「親ガチャ」を嘆かれたら 有識者インタビュー②【賛否万論】

 ツイッターで「親ガチャ」をさかのぼってみると、2016年10月17日、最初に多くの注目を集めたとみられるツイートがありました。「まともに暮らしていくことを、親ガチャ、性別ガチャで当たった人に限定してはならない。誰でも、家があり、職があり、しあわせに生きられるのが理想。親と性別は、まわし直すのが困難なのだから、職ガチャは、何度でもまわせる仕様にする方が良い」―。ツイートしたゲームデザイナーでシナリオライターの生田美和さんに思いを聞きました。

生田美和さん (提供写真)norihito miyaji さん撮影
生田美和さん (提供写真)norihito miyaji さん撮影
生田さんは、親ガチャやハンディキャップに悩んでいる子どもたちや“かつての子どもたち”に向け、ゲームも温かい居場所の一つになることを伝え続けている
生田さんは、親ガチャやハンディキャップに悩んでいる子どもたちや“かつての子どもたち”に向け、ゲームも温かい居場所の一つになることを伝え続けている
生田美和さん (提供写真)norihito miyaji さん撮影
生田さんは、親ガチャやハンディキャップに悩んでいる子どもたちや“かつての子どもたち”に向け、ゲームも温かい居場所の一つになることを伝え続けている


 ■時代に問題 手を差し伸べて 
 ゲームデザイナー・シナリオライター 生田(しょうだ)美和さん
 ー親ガチャについて早くからツイートされてきました。
 幸せに生きるには①生まれてくる場所(国、地域、家、親など)②自分の初期値(容姿、体格、性別など)③働く場所④結婚相手―の四つの要素があると思います。生まれる場所と初期値は選べませんが、働く場所と結婚相手はなんとか選べる。そこで補おうとするんですが、そもそも生まれる場所がひどいとそこまで到達できないんです。なるべくそこから救われる人が増えるようにせめて職場ガチャや対人ガチャは回しやすい国にしてもらいたいと、いろいろ形を変えてツイートしています。
 ー親ガチャを巡る賛否両論についてどう思いますか。
 働けるのに働かず子どものバイト代を当てにする、子どもの奨学金に手を出す、ご飯を作らない、酒乱…、そんな親がいます。それが子ども側の問題であるはずがない。親ガチャに外れたと言わずして何というのか。本来は社会で楽しく暮らし、働いてくれるはずの子どもたちや〝かつての子どもたち〟が埋もれ、気力を失っていく。まさに社会の損失です。親ガチャを軽い気持ちで使う子もいるでしょうけど、本当にしんどい子は他人に言えない。とにかく早く親と離してあげる必要があって、経済的に自立させてあげることが大切だと思います。

 ■努力では報われない
 ー特に就職氷河期世代に刺さる言葉とも言われています。
 私が子どものころ、女の子が賢くなってどうするんだって家がまだ多かったんです。大学も行かせないとか。将来はお嫁さんと決められていて進学や習い事を許してもらえなかった。ところがその後、就職氷河期を迎え、交際相手の就職難や生活苦で別れざるを得ない状況が出てきた。「結婚にも救いがなかった」「それなら最初から勉強させてほしかった」という女性は少なくないと思います。もし自分の親ガチャを努力で乗り越えたとしても、結婚後には夫の親ガチャというトラップもある。自分の人生がいつまでも親世代の支配下にあるという不安は女性ほど強いかもしれません。
 ー親ガチャという言葉をどう受け止めたらいいでしょうか。
 親ガチャを時代のものだと認める必要があります。氷河期という言葉が浸透したのは当時の若者が就職に敗れてボロボロになった後でした。それまでは自分の子に、おまえがおかしい、甘えだ、人として間違っているからだって罵倒する親がいたんです。実際は多くの若者が就職できなかった。今も同じようなことが起きているはずです。
 親ガチャは外れても努力で何とかなる、ではなく、時代に問題があるはずだから自己責任ではないよね、と手を差し伸べてあげることが大切です。増えている離婚も、長い不況の影響があります。あと少し家計に余裕が持てれば踏みとどまれたケースもあったはずです。国民の人生は常に時代に振り回されていて、責任は政治にある。何が自助だと思ってしまいます。

