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“模型の世界の首都”を自称する静岡。日本のプラモデルの歴史を振り返る

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「静岡と模型」というテーマでお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

静岡は“模型の世界の首都”と名乗っているわけですが、その言葉の通り、プラモニュメントといわれるプラモデルのランナー(パーツの周りをつないでいる枠)がついた状態の公衆電話があるなど非常にプラモデルを推している街です。今回お話しするにあたっては小林登さん著の『日本プラモデル六〇年史』と五十嵐光司さん著の『ロボットアニメビジネス進化論』を参考にさせていただきました。

日本でプラモデルが人気になるまで

世界初のプラモデルは1936年にイギリスのIMA社(後のフロッグ社)で作られ、日本には戦後に入ってきました。プラモデルは基本的にはスチレンという材料で作られているので、工業が復興し、化学プラントが建設されてそこでスチレンが作られるようになってからの出来事なんですね。その前から、アメリカにはプラモデルというものがあるらしいと、日本で木工の模型や玩具を作っていた人たちの間では知られていました。

60年代初頭のミリタリーブームで、少年漫画誌では戦艦や兵器などの特集が多くなり、それと時を同じくして静岡の木製メーカーであるタミヤ、ハセガワ、フジミ、今井科学、静岡教材社などが一斉にプラモデルに切り替えました。静岡は江戸時代から地場産業として木工製品が有名だったわけですが、そこで主に子ども向けの玩具や教材を作っていた人たちが、これからはプラモデルだ!となったわけです。

1966年にイギリスの特撮人形劇『サンダーバード』が放送され、大人気になると、木製の模型メーカーの一つだった「今井科学」がサンダーバードのプラモデルを作りました。作中に出てくるギミックも再現され、形状もとても出来栄えがよく大人気になりました。ちなみに同時期に『ウルトラマン』も大ヒットしていて、このころは特撮がアニメより強い時期だったんです。

ところが、この『サンダーバード』の大ブームの後、今井科学は倒産してしまいます。そして、残った工場とプラモデルの金型は、子ども向けに玩具を出していたバンダイに渡りました。バンダイ模型という子会社が作られ、それが今のバンダイホビーセンターとなります。

コレクション性があり、世界観が広がるプラモデルの世界

プラモデルには、いわゆるスケールモデルという、現実にあるものを模型化するジャンルがあります。中でも特に強いのが、船、飛行機、戦車などのミリタリー系です。

その一方で、例えば鉄人28号など、架空のものをプラモデル化したものは玩具度が高いです。ゼンマイボックスがついていて動くとか、本編に出てきたもので遊べるという感じですね。

1977年に『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版が大ヒットし、ティーンエイジャーのファンも増えたところで、翌年の『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』のときにバンダイ模型からヤマトの商品が出ました。

『ロボットアニメビジネス進化論』によると、これが初めてスケール表記されたアニメのプラモデルとのことです。戦艦ヤマトは260mくらいなのですが、メカニックモデルが1/700、50cmを超える大型モデルのキットが1/500というスケールで発売されました。これはもう完全に中学生以上がターゲットで、玩具要素はありませんね。飾って楽しむ、作って楽しむもの。本編の雰囲気もちゃんと再現できるのですが、これは高額商品でした。

その一方でいわゆる“メカコレ”といわれる、「メカコレクション」というシリーズもリリースされました。100円で『ヤマト』シリーズに登場する艦船が集められるものです。いろんな種類の艦船がラインナップされているので、コレクション性があって、並べると『ヤマト』という作品の世界観が実感できるんです。これがヒット商品になりました。

『機動戦士ガンダム』の放送当初はプラモデルは出ておらず、放送終了後の1980年7月から発売されました。この時、1/144というスケールで、ガンダムが「ベストメカコレクション」というラインナップのひとつとして、1個300円で発売されました。実はこの1/144のスケールは、最初から決まっていたわけではないそうです。300円で売るためのサイズがちょうど18mあるガンダムの1/144に近かったので、ならば1/144として販売しようとなったそうです。

この1/144はスケールモデルの世界でも採用されているスケールなので、他のスケールモデルの模型と並べることもできる。そうすると、『ガンダム』の世界がぐっとリアリティある存在として見えてきます。これが現在に至るまでガンプラの基本のスケールとして採用されることになります。ガンダムだけでなく、敵メカのザクなどもリリースされ、並べることでそこに『ガンダム』の世界が立ち上がる。ヤマトで始まった「スケール表記」「コレクション性のあるラインナップ」が『ガンダム』で全面展開をすることになったんですね。

今や、プラモデルというとガンダムが代表選手のようになっていますが、その基盤が作られたバンダイ模型という会社があったおかげで、静岡はプラモニュメントまで作られる“模型の世界の首都”となったわけです。

SBSラジオTOROアニメーション総研(毎週月曜日19:00~20:30 生放送・毎週日曜日15:00~16:30 再放送)全国のアニメ好きが集まるラジオの社交場。ニッポンのアニメ文化・経済をキュレーションするラジオ番組。番組公式X(旧Twitter) もぜひチェックを!

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