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【中山間地のアート】山の芸術はある種の違和感を楽しむ!? 静岡県内で増える広域アート展の魅力とは

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「中山間地の芸術祭」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年10月18日放送)

(山田)今日はアート展のお話ですね。

(橋爪)はい。掛川市原泉地区の茶工場や空き家を会場にした広域アート展「原泉アートデイズ!」が10月12日に開幕しました。6年目を迎えた今回は、原泉にとってアートは日常だという思いを込めて「交差する日常」をテーマに据えています。国内外の11作家の作品を9会場で展示していて、11月26日まで開催されています。

(山田)本題に入る前に、こういう街を舞台にしたアート展って、われわれはどういうふうに観たらいいのか教えていただきたいんですが。

(橋爪)今日は原泉アートデイズ!を入口に、山の芸術というキーワードでお話をしようと思ってるんですが、中山間地の芸術展を見るときには、ある種の違和感に期待するといいと思います。「こんな山の中になんでこんな作品が!」とか、「空き家に展示されている作品にぎょっとする」など、まずはそんなところからでいいのではないかと思います。

(山田)驚きとか違和感みたいなところから入っていいということですね。

スタンプラリーのように巡るのも一興

(橋爪)原泉アートデイズ!もそうなんですが、何カ所かにわたって何人もの作家の作品が置いてある広域アート展は、スタンプラリー感覚で会場を巡る楽しみ方もあると思います。実際にスタンプラリー的な仕掛けを用意している国際芸術祭も全国にはあるんですが、それがなかったとしても、自分の中でスタンプラリー的なものをイメージしながら1つ1つ巡っていくと楽しいですよ。

(山田)なるほど。そんな中、掛川市の原泉地区で行われたアート展についてですが。

(橋爪)原泉地区はすごく自然が豊かな地域です。人口は500人ぐらいで、少子高齢化と過疎が進んでいると言われています。新東名高速道の森掛川インターチェンジから車で20分ほど行ったエリアで、キャンプ場や温泉施設があることで知られています。

アート展の作品は、点在する集落の元茶工場やお寺、空き家、林の中などに展示されています。通常の美術館で作品を見るのとは全く違う体験ができます。一番の特徴は、入場料を払うのではなく、作品を観たときに自分の気持ちに従って寄付をするというシステムだという点です。

(山田)投げ銭的な感じ?

(橋爪)金額に応じて返礼品も用意されているので、クラウドファンディングのような感じもあります。私もいくばくかのお金を払って、このプロジェクトのテーマカラーのショッキングピンクの手ぬぐいを手に入れてきました。

原泉アートデイズ!は、現場に作家が滞在して作品を作る「アーティスト・イン・レジデンス」という手法が取られています。さらに特徴的なのは、1日が終わった夕食時は、滞在してる作家が一堂に会してご飯を一緒に食べるという点です。

(山田)「同じ釜の飯を食べる」的なことですか。

(橋爪)まさにそうです。土地からの影響に加え、アーティスト同士の横の繋がりでインスピレーションを得てできた作品というのもあるそうです。作品数は11点なので、1日あればじっくり観てもらえると思います。期間中はイベントやスペシャルユニットのパフォーマンスもあったりします。ぜひウェブサイトなどで確認してみてください。

(山田)どんなパフォーマンスがあるんですか。

(橋爪)国際的に活躍されているダンサーの松島誠さんが、家族と学校の跡地でダンスを披露するパフォーマンスというのもあります。

(山田)そういう身体表現もあるんですね。

島田・伊久美地区で上演された野外演劇

(橋爪)山の芸術ということでもう1つ紹介します。新東名高速道の島田金谷インターチェンジから30分ほど離れた島田市の伊久美地区で14、15の両日、アートひかりという団体による演劇が上演されました。

伊久美地区はお茶の産地として有名なんですが、作品は江戸末期から明治時代にかけて、この地でお茶がどう発展してきたかということを描いた群像劇です。藤枝市出身でアートひかりを主宰する演出家の仲田恭子さんは、今年の夏から伊久美地区に移り住み、演劇の創作に取り組みました。

これが素晴らしい演劇でした。野外で茶箱を積んだだけの非常にシンプルなセットで、出演する俳優は5人だけなんです。その5人で約100年間に及ぶドラマに登場する50人以上を演じ切っていました。伊久美地区が京都の宇治から煎茶の製法を学び、江戸の茶商との取引システムを整え、最終的に横浜港から海外に売れるようになるまでの物語でした。

ただ、全然堅苦しくないんですよ。ものすごいエンターテイメント作品で、笑いあり、涙あり。セリフのやり取りだけでなく、チンドンの演奏や落語、現代的な打ち込みの音楽を使ったダンスで表現するなど、とても工夫されていました。1時間40分と長い演劇だったんですけど、あっという間でした。

(山田)面白そう。それも違和感ですか。

(橋爪)ある意味で違和感ですね。舞台の向こう側に山並が見えますし、「チチチチチチー」というような鳥の声も聞こえてきました。夕暮れ時に始まったので、終演の頃にはすっかり辺りは暗くなってたんですが、虫の音も響いてました。

(山田)お茶の100年物語をそこで演じるというのは確かに違和感がありますし、楽しめそうですね。

(橋爪)静岡は中山間地を拠点にした芸術活動が増えているように感じます。例に出すと、2011年から始まってる島田市のささま国際陶芸祭があります。ここには、20カ国以上からアーティストが訪れています。大井川鉄道の無人駅や集落を舞台にしたUNMANNED無人駅の芸術祭/大井川も素晴らしいですよね。

今年の11月からは藤枝市の瀬戸ノ谷で、東伊豆町出身の美術家で、今は藤枝市に住んでいる楡木令子さんがフィンランド人のアーティストと一緒に複合的なアート展を開くと聞いています。中山間地を拠点にした芸術活動は今後、ますます増えていくのではないかとみています。

土地の文化が芸術家の感性を刺激する


(山田)アーティストにとって静岡の土地はいいのかもしれないですね。

(橋爪)静岡は中山間地を選ぶのに事欠かないんですよ。良くも悪くも過疎の地域では公的施設や民間も含めて空き家があります。創作に広い場所が必要なアーティストにうってつけなんですよね。

(山田)かつてそこには人の営みがあったという感覚が残ってるからいいんでしょうね。

(橋爪)自然環境だったり、今おっしゃったような人がいた証のようなものだったり、その土地ならではの文化というものが、アーティストにとって創作の素材になりやすいんですよね。

(山田)そういうことなんですよね。

(橋爪)最後にもう1つ、新潟県の山間部で2000年から開かれている「越後妻有 大地の芸術祭」に触れます。このイベントは広域アート展の1つの雛形みたいな捉え方をされています。総合プロデューサーの福武總一郎さんが昨年のガイドブックに一文寄せていて、それが自分としてはぴったり来ました。

福武さんはこの中で「日本人が古来から持っている、あるものを生かし、ないものを作るという考え方が発信できる」と言ってます。本当にその通りだなと思います。こういうアートプロジェクトを機会に、中山間地からの発信だったり、そこに来る人との交流の中から新しい世界が生まれることをこれからも期待していきたいなと思ってます。

(山田)アート展がきっかけで現地に行って美味しいもの食べたり、温泉につかったりとかいうことがあればより良いですよね。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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