知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

直木賞に永井紗耶子さん ゆかりの島田市 喜びに沸く

 第169回芥川賞、直木賞の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、島田市生まれの永井紗耶子さん(46)の時代小説「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」が19日、直木賞に選ばれました。関係者や島田市民からも祝福の声が上がっています。永井さん受賞の話題を1ページで振り返ります。

時代小説「木挽町のあだ討ち」 軽妙な文体、人生の苦楽丁寧に描写

 第169回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、永井紗耶子さん(46)=島田市生まれ=の「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」(新潮社)が直木賞に選ばれた。

第169回直木賞に決まり、受賞作「木挽町のあだ討ち」を手に笑顔を見せる永井紗耶子さん=19日午後、都内
第169回直木賞に決まり、受賞作「木挽町のあだ討ち」を手に笑顔を見せる永井紗耶子さん=19日午後、都内
 静岡県関係者の同賞選出は第87回(1982年)の「時代屋の女房」の村松友視さん(旧清水市出身)以来。静岡県生まれとしては第83回(80年)の志茂田景樹さん(伊東市出身)までさかのぼる。
 永井さんは1977年生まれ、横浜市育ち。2010年「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞しデビューした。昨年の第167回直木賞では「女人入眼」が候補入りした。「木挽町のあだ討ち」は今年の山本周五郎賞も受賞している。
 受賞作は、江戸を舞台にしたミステリー仕立ての小説。芝居小屋のそばで起きたあだ討ちの真相を尋ねに来た若い侍に対し、女形や小道具職人ら芝居に関わる面々が証言。あだ討ちを巡る人間模様やそれぞれの心情が徐々に明らかになっていく。軽妙な文体ながら武家社会のつらさや芝居小屋に集う人々の人生の苦楽も丁寧に描写している。
 直木賞選考委員の浅田次郎さんは永井さんの作品について「繊細で、技巧的に素晴らしい仕上がり」と評した。
 直木賞には垣根涼介さん(57)の「極楽征夷大将軍」(文芸春秋)も選出。芥川賞は市川沙央さん(43)の「ハンチバック」(「文学界」5月号)に決まった。賞金は各100万円。贈呈式は8月下旬に都内で開かれる。
〈2023.07.20 あなたの静岡新聞〉

動 画

  • 芥川賞に難病の市川沙央さん 直木賞は垣根涼介さん、永井紗耶子さん

​帯まつりのおはやし「ルーツ」 記者会見で明かす

 時代小説「木挽町のあだ討ち」で第169回直木賞に決まった永井紗耶子さん(46)=島田市生まれ=が19日、都内で記者会見し、「恐悦至極。恐れと喜びが極まってくるというのは、こういう感じかなって思った」と語った。物語の題材にもなっている歌舞伎に興味・関心を持つきっかけとなった一つが、今も見物に足を運ぶ島田帯まつりの「おはやしの音だった」と明かし、「自分のルーツがある場所とゆかりのある作品が書けて良かった」と満面の笑みを浮かべた。

 
photo01
帯まつりの様子(資料写真)

 生まれ故郷では、多くの書店やファンがデビュー当時から支えてくれた。「『そんなに私の作品を仕入れて大丈夫ですか』というぐらい仕入れて応援してくれた書店の方たちがたくさんいた。手作りのポップを作ってくれたりしたのも存じ上げている」と振り返り、「ここまで温かく見守ってくれたことに感謝している」と感慨を込めた。
 「歴史時代ものは難しい」というハードルを感じさせない作品にしようと意識し、読みやすさには自信を持っていた。それでも、5月の山本周五郎賞、そして今回の直木賞と「遠く見上げていた賞が来ることまでは正直、考えていなかった」と打ち明ける。「望外」「大変光栄なこと」と言葉を丁寧に紡ぎながら受賞の栄誉をかみしめ、今後も「賞の名に恥じぬよう、精進していく」と誓った。
(東京支社・関本豪)
〈2023.07.20 あなたの静岡新聞〉

