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静岡県内に新たな蒸留所、蒸留酒が誕生! その動きのあれこれ。

 静岡県内でも珍しいリキュールの蒸留所が下田市で動き始めました。また、沼津市にも新たに蒸留所が生まれ、第1弾として県内産のレモンを使ったクラフトサワーが仕上がりました。日本酒、クラフトビールに続き、新たな名物とするべく関係者の奮闘が続きます。そして、能登半島地震の被災地への働きかけも。最近の蒸留酒を巡る静岡県内での動きをまとめました。

民宿改築のリキュール蒸留所 下田で“開国” 「オーダーメード」製造目指す

 静岡県内でも珍しいリキュールの蒸留所が下田市で始動した。目指すのはバーテンダーや消費者の細やかな要望に応える「オーダーメード」のリキュール。関係者は「開国のまちの新たな名物にしたい」と意気込む。

ダイダイの漬け込み作業に取り組む伊藤さん(左)と白井さん=下田市白浜
ダイダイの漬け込み作業に取り組む伊藤さん(左)と白井さん=下田市白浜
 1月14日の「伊豆下田白浜蒸留所」。民宿だった一軒家を改築した一角で、白井健太さん(32)と伊藤広光さん(26)らが地元産ダイダイの漬け込み作業に没頭していた。製造に取り組むのは下田の海に着想を得たリキュール「ブルーキュラソー」。ダイダイの皮を仕込み、蒸留・加熱した上で青色に着色する。炭酸水やジュースで割ると、「夏にぴったりの下田らしい味わい」が楽しめる。個人向けや飲食店に卸すほか、通販も視野に入れる。
 伊藤さんは都内でバーテンダーとして活躍し、専門誌でも取り上げられるなど業界注目の一人だ。知人の白井さんと意気投合。伊藤さんの専門学校の同級生・沢田匡史さん(26)を交えて、消費者やバーテンダーの好みに応じて小ロット生産する蒸留所の開設を思い立った。白井さんは蒸留所開業のために下田へ移住した。3月に瓶詰めし、4月の発売を目標に掲げる。
 国内のバーではカクテル用のリキュールは輸入品に依存している。このため、国内産や酒造りの自由度を求めて小規模の蒸留所を開く機運がバーテンダーの間で高まりつつあるという。
 物件は民泊を手がける「グリップ」(下田市)社長の高橋伸介さん(55)の所有で、伊藤さんの客だった高橋さんが再利用を提案した。当面は無償貸与し、事業が軌道に乗り始めた段階で家賃を受け取る。高橋さんは「空き家のオーナーと事業挑戦したい若者の双方に利点がある」と話す。
 既に個人やバーテンダーからオーダーメードのリキュール製造の要望が届いている。白井さんは「観光の繁忙期以外にも、アルコールを絡めて通年で観光客が足を運ぶきっかけにしたい。ダイダイ以外の産品も活用できれば地域振興につながる」と期待を込める。伊藤さんも「目指すのは舌の肥えた『通』から認められる味」と目を輝かせた。
(下田支局・伊藤龍太)
〈2024.02.09 あなたの静岡新聞〉

伊豆下田白浜蒸留所を開いた白井健太さん(下田市)に聞く

 下田市に移住し、リキュール製造に取り組む。リキュールの蒸留所は静岡県内でも珍しい。名物づくりとともに、酒造りを通じて原料となる1次産業の活性化を目指す。大分県佐伯市出身。32歳。

白井健太さん
白井健太さん
 ―オープンの経緯は。
 「都内でも知られた存在のバーテンダー伊藤広光さん(26)と知り合って意気投合した。国内のバーではカクテル用のリキュールは輸入品に頼っていて、国内産や自由な酒造りのために小規模の蒸留所を開く機運がバーテンダーの間で高まっている。伊藤さんの同級生沢田匡史さんを交えてぜひやろうとなった」
 ―なぜ下田に開業したのか。
 「蒸留所はかつて民宿だった一軒家。所有者の高橋伸介さん(55)が伊藤さんの客で、物件を紹介してくれた。3月の瓶詰め、4月の販売を目指している『ブルーキュラソー』は下田の海をイメージした。ぜひ名物にしたい」
 ―目標は。
 「かんきつ類やお茶など、リキュールの原料になり得る産品は県内に多い。活用できれば地域振興につながる。バーテンダーや消費者の細やかな要望に応えるオーダーメードのリキュールを目指していて、既に要望も入っている。まだ規模は小さいが、いずれは3人では人手が足りなくなる。雇用も生み出したい」
 ―酒の魅力とは。
 「おいしく楽しめてコミュニケーションツールとなるのはもちろんだが、その土地の風土を反映できる。中身もボトルも保存性が高く、観光客に地域性を感じてもらえる。われわれも下田の魅力を存分に反映し、国内外から求められるリキュールを作っていきたい」
(下田支局・伊藤龍太)
〈2024.02.14 あなたの静岡新聞〉

