「選択的夫婦別姓」の導入はいつ? 2024年3月の現状まとめました
3月8日の国際女性デー。夫婦別姓を認めない民法規定は「個人の尊重」を保障した憲法に反するなどとして、カップル6組が東京、札幌の両地裁に提訴しました。2015年と21年の最高裁大法廷では、現行法の規定を「合憲」と判断。しかし、最近の世論調査では「選択的夫婦別姓制度」に77%が賛成するほか、今年2月には経団連の十倉雅和会長が「一丁目一番地としてやってほしい」と発言するなど、経済界でも求める声が強まっています。現状をまとめました。
別姓求めて、6組が2地裁に提訴「現行法規定は違憲」
夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は個人の尊重などを定める憲法に違反し無効だとして、北海道や東京都、長野県などに住む30~60代の男女ら計12人が8日、国に対し、別姓のまま婚姻できる地位の確認や損害賠償を求め、東京、札幌の両地裁に提訴した。8日は国際女性デー。
最高裁大法廷は2015年と21年、現行法の規定を「合憲」と判断。15年の判決では、改姓した女性にアイデンティティー喪失などの不利益があるものの「(旧姓の)通称使用が広まれば不利益が緩和されうる」と指摘した。ただ、15人の裁判官中5人は違憲とし、うち3人の女性裁判官は、通称使用の広がりは「改姓すれば支障が生じること」の証左だとして別姓を認めないのは不合理だとした。21年の家事審判の決定でも4人が「違憲」だった。
訴状では、現行法はいずれかの姓を変えるか、婚姻自体を諦めるかの「過酷な二者択一」を迫っていると強調。選択的夫婦別姓制度導入を求める意見書を採択した地方議会の増加を挙げ「家族の在り方や国民の意識の多様化」が進み、別姓を認めないことに合理性はないと訴えている。
原告の1人で、東京地裁前で取材に応じた東京都の上田めぐみさん(46)は、国際女性デーのシンボルとなっているミモザの花のブローチを着け「氏名は自分そのもの。みんなが幸せに結婚するには選択的夫婦別姓が必要だ」と話した。弁護団の寺原真希子団長は「国会には法改正の動きがない。政治問題ではなく人権問題だ」と訴えた。
札幌地裁に提訴した西清孝さん(32)は「結婚する全ての人が当事者。男性にも、自分の姓を変えなくてはならないかもしれないという意識を持ち、訴訟を見てほしい」と述べた。
法制審議会(法相の諮問機関)は1996年、選択的別姓を導入する民法改正要綱を答申したが、保守系議員の反対などで国会提出されなかった。
〈2024.3.8 あなたの静岡新聞〉
【世論調査】選択的夫婦別姓77%賛成 経済界から求める声も
共同通信社は1日、憲法記念日の5月3日を前に憲法に関する郵送方式の世論調査結果をまとめた。岸田文雄首相が自民党総裁任期中に意欲を示す憲法改正の機運に関し、国民の間で「高まっていない」が「どちらかといえば」を含め計71%に上った。国会での改憲議論を「急ぐ必要がある」は49%、「急ぐ必要はない」は48%で賛否が拮抗した。同性婚は「認める方がよい」が71%で、「認めない方がよい」の26%を大きく上回った。選択的夫婦別姓は「賛成」77%、「反対」22%だった。
調査は3~4月、全国の18歳以上の男女3千人を対象に実施した。
〈2023.5.2 あなたの静岡新聞〉
【経済界】早期実現を求め、署名提出「ビジネスに支障」 選択的夫婦別姓の早期実現を求める企業経営者ら有志の会が8日、法務省で門山宏哲副大臣と面会し、千筆超の署名を添えた要望書を提出した。経済同友会の担当者も同行した。ビジネス現場で旧姓を通称使用している現状では、海外渡航などの手続きに支障が出ているとして、別姓を法制化すべきだと訴えている。8日は国際女性デー。
署名にはサントリーホールディングスの新浪剛史社長や楽天グループの三木谷浩史会長兼社長らも名を連ねている。
結婚後も夫婦が望めばそれぞれ従来の姓を使える選択的夫婦別姓を巡っては、経団連の十倉雅和会長が2月、「女性の働き方などをサポートするため、一丁目一番地としてやってほしい」と賛意を示している。
〈2024.3.8 あなたの静岡新聞〉
