模校を残す場合でも、学校同士をオンラインでつないだ授業づくりなどの工夫が必要で、教育環境の整備が不可欠になります」
 静岡市葵区の藁科川上流域には移住に力を入れて学校を存続しようと考えている地域もあります。
 「学校が近くにあることで子育て世帯は安心して移住できます。しかし、学校だけに頼って地域づくりをしていると、頼みの綱だった学校がなくなった時に困ります。公民館など学校以外の拠点があれば、そこを中心に地域づくりを進め、旧学区の地域と子どものつながりを続けることもできます。仮に移住促進によって学校を存続できるほどの人口が増えなかったとしても、その活動には大きな意味があります。住民たちが地域の将来の人口問題にしっかりと目を向けて取り組んだことで、地域を支えていく力が培われたり活動の輪が広がったりします。学校統廃合をきっかけに立ち上がった住民の活動が次の時代の地域をつくる原動力になると言えるでしょう」
 <未来志向の連携>
 静岡市では、行政の積極的な支援を求める住民の声も聞きました。
 「学校統廃合の計画を進める際、審議会や説明会を開くにしても、教育委員会マターになってしまいがちですが、学校がなくなれば地域住民の気持ちは一気に落ち込みます。地域の盛衰と学校の存廃は、どちらが鶏か卵か分かりませんが、相互に関係しているのは明らかです。学校統廃合の検討プロセスに社会教育や地域振興の部局の職員、地域のリーダーやコーディネーターに入ってもらい、地域全体のグランドデザインをともに描いていくことがポイントです。『この地域でどんな子どもを育てていくのか』をともに議論し、そのために学校はどうあれば良いのか、地域の暮らしと産業、新たな学びの場をどう創出するのかを考えることが基本です」
 学校はこれまで地域の人が半強制的につながる機能を果たしてきました。
 「確かに、学校は子ども同士や保護者同士、同窓生のつながりを生み出してきた場と言えるでしょう。学校がなくなった地域では、住民が地域活動に参画することでつながりを深め、コミュニティーを維持していくことが大切です。少子高齢化が進んでいるからこそ、子どもや孫がいるかいないかに関わらず、子どもを中心とした活動に誰もが参加できる仕掛けが必要です。放課後子ども教室や夏休みの体験教室をはじめ、地域と学校が連携、協働する活動は子どもたちの学びの幅を広げます」
 地域と学校の連携とは。
 「活動の計画づくりはコミュニティースクール(学校運営協議会制度)の活用が有効です。住民や保護者による学校統廃合の準備委員会は統合後に解散してしまうことが多いですが、学校運営協議会を新旧学区のメンバーでバランス良く構成し、統廃合の影響をしっかり監視するとともに、統合したからこそできる地域と学校の取り組みを構想してほしいと思います。例えば、旧清沢小や旧水見色小が統廃合された藁科川上流域の場合は『清沢の日』『水見色の日』をつくり、それぞれの地域を知ってもらう学習活動が提案できるかもしれません。未来志向のアイデアで学校運営協議会を生かし、地域住民、保護者、教職員で膝を突き合わせて議論していけると良いのではないでしょうか」
 たんま・やすひと 千葉大准教授を経て4月から現職。社会教育学や地域教育経営が専門。全国各地の現場を訪れ、人口減少社会の教育の在り方を探究している。
 千葉・君津 縦割り排し、市職員が住民支援 photo03 廃校を活用した地域拠点複合施設で学生と交流する地域住民や市職員
 学校統廃合を学校教育だけの問題と捉えず、雇用創出など地域全体の課題解決に力を入れる自治体もある。房総半島のほぼ中央に位置する千葉県君津市の清和地区は、廃校になった小学校を地域活性化に向けた複合施設に改装した。教育委員会だけでなく市長部局が積極的に関与し、複数の市職員が新たな地域づくりに取り組む住民を全面的にバックアップしている。
 東京都心から東京湾アクアラインで約1時間の清和地区は、山林と田畑が広がるのどかな田園地帯。静岡県の中山間地と同様に人口減少や少子化が進み、4年前に2小学校を統合し中学校跡地に新小学校を開設した。空き校舎を活用して今年1月にオープンしたのが地域拠点複合施設だ。
 こども園や公民館、地域活性化センターを併設して地域住民の交流の場をつくった。教室を改装して情報通信環境を整え、文房具メーカーのコクヨと提携してコワーキングスペースやレンタルオフィスを配置。常駐する公民館職員は行政の縦割りを排して市長部局と併任し、社会教育とともに産業振興も意識しながら住民の活動を支援する。
photo03 廃校を活用した地域複合拠点施設のコワーキングスペース=3月、千葉県君津市
 中村亮彦副主査は「従来の公民館は学びの場だったが、地域活性化の役割がより強まった。住民と一緒になって施設を機能させていきたい」と説明する。成果は未知数だが、地域活性化に取り組む地元住民の木曽野正勝さん(81)は「住民同士でつながるきっかけはこれまで学校が多かった。学校がなくなり、今後はこの施設が核になる」と話し「市が作ってくれた施設を生かす責任が住民にある。外部の人との関係人口を増やし、若者に住んでもらうために仕事をつくりたい」と意気込む。
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