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2024年の干支・辰にちなみ、評価の高い傑作アニメ映画『わんぱく王子の大蛇退治』について話をきいた

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今年の干支である辰、ドラゴンは、実は意外と多くのアニメ作品に登場しています。辰年に因み、1963年に公開されたアニメ映画『わんぱく王子の大蛇退治』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

高評価だった東映動画の長編アニメーション作品

東映動画(現・東映アニメーション)は1958年から長編作品の公開を始め、紆余曲折しながら毎年1本ずつ作ってきました。そして5年経って作った『わんぱく王子の大蛇退治』はいろんな要素がカチッとはまった、非常に画期的で、評価も高い傑作でした。普通は短編作家のアーティスティックな作品が選ばれることが多い、毎日映画コンクールの大藤信郎賞を長編作品で初めて受賞したほどです。

お話は古事記の世界が舞台です。主人公はスサノオという少年で、お母さんのイザナミを亡くしたのですが、悲しみのあまり納得することができませんでした。そこで黄泉の国などいろいろ旅をし、最後は地上に降りてクシナダ姫を守るためヤマタノオロチと戦うというお話です。ヤマタノオロチを倒すと、地上に平和の国が現れて、空に虹がかかって終わるという日本神話の大まかな骨格を追いかけて話は進行していきます。

先ほどアーティスティックに評価されたという話をしました。大きなポイントは、スタッフみんなでどういう映画にしようかという話をしたときに、美術監督の小山礼司さんが、「マッスよりフォルム」というキーワードをおっしゃったことでした。マッスというのは対象の量感のことで、大雑把にいうと立体感のある、ある種のリアリズムみたいなニュアンスで使われています。それに対して小山さんはフォルム、シルエットの面白さで平面的な絵作りでいいんじゃないかという意見を言ったわけです。これが採用されて、平面的なグラフィカルなデザインのキャラクターになったのです。

また本作では、森康二さんが、日本アニメ映画史上初めて作画監督というポジションに立ちました。森さんは当時から尊敬されていたベテランアニメーターで、僕らの世代からすると「伝説の人」という感じです。この森さんが、全体のキャラクターのトーンをきちんと調整する作画監督に立つことで、映画全体の絵柄をそろえていきました。

それまでのアニメ作品とは異なる雰囲気が魅力

このように見どころが多い作品なんですが、やはりポイントはクライマックスの大蛇退治です。この作品の監督は芹川有吾さんという方なんですが、芹川さんは、アニメ業界の出身ではなく、新東宝という実写映画を手がけていた会社の出身なので、アニメーターとは少し違う感覚を持っていて、それが戦闘シーンの演出の編集などに現れています。

最後のクライマックスに出てくるヤマタノオロチには頭が8個ありますが、伝統的な東洋の龍の顔を参考に8個それぞれに違うデザインがされていて、その口から火を噴きます。この長い首を持ったヤマタノオロチと、空飛ぶ馬アメノハヤコマに乗ったスサノオが空中戦を繰り広げるのです。

ここの画面はかなり怪獣映画のような感じです。それまではわざと平面的に画面を作ってきたのに、ここだけは奥行きがあったりカメラも激しく切り替えたりと、大空中アクションになっています。大塚康生さん、月岡貞夫さんという2人の名アニメーターが若き日に手掛けた、アニメ史に残る戦闘シーンのひとつですね。

音楽はゴジラの音楽を作った伊福部昭さんなので、最後は本当にほぼ怪獣映画のようです。もともと伊福部さんは日本の土着の音楽をベースにいろんな作曲をされている方なので、日本神話の世界ともすごく相性がいいし、実際実写映画でも『日本誕生』という映画の音楽を担当されているので、そういう意味では本作の音楽を伊福部さんが担当するのは必然だったといえるでしょう。

美術的なグラフィカルなセンスの良さ、音楽、日本神話という題材、そこにプラスされたクライマックスのアクションの面白さがあり、『わんぱく王子の大蛇退治』は60年経っても色褪せない傑作として存在しています。興味を持った方はぜひ見てみてください。

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