【岸田首相】消極姿勢「家族の根幹にかかわる」と答弁
岸田文雄首相は2日の参院代表質問で、選択的夫婦別姓制度の早期実現に慎重な考えを改めて示した。「国民の意見が分かれている。家族の在り方の根幹にかかわる問題だ」と強調した。制度に批判的な保守層の意向を踏まえた答弁。
質問に立った立憲民主党の田島麻衣子氏は「日本の約95%の夫婦は女性が改姓している。全国の働く女性たちの苦労と負担をどのように考えるのか」と訴えた。
〈2024.2.3 あなたの静岡新聞〉
【2021衆院選】別姓選べる日いつ 県内当事者「もどかしい」
※〈2021.10.29 静岡新聞夕刊〉
三島市在住のNGO団体職員小野美智代さん(47)は、夫婦別姓を望んだため事実婚を選択し、16年目。富士市の旧家の長女で、「男兄弟がなく、小野姓を継ぐのは自分だと思って育った」。個人事業主の夫福島宏太郎さん(47)は当初「それなら自分が改姓する」と提案したが、小野さんは「名前が変わる負担を負わせたくない」と断った。
福島さんには弟がいることもあり、2人の娘は小野姓を名乗る。親子関係を出生時から法的に明確にするための胎児認知など、子どもへの配慮は欠かさなかったが、「別姓はメリットこそあれ、不都合は何もない」。自立して生きることを尊重し合い、お互いそのことを誇りにしている。
だが長い目では不安もある。「どちらか働けなくなっても扶養に入れない。相続の問題もある」。別姓で可能なら法律婚を望むが、「家族を壊す」といった反対論に、「実現は遠い」と期待は薄い。
厚労省の統計では、結婚後に夫の姓を選んだ夫婦は96%(2015年)。女性が結婚後も婚前の姓を使用したい場合、改姓した上で、通称として旧姓を使うのが一般的だ。通称使用を認める職場は増え、国も近年、マイナンバーカードや住民票、運転免許証などへの旧姓併記を可能にしてきた。
だが、経験者は通称使用の煩わしさを語る。取引先に定着していたため、結婚後も職場で旧姓を使用してきた静岡市清水区の女性会社員(46)は「対外的には旧姓でも給与振り込みや健康保険証は戸籍名。社内で二つの名前が混在し、面倒になった」といい、数年で使用をやめた。
静岡市葵区の団体職員女性(30)は離婚に直面し、改姓の負担を痛感している。手続きの煩雑さに加え、「あらゆる場面で説明しなくてはならない。別姓ならどんなに楽か。なぜ女性の側だけこんな苦労を強いられるのか」と嘆く。静岡大の笹原恵教授(社会学)はさらに、若い世代の結婚に与える影響も指摘する。「ただでさえ結婚に消極的になりつつある中、対等な関係性を望む若者にとって、同姓規定は結婚の負の側面になりかねない」
(西條朋子) 学生も注視「結婚する2人が話し合って選べる世の中がいい」 これから社会に出る学生からは選択的夫婦別姓制度について、「同姓か別姓かは、結婚する2人が話し合って選べる世の中がいい」との声が聞かれた。
静岡県立大3年の田中彩恵さん(21)は「まだ自分が結婚するイメージは湧かないが」と前置きした上で、「(同制度に)反対する政治家は、違う姓だと家族のきずなが深まらないと言うが、自分の経験や感覚としてはよく分からない」と同制度導入には賛成という。同大3年の石井杏奈さん(21)は「女性が社会でキャリアを積む上で別姓を望む人もいる。夫婦2人が答えを出せばいいことで、制度としては取り入れてほしい」と選挙戦での議論を注視する。
<メモ>法相の諮問機関である法制審議会が、選択的夫婦別姓制度の導入を盛り込んだ民法改正案の要綱をまとめたのは、1996年。しかし、保守派議員の根強い反対から、改正案の国会提出は現在まで実現していない。
今年6月には、最高裁が2015年に続いて、夫婦別姓を認めない現在の民法規定を合憲とする判断を下した。ただ、夫婦の姓をめぐる制度の在り方については「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」とし、国会に議論をゆだねた。
国連の女性差別撤廃委員会は、夫婦別姓を認めない民法規定を「差別的」として、過去3度にわたり日本に是正を勧告している。
※所属団体、年齢等は初出掲載時のまま