時評の記事一覧
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【時評】伊豆東部火山群の避難計画 多様な事態の対応検討を(小山真人/静岡大名誉教授)
伊豆東部火山群は、伊豆半島の東半分とその沖の海底に分布する火山群であり、気象庁の定める111活火山の一つでもある。1978年以降たびたびマグマ上昇とそれに伴う群発地震が発生し、89年7月13日には伊東市街の沖合で海底噴火が生じた。その後ようやく2015年になって住民避難計画が策定されたが、1次避難場所までの徒歩避難が原則とされ、夜間や悪天候時の実効性に課題があった。噴火のたびに新しい火口をつくる伊豆東部火山群では、既存火口の存在が前提となる噴火警戒レベル2と3を発表できず、レベル4に上がった時点で避難開始となる。このため避難準備の余裕がない点も問題であった。さらに18年に噴火の影響範囲が見直
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【時評】「知の拠点」大学の機能不全 教養教育見直し 議論を(佐藤洋一郎/ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)
人類が知識のうちに失ってしまった知恵はどこか? 人類が情報のうちに失ってしまった知識はどこか? ノーベル文学賞受賞者T・S・エリオットが「岩のコーラス」(1934年)という詩で懸念を示したのは、情報洪水のなかで「知恵」が失われてゆくことであった。エリオットの警鐘は今、インターネットやAIの登場、さらに偽情報の氾濫で、一層現実味を帯びてきている。 本来、情報は総合されて知識となり、その知識がさまざまな実体験を通して知恵となり、人生を豊かにし社会発展に貢献するものだ。そして、その場が「知の拠点」である。 大学もその拠点の一つだが、今の大学はその役割を十分果たしているとはいえない。知識の総合
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【時評】最終コーナー迎えた知事選 公約実現可能性見極めて(河村和徳/東北大大学院情報科学研究科准教授)
26日投開票の静岡県知事選に向け、各陣営の支持拡大の活動は最終コーナーを迎えている。今回は国政の与野党が対決する図式となっているが、これは野党がそれなりに力を持っているから可能で、全国的にみると、この図式となる知事選は少数派である。 自民も立憲も弱いところの知事選では、第三極と呼ばれる勢力が結果を左右するようになっている。典型が東京や大阪である。無党派層が多く、既存政党とのしがらみを持たずに改革することを求めている有権者が多いのが背景にある。 令和になって目立つのが保守分裂選挙である。自民1強の状態のところで生じるのが基本だが、それにしても近年は多い。ここで注目すべきは対立の構図である
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【時評】小集落の防災機能確保 都市計画の手法活用を(岩田孝仁/静岡大防災総合センター特任教授)
急速な人口減少と高齢化が進む日本の中でも、地方はその傾向が顕著である。今年の元日に発生した能登半島地震は、まさにそうした地域を襲った。突然の災害で過酷な負荷がかかった時、地方の小集落がどう生き残っていけるかは日本社会の大きな課題である。 日本列島のどこに住んでも地震発生の可能性はある。地震対策には住宅の耐震化が基本であり、全都道府県の平均では耐震化率が87%(2018年現在)とのことであるが、今回の被災地の能登半島では50%前後の自治体が多い。地震対策を進めてきた本県でも、耐震化率60%前後の自治体は決して例外ではない。経済活動の活発な都市域は建て替えや新築需要も多く、結果的に耐震化率は高
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【時評】シアスター・ゲイツ「アフロ民藝」 理想と実践 明快に提示(山口裕美/掛川市「現代アート茶会」芸術プロデューサー)
ArtReviewの2023年「アート業界で影響力があるベスト100ランキング」第7位のアーティスト、シアスター・ゲイツに会ったのは、2年前の国際芸術祭あいちの常滑会場(愛知県常滑市)だ。陶芸家、彫刻家、都市計画のキーパーソン-。たくさんの肩書で紹介される彼の表現活動は多岐にわたる。 日本の哲学とブラックアイデンティティーを融合させてきた彼の集大成ともいうべき個展「アフロ民藝」が、東京・六本木の森美術館で開催中だ。今年のベスト3に入るのは確実だと思う。 最初の部屋には、河井寛次郎が所有していた江戸時代後期の僧侶、木喰上人の《玉津嶋大明神》と彼自身の作品、次の部屋には本展のために常滑で制作
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【時評】破産がもたらす不利益 保証に変化 救われる思い(渥美利之/弁護士)
法人であれ、個人であれ、多額の負債を抱えて支払不能に陥った場合、裁判所の破産手続きを利用して債務整理を図る。日本国内の年間破産件数は、司法統計によると、2003年の約25万件をピークに、以後減少を続け、12年には10万件を切るに至った。直近の過去10年間の破産件数は、7万件から8万件前後で推移している。 法人破産の場合、破産手続きが終了すると、法人は消滅することになるため、まれな例外を除いて、その権利義務も消滅する。これに対して、個人は消滅しないため、裁判所の免責決定を受けることにより支払義務を免れる。 破産は、破産者に対し経済的に出直しの機会を与えてくれる制度である。しかし、破産によっ