地産果物使いクラフトサワー 蒸留所・飲食店開業 沼津・柿田川ブリューイング 第1弾、伊東産レモン

 クラフトビール「沼津クラフト」を製造する「柿田川ブリューイング」(沼津市千本緑町)が今冬、新たに蒸留所「千本スピリッツ」を本社近くに設け、蒸留酒の製造に着手した。第1弾は静岡県内産のレモンを使ったクラフトサワー。ビール醸造所が複数ある沼津で「ビールの醸造技術を生かして、料理に合う地元産の果物を使ったサワーを提供したい」と、19日には飲食店も本格オープンする。

リモンチェッロを提供している店舗=沼津市千本緑町の「SENSPI」
リモンチェッロを提供している店舗=沼津市千本緑町の「SENSPI」
 2018年からクラフトビールを製造する同社にとって「創業時からの念願」(広報担当者の仙座夏子さん)。販売するクラフトサワー「リモンチェッロ」は、ビールに使用する麦芽を原料に製造した蒸留酒に伊東産のレモンを漬け込んだ。甘過ぎず、飲みやすいすっきりとした味わいに仕上げたという。
 本社兼醸造所の向かいに設けた蒸留所は、青果店跡を改装。3階にサワーを飲める飲食店「SENSPI(センスピ)」を併設し、昨年12月から週末限定で営業を始めた。
 今後は、沼津周辺の梅や桃などの果物を使ったサワーの製造も予定する。仙座さんは「沼津には地元産のビール、ジン、日本酒はあるが、ここにクラフトサワーが加わる。沼津のお酒文化を盛り上げたい」と展望を語った。
 リモンチェッロは系列店のビアフィールド(三島市)でも提供する予定。飲食店向けに、たる詰めの製品も今月から販売する。
(東部総局・菊地真生)
〈2024.01.14 あなたの静岡新聞〉

能登産素材でクラフトジン開発 三島の山口さんら売り上げ一部寄付

 三島市と都内で蒸留酒を製造する山口歩夢さん(28)が、石川県能登地方の素材を使ったクラフトジン「セクレトジン」を開発した。計画当初は輪島市の地域振興に活用する予定だったが、発売開始直前の1月に能登半島地震が発生。「商品が復興に少しでも役立てば」と売上金の一部を同市に寄付し、被災地支援を図った。

山口さんらが開発した、能登産の素材を使ったクラフトジン「セクレトジン」
山口さんらが開発した、能登産の素材を使ったクラフトジン「セクレトジン」
 開発は地域資源を活用する一般社団法人「Channel47」(東京都)などの事業の一環。都内のレストラン「セクレト」の薮中章禎シェフ(輪島市出身)がプロデュースし、山口さんは都内の蒸留酒製造販売「エシカル・スピリッツ」の製造長として関わった。
 事業は同市などの後援を受け、輪島朝市の名物商品を作ろうと昨年始動。佐賀県産の粕取り焼酎をベースに、サンショウ、シイタケ、昆布、ゆずなど能登産の17種類のボタニカルを香り付けに使用した。当初は朝市でジンを披露し、薮中シェフが実演販売する予定だった。
 ジンは1本5500円で発売したところ、ネットで扱ったエシカル・スピリッツの販売分100本はすぐに完売。同社は早速、売り上げから決済手数料と送料を引いた全額48万5千円を同市への義援金として寄せた。山口さんは「大手のように一括で多大な支援はできないが、少しでも現地の助けになれば」と話した。
 山口さんは三島市のウイスキー蒸留所「ディスティラリーウォータードラゴン」でも製造長を務めている。
(東部総局・菊地真生)
〈2024.02.21 あなたの静岡新聞〉
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