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「本屋大賞」受賞 宮島未奈さん(富士市出身)とは

 全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ2024年の「本屋大賞」が発表され、宮島未奈さん(富士市出身)デビュー作の「成瀬は天下を取りにいく」が大賞を受賞しました。小学生で創作を始め、高校時代は小説を書き、仲間と文集をまとめたりもしていた宮島さん。「静岡書店大賞」にも選ばれるなど、今注目の県勢作家についてまとめました。

デビュー作「成瀬は天下を取りにいく」が本屋大賞

 全国の書店員が最も売りたい本を投票で選ぶ「2024年本屋大賞」の受賞作が10日発表され、宮島未奈さん(40)=富士市出身=の小説「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)が大賞に選ばれた。

2024年本屋大賞を受賞し、スピーチで手を振る宮島未奈さん=10日午後、東京都港区
2024年本屋大賞を受賞し、スピーチで手を振る宮島未奈さん=10日午後、東京都港区
 同作は大津市が舞台。宮島さんは、主人公が結成する漫才コンビ「ゼゼカラ」のユニホーム姿で発表会に登場し、「滋賀の皆さん、見てますかー? 成瀬が本屋大賞を取りましたよー!」と喜びの声を上げた。
 同作は、真面目でわが道を行くヒロイン、成瀬あかりの中高生時代を描く青春小説。成瀬が大学に進学する続編「成瀬は信じた道をいく」と合わせたシリーズ累計発行部数(電子版も含む)は58万部に上る。
 宮島さんは富士市出身、大津市在住。2021年に短編「ありがとう西武大津店」が「女による女のためのR―18文学賞」を受賞。23年、同作を含む「成瀬は天下を取りにいく」で単行本デビューを果たした。
 翻訳小説部門は韓国の作家ファン・ボルムさんの「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(牧野美加さん訳、集英社)。

「静岡から全国へ」達成 県内に特設コーナーも  2024年本屋大賞受賞が10日に発表された宮島未奈さん(富士市出身)の「成瀬は天下を取りにいく」は、23年12月開催の第11回静岡書店大賞も得ている。12年創設で県内の書店員、図書館員が投票する書店大賞と、本屋大賞の両方を獲得した作品は初めて。「ダブル受賞」に静岡の事務局関係者も沸き立った。
 初代事務局長の高木久直さん(53)=高久書店主=は、県内出身作家の快挙に祝意を示した上で「『静岡から全国へ』というキーワードを旨として始めた書店大賞にとっても、悲願を達成したことになる。作中の『(滋賀県の)膳所(ぜぜ)から世界へ!』というフレーズにも重なり、とても感慨深い」と話した。
 第11回書店大賞の丸林篤史事務局長(45)=谷島屋営業本部=は作品の魅力について「『ヒロインの成瀬あかりが好き』という声が圧倒的。23年3月の発売直後から書店員や図書館員の間で話題になっていた」と振り返る。
 宮島さんが書店大賞の受賞記念に書き、県内の書店や図書館で配布した掌編を挙げ「成瀬が静岡市に来た設定。宮島さんの深い静岡愛が感じられてうれしかった。今後の作品でまた成瀬が静岡に来てくれたら」と期待を込めた。
 同市葵区の谷島屋マークイズ静岡店は本屋大賞発表直後の10日夕方、特設コーナーを3カ所設けた。小川誠一店長(55)は「成瀬―」について「どうにもならない面白さ」と表現。23年の書店大賞選出時は売れ行きが好調だったといい、「今回も注目されるのは間違いない」と断言した。
〈2024.4.10 あなたの静岡新聞〉

青春のかけら、きらり輝く デビュー作発刊

 富士市出身の作家宮島未奈さんがデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)を発刊した。過去に窪美澄さん、町田そのこさんらを輩出した同社主催「女による女のためのR-18文学賞」で大賞ほか全3冠を得た「ありがとう西武大津店」など6編からなる短編集。奇想天外な発案と揺るぎない行動力で周囲をあぜんとさせる女の子、成瀬あかりを中心に据えた連作は、地方都市の何げない日常にきらりと輝く「青春のかけら」を巧みにすくい上げる。

「1作1作短編を書いて、出来が良かったものを6作入れた」と話す宮島未奈さん。続編も予定されている(c)新潮社
「1作1作短編を書いて、出来が良かったものを6作入れた」と話す宮島未奈さん。続編も予定されている(c)新潮社
 「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。受賞作は「閉店が決まった百貨店に夏休みの間、毎日通う」という中学生成瀬の奇矯な宣言で始まる。幼稚園時代から運動、勉学、芸術に秀でながら、他人を寄せ付けない行動とマイペースな言動で周囲からの孤立を深める成瀬。同じマンションに住む幼なじみで自称“凡人”の島崎みゆきがほぼ唯一の友人だ。
 「1人は変わった子、もう1人は普通の子という設定だけがあった。成瀬がこんなことを言ったら楽しいんじゃないかと考えながら書いたらこうなった」
 女性2人の絆が強調される昨今はやりの「シスターフッドもの」とは異なる、ドライな関係性が新鮮だ。
 「べたべたし過ぎないよう、意識して書いた。2人で漫才コンビを結成したりはするけれど、違う方向を向いている。目標も同じではない。成瀬はやりたいことをやっているだけだし、島崎はそれについていくだけ」
 作者は2人の意志をあえてはっきり描写しないが、読者には高め合う関係の尊さ、理解者が存在することの大切さが明瞭に伝わる。「(物事が)思い通りにいかないのが青春だと思う。コロナ禍でそれがさらに増えている。『不自由の中で何をするか』がこの作品の肝なのかもしれない」
 富士市で生まれ育ち、京都大文学部を出た。小学生で創作を始め、高校時代は小説を書いて、仲間と文集をまとめたりもしていた。ただ、当時は小説家は漠然とした夢だったという。「成瀬-」の高評価は予想外だった。「戸惑いが大きい。だが、やっとスタートラインに立ったという気持ち」
 (教育文化部・橋爪充)
 〈2024.4.03 あなたの静岡新聞〉

