静岡市幹部のパワハラ問題 サービス残業や閉鎖的な職場環境…なぜ起きたのか。まとめます
2023年12月に静岡新聞が報じて明るみになった「静岡市幹部のパワハラ問題」。報道をきっかけに、市危機管理総室では同年度内に職員5人が休職退職をしていたことや、繰り返しの人格否定、サービス残業の実態が明らかになりました。市の聞き取り調査によると、背景には「人は厳しく指導することで育つという意識が強い」「上司に意見や反論を言えない雰囲気」などといった職場環境がありました。1ページにまとめます。
静岡市パワハラ問題、幹部職員減給処分 危機管理総室3人退職・2人休職
静岡市の難波喬司市長は26日の定例記者会見で、2023年度に危機管理総室で職員の退職、休職が相次ぎ、一部の職員が上司によるパワハラを訴えている問題について調査結果を公表した。50代の幹部職員によるパワハラ行為や退職、休職との因果関係を一部認め、同職員を同日付で減給1カ月(10分の1)の懲戒処分にしたと発表した。市によると、パワハラを理由とした懲戒処分は、03年の旧清水市との合併以降初めて。
幹部職員に時間外勤務申請しないで時間外勤務を行っていたケースは、23年4~12月の9カ月間で職員14人の累計2080時間を認めた。難波市長は「申請しづらい雰囲気があった」と管理状況を問題視し、時間外勤務手当として計約606万円を追加給付する方針を示した。一方で、「幹部職員が申請を直接拒否した場面は確認できなかった」としてハラスメント行為の認定は見送った。
危機管理総室では23年度、職員3人が途中退職し、2人が1~3カ月の病気休暇を取得した。23年12月に静岡新聞社が報道し、人事課が職員アンケートや、退職者を含む関係者への聞き取り調査を実施し、事実関係を調べていた。
パワハラ横行 失敗、ミス許されない環境形成か
静岡市の難波市長は危機管理総室でパワハラが横行した原因について、行為を繰り返していた幹部職員の認識の欠如や、意見を言い出しにくい職場環境を挙げた。加えて、難波市長が同室の仕事に「すごく変化を求めた」とし、自身の指示が結果として失敗やミスが許されない雰囲気づくりに影響したとの認識を示した。
市が同室の職員を対象に実施したアンケートでは、大半が人格否定や長時間の叱責、時間外勤務の申し出が認められないなど不適切な扱いを特定の上司から受けたか見聞きしたと回答した。「人は厳しく指導することで育つという意識が強い」「上司に意見や反論を言えない雰囲気」など、職場の風通しの悪さを指摘する意見も多かった。
市が提示した再発防止策は、全職員によるハラスメント撲滅宣言の実施のほか、ハラスメントの申告フォームを庁内に新設し窓口の人事課に相談しやすくすることなど。ただ、難波市長がパワハラを認定した後も同室の仕事ぶりを高く評価する姿勢を変えないこともあり、市職員の中には「これでパワハラがなくなるとは思えない」と、防止策の実効性に懐疑的な見方も出ている。
〈2024.3.27 あなたの静岡新聞〉
職員の退職休職相次ぐ 上司の不適切な指導、時間外勤務申請...パワハラ訴え
静岡市危機管理総室で2023年度中に退職や業務を理由とした病気休暇取得が相次いでいることが、22日までの関係者への取材や市への公文書開示請求で分かった。上司による不適切な指導や時間外勤務申請が認められないなどのハラスメントとみられる行為を複数の職員が訴えていて、市当局が因果関係などを調べている。
同室の男性管理職が強い口調で職員に接することが複数回あり、「こんな適当な仕事してんだったらおまえもうやめろ」「何を寝ぼけてんだおまえは」などの発言が録音されたデータがあった。退職に伴い有給休暇の取得を相談した職員に対しても、「やめたきゃやめろ。あまりにも無責任だ」などと威圧的な態度で接していた。