永井さん母「ほっとした」/島田市長「多くの市民に勇気と希望与える」 関係者ら喜びに沸く 

 第169回直木賞に19日、島田市生まれの永井紗耶子さん(46)の「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」が選ばれた。同市初の直木賞作家。「地元でさらに応援を」。親族や関係者らは喜びに沸き、今後の活躍に期待を込めた。

第169回直木賞の受賞記者会見で、喜びを語る永井紗耶子さん=19日午後、都内(東京支社・関本豪)
第169回直木賞の受賞記者会見で、喜びを語る永井紗耶子さん=19日午後、都内(東京支社・関本豪)
 永井さんの母洋子さん(74)=横浜市=は「ノミネートされてから『通らなかったらどうしよう』とばかり思っていた。本人から電話を受けてほっとした」と弾んだ声で話した。故郷の島田市には家族でたびたび訪れた。「紗耶子の名は(同市の)大井神社が名付け親だった。今も地元の人が応援してくれている」と感謝した。
 同市に住む永井さんの伯母、田中直子さん(76)は「帰省する度に本好きのおじいさんに司馬遼太郎、山岡荘八、吉川英治らの小説を薦められて読んでいた。時代劇も一緒に見ていた」と子ども時代を振り返った。
 3年に1度の島田大祭・帯まつりでは「屋台で演奏される長唄やおはやしに興味を持っていた」という。「彼女が書く小説はどれも面白い。これからも後押ししたい」と笑みを浮かべた。
 島田市内の書店「焼津谷島屋アピタ島田店」は今年5月、永井さんの山本周五郎賞受賞を契機に、単行本や文庫本を集めたコーナーを設けた。川口真有美店長(50)によると、永井さんは何度か顔を見せたという。川口店長は作品の印象について「平易な文章で書かれ、ミステリーの要素もある時代小説。幅広い世代に薦められる」と絶賛。「書店グループ全体でさらに力強く推していく」と意気込んだ。
 永井さんも名を連ねる、歴史小説作家36人でつくる「操觚(そうこ)の会」会長の作家鈴木英治さん(62)=沼津市=は「静岡ゆかりの作家仲間としてうれしいの一言に尽きる」と喜んだ。自身も江戸が舞台の作品を多く執筆してきた鈴木さんは、話し言葉で物語が展開する受賞作を「一気読み」したという。「豊かな着想力で今後も他の作家が書かないような小説を書いてほしい」とエールを送った。
 染谷絹代島田市長は「島田市生まれの方が偉大な賞に輝いたことは多くの市民に勇気と希望を与える」と称賛した。「『木挽町のあだ討ち』は人の優しさが感じられる素晴らしい作品。多くの方に手に取っていただきたい」と力を込めた。
(教育文化部・橋爪充)
〈2023.07.04 あなたの静岡新聞〉

一夜明け、島田市民祝福 地元書店は早々に売り切れ

 島田市生まれの永井紗耶子さん(46)の時代小説「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」が直木賞に決まり、一夜明けた20日、同市内の書店は開店早々に売り切れ、市民は島田生まれの直木賞作家の誕生を祝福した。

直木賞受賞から一夜明け、開店早々に受賞作が売り切れた特設コーナー=20日午前、島田市の焼津谷島屋アピタ島田店
直木賞受賞から一夜明け、開店早々に受賞作が売り切れた特設コーナー=20日午前、島田市の焼津谷島屋アピタ島田店
 同市の書店「焼津谷島屋アピタ島田店」に設けられた特設コーナーでは、6、7冊あった在庫が開店後まもなく完売した。他の店舗も品薄状態とみられる。焼津谷島屋の中野道太専務(43)は「想定以上の反響。重版は決まっているので、可能な限り数を確保したい」と興奮気味。
 買い求めようと店を訪れた同市の無職増井治義さん(77)は永井さんが横浜育ちと知り、「自分も島田生まれで横浜に30年ほど暮らしたので親近感を持った。藤沢周平が好きなので、時代小説をぜひ読みたかった」と話した。
 永井さんが今も見物に足を運ぶという「島田大祭・帯まつり」ゆかりの大井神社の片川徹宮司(68)は「大変うれしい。祭りが文化をもたらしていることは光栄」と喜んだ。
(島田支局・寺田将人)
〈2023.07.20 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