「第11回静岡書店大賞」受賞

 静岡県内の書店員と図書館員が選ぶ「第11回静岡書店大賞」(実行委員会主催、静岡新聞社・静岡放送後援)が5日、発表された。小説部門は富士市出身の宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)、映像化したい文庫部門には、静岡市の榛名丼さんの「レプリカだって、恋をする。」(KADOKAWA)が選ばれた。静岡市内で開かれた授賞式は、新型コロナウイルス禍に伴う休止やウェブ発表を経て、4年ぶりに関係者や受賞者が一堂に集まる開催となった。

第11回静岡書店大賞の受賞を喜ぶ榛名丼さん(前列右から3人目)、宮島未奈さん(同4人目)、田中達也さん(同5人目)=5日午後6時、静岡市駿河区
第11回静岡書店大賞の受賞を喜ぶ榛名丼さん(前列右から3人目)、宮島未奈さん(同4人目)、田中達也さん(同5人目)=5日午後6時、静岡市駿河区
 児童書新作部門は、1位が田中達也さんの「おすしがふくをかいにきた」(白泉社)、2位がヨシタケシンスケさんの「メメンとモリ」(KADOKAWA)、3位が柴田ケイコさんの「パンダのおさじとフライパンダ」(ポプラ社)。児童書名作部門は、いわむらかずおさんの「14ひきのあさごはん」(童心社)が受賞した。
 授賞式には宮島さん、榛名さん、田中さんが出席した。「成瀬ー」は宮島さんのデビュー作。主人公の女子生徒「成瀬」にちなんだ野球ユニホーム姿で登壇した宮島さんは「故郷に錦を飾ることができてうれしい。成瀬がコロナ禍で生まれたキャラクターという事実は良かったとは思えないが、コロナ禍の悔しさ、悲しさ、戸惑いは読者と共有できた」と述べた。榛名さんの「レプリカー」は、県内を舞台にした青春ラブストーリーで第29回電撃小説大賞も受賞している。榛名さんは「小説には用宗や静岡駅、百貨店、動物園など静岡市民にとってなじみの場所が登場する。受賞が強い自信になった」と喜んだ。おすしを擬人化し、買い物を楽しむ写真絵本を創作したミニチュア写真家田中さんは「見立てを通して日常の中で楽しい発想を繰り広げてもらえたら」と期待した。
 同賞は8月末までの1年間に刊行された作品が対象。書店員434人、図書館員171人が投票した。県内書店と図書館では同日、受賞作を特集したフェアが始まった。
 〈2023.12.17 あなたの静岡新聞〉

【著者訪問】続編は「成瀬は信じた道をいく」

 琵琶湖に面する大津市を舞台に、型破りな発想と行動力を併せ持つ少女が躍動する「成瀬は信じた道をいく」。本屋大賞にもノミネートされ話題となった宮島未奈さん(富士市出身)のデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」の続編だ。

 前作は「200歳まで生きる」と公言する主人公・成瀬あかりの中学、高校時代を描き、今作では京大生になった成瀬が活躍の場を広げる。「執筆は毎日苦しいのに、生み出された物語のトーンが全く違うのが自分でも不思議」と宮島さん。
 成瀬は成績優秀でやりたいことにまい進し、他人の目を気にしない。幼なじみと漫才コンテスト「M-1」に出場したかと思えば、髪の伸びる速度を確かめるため高校の入学式に丸刈りで登校し、周囲を驚かせる。
 危なげなく京大に現役合格した彼女は、地元スーパーでアルバイトを始める。満を持して選ばれた「びわ湖大津観光大使」として精力的に活動するも、「探さないでください」と書き置きを残して、大みそかに姿を消す。
 成瀬に「弟子入り」した小学生や、クレーマー主婦らの視点で描いた連作短編集。読み進むうち、成瀬の底知れなさに目が離せなくなる。「天才肌だけど、成瀬には人の意見を聞き入れる柔軟さもある」。次回作は舞台を京都に移す考えで、「『前期3部作』として一区切りにしたいが、長いシリーズになるはず」と胸の内を明かす。
 子どもの頃から大好きな少年漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」の影響も挙げ、「周囲を自分の世界に巻き込むけど、最後に肯定される点はこち亀の主人公、両津勘吉と成瀬は似ているかな」。
 結婚を機に暮らし始めた大津市の地元情報を紹介するブログを続ける。「やめ時を見失っている」と苦笑しつつ、「庶民的と言われるが私は普通の主婦。そのマインドは変わらない」。ぶれない姿勢の向こうに、成瀬の背中が見えた気がした。
 (「成瀬は信じた道をいく」は新潮社・1760円)
 〈2024.3.17 あなたの静岡新聞〉
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