浜岡原発に4月から常駐 中電・伊原原子力本部長 規制委の審査合格へ全力【インタビュー】

 中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)に4月から常駐している原子力本部長の伊原一郎氏(63)が1日までに、取材に応じ、「安全対策を進めながら原発再稼働を目指す」と述べた。電力安定供給や脱炭素の観点から「原子力発電は必要」とし、「地元の理解を得られるように努めたい」と強調した。主な一問一答は次の通り。

安全対策を進めながら原発再稼働を目指すと語った原子力本部長の伊原一郎氏=5月中旬、御前崎市佐倉の浜岡原子力館
安全対策を進めながら原発再稼働を目指すと語った原子力本部長の伊原一郎氏=5月中旬、御前崎市佐倉の浜岡原子力館

 ―2月で原子力規制委員会の新規制基準適合性審査の申請から10年が経過したことへの受け止めは。
 「非常に長かった。昨年9月にようやく基準地震動が了承され、建屋や設備などのプラント審査の前提となる耐震設計数値が決まった。大きな一歩と捉えている。現在は基準津波(想定される最大津波高)の数値を策定中。収集データに見落としがないか、規制委側から受けた指摘を踏まえ、網羅的に調査している。原発敷地内を通る断層が、活断層でないことを証明する必要がある。再稼働の時期は見通せないが、審査合格に向け全力で取り組む」
 ―津波対策はどう講じていくのか。
 「東日本大震災の福島第1原発事故を踏まえた新規制基準では、津波で原発敷地内を浸水させないドライサイトを求めている。中電としては、南海トラフ巨大地震発生に伴って、海底地滑りが起きた際に最大25・2メートルの津波が押し寄せると分析している。現状の防波壁の高さは22メートル。どのような追加対策をすべきか工事技術やコスト面から最善策を検討している。津波対策は安全性対策の根幹。過去の文献や周辺の堆積物なども詳細に調べ、あらゆる角度からリスクを検証する」
 ―なぜ、原子力発電が必要なのか。
 「エネルギー資源が乏しい日本では電力の安定供給を維持するために多様な電源を確保することが重要。原子力発電は発電効率が高い上、二酸化炭素を排出しないことから環境面への優位性がある。昨年は原子力発電の60年超運転を可能にするGX脱炭素電源法も成立した。エネルギー確保は日本の安全保障に直結し、原子力発電を基幹電源に据えるべきだと考えている」
 ―1、2号機の廃止措置の取り組み状況は。
 「本年度、全国の商業炉としては初となる原子炉領域の解体撤去に着手する。原子炉の心臓部に当たる圧力容器内の一部の設備は放射性物質に変化しているため、被ばく防止管理を徹底して作業を進める。こうした原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物の処理処分はバックエンドと呼ばれ、原子炉サイクルを完結する上で欠かせない。最終的には更地にする。将来に向けて新増設やリプレース(建て替え)の検討も必要になってくるため、その流れをつくっていきたい」
 ―廃炉作業で出た低レベル放射性廃棄物は処分地が決まっていないが、どう対処していくのか。
 「原発がトイレなきマンションと揶揄される理由の一つであり、真正面から向き合わなければいけないと認識している。運転に伴って出た低レベル放射性廃棄物は青森県六ケ所村で処分していて、その技術は確立している。しかし、廃炉で出た廃棄物は行き場がなく、処分地をどこに設けるかという社会的な受容性の問題に直面している。中電だけでは解決できないため、電気事業連合会や国などすべての関係機関が連携し、廃棄物処分への道筋を付けなければいけない」
 ―廃棄物処理の問題が解決していないのに再稼働は許されるのか。
 「日本で初めて原発が稼働した1960年代頃から使用済み核燃料や廃棄物処理の問題は懸念されていた。今も多くの技術者や科学者が研究を続けていて、将来世代に押しつけてはいけないと思う。だが、原子炉サイクルは建設から廃止措置完了まで100年程度かかる。その間、どのようにしてエネルギーを生産しながら国の発展に貢献していくか考えた時、安全なプラントを効率的に稼働しながら廃棄物問題を解決していくことが望ましいのではないか」
 ―再稼働に向けてどのように地元に理解を求めていくか。
 「本年度から浜岡原発の運営に関して組織改編があったが、引き続き安全性向上に向けた対策工事を進めるとともに積極的な情報公開に努める。全炉停止から13年を迎えるが、確かな原子力技術の継承が大きな信頼につながる。社員一丸となって取り組み、原子力を利用する立場として地域貢献の基本姿勢は忘れない」
 (聞き手=御前崎支局・市川幹人)

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