時間外勤務申請せずに残業することも常態化していたという。退職した職員は取材に対し、「平均月60時間程度の残業を行っていた」と明かしたが、静岡新聞社が市への公文書開示請求で入手した「時間外超過勤務職員一覧」によると、この職員が働いたとされる時間外勤務は4月以降、月平均二十数時間程度で証言とかけ離れていた。
こうした職員の勤務実態について、ハラスメント行為に詳しい県内の弁護士は「指導の範疇(はんちゅう)を超え、優越的な立場を利用したパワーハラスメント行為に該当する可能性がある」との見解を示した。
市当局は行為が発生した背景や退休職との関係性について調べていて、内容が判明次第、調査結果を公表するとしている。
危機管理総室の担当者は取材に、職員から「訴えは聞いていない」とし、時間外勤務の運用や部下への指導は適正に行われていると話した。他部署から複数の職員が応援に入っているという。
市職員録によると、5月1日時点の危機管理総室職員は危機管理監以下26人。災害発生時の対策本部の運営や防災政策の企画などを担っている。
〈2023.12.23 あなたの静岡新聞〉
退職職員「人格否定された」 「完璧な仕事」こなそうと努力も...叱責で気力喪失
静岡市危機管理総室で退・休職する職員が相次ぎ、一部が上司のハラスメント行為を訴えている問題で、同総室を2023年度中に自主退職した元職員2人が29日までに取材に応じた。防災訓練の立案などを担当していた元職員の男性は在職中、幹部職員が部下の前で係長を罵倒するのを見たり、自身も年下の職員の前でけなされたりし、「人格を否定され、明らかなパワハラだった」と証言した。別の元職員の男性は「おまえらのつくった書類は小学生がつくったレベルと同じだ」などとなじられ、建設的な議論ができる状態ではなかったと明かした。
さらに「おかしいと声を上げた職員もいたが、放置された」と、市役所内のハラスメント対応が機能していなかったと指摘した。「昔と変わらない体育会系の指導では、多様化する社会ニーズに対応できる高度な人材を育てられない。職員の能力を伸ばせない組織は中長期的には必ず弱体化する」と市役所のパワハラ体質の改善を願った。
別の元職員の男性は、幹部から具体的な指導がないまま、資料のやり直し作業が続いたと証言した。通常の勤務時間内に仕事が終わらないことが多かったが、時間外勤務申請を直属の上司に提出しても、この直属上司が決裁権者の幹部職員に申請理由を細かく追及されるために申請しづらくなり、サービス残業が常態化した。「(直属の)上司が目の前で怒鳴られるのを見るのもつらかった。公務員の仕事に誇りを感じ、長く続けたいと思っていたが、退職したいと思うようになった」と話した。
市は12月下旬から、危機管理総室職員対象のパワハラに関するアンケートや時間外勤務に関する調査を始めた。関係者によると、具体的なパワハラの体験や見聞の有無などを尋ねているという。
〈2023.12.30 あなたの静岡新聞〉
静岡市のハラスメント対策 全市議も撲滅宣言署名へ
静岡市が全職員対象に実施方針の「ハラスメント撲滅宣言」について、市議会も全47議員(欠員1)が宣言に署名する方向で調整していることが22日までの関係者への取材で分かった。
市では2023年度、危機管理総室で不適切な指導や時間外勤務申請を認めないなどの上司によるパワハラ行為を背景に職員の休職、退職が相次いだ。3月の市議会2月定例会では、難波喬司市長らがパワハラに関する調査結果を3月中に公表し、再発防止策として全職員によるハラスメント撲滅宣言を行う方針を明らかにしていた。
関係者によると、職員対象の宣言案は、市議の宣言案の内容に加え、「長時間厳しく叱責(しっせき)し続ける」「食事やデートにしつこく誘う」など具体的な言動例46項目を挙げてハラスメント行為をしないことを誓う。「性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らさない」などの内容も含むという。
〈2024.3.23 あなたの静岡新聞〉