粟ケ岳市道事故 観光振興と安全、両立を【風紋】

 大きな茶文字で知られる掛川市東山の粟ケ岳(標高532メートル)は秋の行楽シーズンを迎え、多くの観光客が訪れる。その中で懸念されるのが、山頂へ続く市道の混雑。昨年3月から物損事故が8件発生し、8月には山頂付近でバイクと車が正面衝突する重傷事故が起きた。コロナ禍でアウトドア需要が高まる中、観光客の安全対策が急がれる。
 2019年、山頂に粟ケ岳世界農業遺産茶草場テラスが完成し、車で訪れる観光客が増えた。市道は車がすれ違える場所が少なく、カーブが多い。市は側溝にふたを付けるなど幅を広げているが依然として狭く、週末は渋滞することもしばしば。特に混雑する連休などは交互通行を実施しているが、毎週末は行っていない。山頂からの絶景に焦点が当たり、市道走行時の危険性が十分に注意喚起されていない可能性がある。
 10月8日に市と掛川署が行った交通事故診断では、車がすれ違える場所を明確にする看板の設置などを検討した。待避所や危険箇所をまとめた地図を麓で運転者に配布する提案もあった。周辺には民家や茶畑があり、生活道路でもある。関係機関は地元住民とともに対策を協議する必要がある。
 一方、ハイキングコースは整備が進む。これまでも東山地区の住民有志と常連登山客がコースの補修をしてきた。現在は茶草場テラスを運営する「茶文字の里東山」と住民が見晴らしの良いコース中腹に休憩所を建設中。田中鉄男社長は「歩行者を誘導する一つの手段になれば」と語る。
 市観光交流課は「なるべく歩いて登ってもらえるよう広報したい」としている。山頂までは徒歩1時間と、全ての人に気軽な登山とはいえない。歩いて登ることで得られる価値を付けなければ、移動手段を車から徒歩に変更するのは難しい。
 山頂のテラスの来場者数は20年度、年間5万8千人に達した。本年度は緊急事態宣言のため9月に休館したものの、すでに2万5千人が訪れている。粟ケ岳は掛川茶や伝統の茶草場農法を広く発信するために重要な観光資源だ。観光振興と来訪者の安全確保を両立した対策が求められる。

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