 ■生きる力を育む役目
 ー親の立場から親ガチャという言葉はどう思いますか。
 素直に申し訳ないと思います。親が子に採点されるのは当たり前。子どもって、親とは違う時代、違う状況を生きていく全く別の存在なんです。親と別れた後でも幸せに生きる道筋を自分で構築できる子にしてあげようと、試行錯誤するのが親の役目。そこに満点なんて付くわけないんです。違う時代を生きる親子の人生がわずかに重なる間に、意見の相違やあつれきを通して互いの理解を深めていくのが親子関係であり、そうした自分と他者との調整を安全に試していけるのが本来の家庭の姿だと思います。そこが話にもならない親がいる。
 社会のシステムとして救出しなければいけない子がいるんです。今は救出の手だてがないから親ガチャと言われるわけで、救出の手だてが出そろって初めて「いつまで親ガチャなんて言ってるんだ」となるはずなんです。
 ー親ガチャの背景に格差拡大があるとも指摘されています。
 貧富の差が広がり、弾圧すら起きています。でもそれを表す言葉がまだなく、見えなくなっているのが本当に怖い。
 目の前にバタバタ倒れている人がいることを必死に訴えても、ポカーンとして「そんな貧しい人なんていないでしょ」「それはその子が悪いだけでしょ」と話が平行線で通じない人が増えている気がします。普段、職場や学校で会う身近な人の間ですらそう。価値観が合わないどころか言葉すら通じなくされている。私は文章を書き、ものをつくる人間として、そこを何とか解きほぐしたい。育った環境がかけ離れた人同士でも、お互いの背景を想像しやすくしていきたい。ゲーム業界からできることをしたいと思っています。
 ー政治は機能していますか。
 現場を見ていないのではないかと感じます。政治家や企業の幹部の多くは、いつも同じ側近からの整った報告だけを聞くことになり、さらに下の部下とか、横の横の人とか、いろいろな場からの生の情報を集めることが難しくなります。ある不登校の子が、保健室などであれば学校に通えるかもしれないと、でもその別室がないと困っていたことがあったんです。学校は、別室はあると答えていました。実は別室登校用に確保されていたのは会議室で、職員会議のたびに子どもは追い出されていたんです。私たちが頼りにした政治家の方はその学校の報告をうのみにしただけでした。
 現場を見てほしいと思います。困っている子どもたちや親からも話を聞いてほしいのです。部下からの報告だけで、現場の声を直には聞き取らないというのなら、苦しんでいる人の声は伝わらないと思います。
 ー子どもたちや〝かつての子どもたち〟にアドバイスを。
 人とつながるオンラインゲームを一度、触ってみてほしいです。ゲームには、敵を倒す、ダンジョンを制覇するなどのミッションがあり、そこに向かってチームを作るので、メンバーの入れ替わりが普段からあります。人間関係や個々の役割が流動的なのです。対人ガチャは確実に軽く回せるようになります。ゲームは、年齢や性別、容姿や職業など、自分の属性を全て脱ぎ捨て、魂一つで遊びに行ける放課後の広場や部活動みたいなもの。個人情報さえ気を付ければ安全に相談できるし、大きなドラゴンをみんなで倒して盛り上がることもできる。普段出会わないような人たちと仲間になれます。
 ゲームが、家庭や職場や学校に続くもう一つの居場所として、日々を支える選択肢の一つになればと。そんな思いでゲームを作っています。
 生田美和さん RPG(ロールプレーイングゲーム)を中心にメインシナリオや世界観の設計などを手掛ける。代表作は「サガ・フロンティア(アセルス編)」(旧スクウェア)、「聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ(宝石泥棒編)」(旧スクウェア)、「禍(まが)つヴァールハイト」(KLab)など。東京都在住。 

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