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初の長編アニメ『白雪姫』から、プリンセス要素が薄まる2000年代まで!“ディズニー映画”の歴史を振り返る

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はディズニー映画についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

2023年はディズニー100周年ということで、記念の最新映画『ウィッシュ』の公開も控えています。実はここ30年ぐらいで、ディズニー映画が変化してきているので、そのお話をしようと思います。

人気が落ち込んだクラシック期からルネッサンス期の栄華

ディズニーが初めて長編アニメ『白雪姫』(1937年)を作ってから『眠れる森の美女』(1959年)を経て、1960年代一杯ぐらいまでが、初期の代表作が制作された時期ですが、 1970年代に入ると、人気は徐々に落ち込んでいきます。

70年代から80年代にかけては、ディズニー作品が“古くさい”印象になって、ブランド力がない時期だったんですね。ところがその後、経営者が変わったりして流れも変わります。

『リトル・マーメイド』(1989年)が面白かったことで、ディズニー作品が再び脚光を浴びるようになります。ここから1999年の『ターザン』ぐらいまでがディズニールネッサンスといわれる時期になります。『美女と野獣』や『ノートルダムの鐘』などもこの時期ですね。

この時期は、従来の手描きアニメーションの世界を守りながらも新しいことに挑戦した時期です。特に先日テレビ放送された『ノートルダムの鐘』は、その中でも一番ラジカルです。プリンセスが主人公ではなく、障害を持つ孤独な人間で、舞台もヨーロッパ。一部にCGの導入も行われ、すごく豪華絢爛な絵を作っています。

特に個人的に気にしてほしいポイントが2つあります。まず1つは音楽のアラン・メンケン。この方はディズニールネッサンス期のときの原動力になった人です。『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』もアラン・メンケンが曲を書いています。

もう1つは悪役のフロローの心理が細かく描かれているということ。聖職者で、完璧でなければいけないということゆえに悪になるというキャラクターなのですが、そういうキャラクターが出てきたのは初めてです。そのあたりから少しずつキャラクター像を変えていこう、アニメーション表現を変えていこうという動きがあるんですね。

“プリンセス”要素が減っていく2000年代

90年代に入るとCGアニメの時代が来ます。『チキン・リトル』はおそらくディズニーにとって初めてのCG映画。それが、やはり先日放送された『プリンセスと魔法のキス』(2009年)で一度手描きに戻ります。

これはカエルになったお姫様の話で、タイトルに“プリンセス”とつきますが、主人公はプリンセスではなく、レストラン経営を夢見る黒人の女の子。2000年代初頭あたりになると、プリンセスということだけでは、作品を押し切れない感じなってきているんですね。

例えば、2010年にCGアニメで『塔の上のラプンツェル』が出ますが、英題には「ラプンツェル」という名前すら入りません。プリンセスに子どもっぽいイメージがあったり、それによって作品のトーンを縛られるのを避けるために、お姫様のようなキャラクターが出てきても、そうじゃないというものを作る感じになっていったわけです。ちなみにこの時の原題は『タングルド』。絡み合った、といった意味です。

それから12月8日にテレビ放送がある『ズートピア』(2016年)ですね。こちらもプリンセスものではなく、肉食動物と草食動物が仲良く暮らしている街ズートピアで謎の疾走事件が起きる話。ウサギは優しいから警察官にはなれない、ニンジンでも作ってろ! といわれてしまう主人公のジュディと、キツネだからずる賢いんだろうと言われ、詐欺師をやっているニックが、お互いの中の偏見みたいなものと向き合うお話です。

『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)は特殊な能力(ギフト)を持った家族の話。主人公はギフトをもらえなかったミラベルという女の子。彼女は南米系だし眼鏡もかけてるし、いわゆるストレートなヒロイン属性じゃないキャラクターです。「我が家はこうあらなければならない」という信念を持ったおばあさんとの和解を描いています。プリンセス要素を減らして、普通の人の物語を描けないかというふうに変わってきたわけです。

もう1つ、ここ20年ぐらいの間に、舞台選びがすごく大事になってきています。『ミラベルと魔法だらけの家』は南米のコロンビア、『プリンセスと魔法のキス』はニューオーリンズでジャズが有名。『ミラベル~』はラテン音楽をフィーチャーし、『プリンセス~』はジャズを大きく取り上げており、地域性と音楽が密接につながっています。

一方で『ズートピア』は架空の街ですが、その街で小さい動物と大きい動物がいかに共存しているかを、アイデアを凝らして面白く描いています。そしてこの街の持っている魅力が、ガゼルという人気者によって歌として歌われています。

今後も変化し続けていくであろうディズニーが、何を作るのか楽しみですね。

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