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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

「藤枝MYFCのサポーター、大好きなので」“昇格ライバル”ジェフ千葉の中盤に君臨するMF横山暁之の思い

藤枝MYFCから千葉に移籍した横山暁之(手前右から2人目)


Jリーグの新シーズンが開幕した。J2は20チームの構成となり、”静岡県勢”の清水エスパルスと藤枝MYFCは、自動昇格の2枠と昇格プレーオフの勝者に与えられる3つ目の枠をかけて、全国に散らばるライバルたちとしのぎを削っていく。その中でも、多くのメディアで昇格の有力候補の1つにあげられているのが、ジェフユナイテッド市原・千葉(ジェフ千葉)だ。

昨シーズンは6位で昇格プレーオフに進出したが、1回戦で東京ヴェルディに敗れた。小林慶行監督が2年目となる今シーズン、千葉の戦力はさらにアップしている。J1に昇格したジュビロ磐田からMFドゥドゥ(千葉での登録名はエドゥアルド)、栃木SCの守護神だったパリ五輪世代のGK藤田和樹などが加わり、昨シーズン14得点のエース小森飛絢を筆頭として、攻守に組織的なサッカーを展開する。

横山「須藤さんに僕の人生を変えてもらった」

そしてJリーグの”オリジナル10”でありながら2010年以降、J2に居座る千葉を16年ぶりのJ1に導く重要なピースになり得るのが、藤枝から移籍したMF横山暁之だ。

東京ヴェルディのアカデミーで育った横山は北陸大学を卒業したが、当時どこにも所属先が無く、そのまま大学のセカンドチームで、コーチ兼任選手としてプレーしていた。

そんな横山が1年越しで、プロのキャリアをスタートしたのが、J3に加盟したばかりの藤枝だった。しかし、1年目は全く公式戦に絡むことができなかった。

藤枝MYFC時代の横山暁之

2年目の2021年7月に須藤大輔監督が藤枝にやってきたことが、横山の転機になった。横山は「須藤さんには僕の人生を変えてもらいました。須藤さんがいなかったら今の僕はない」と語る。

「今は須藤さんと毎日顔を合わせる状況ではないですけど、藤枝のニュースはいつも自分の中で一番チェックしてます。藤枝の選手が頑張ってるという記事を見るだけで、もっとやらなきゃなと思う。

須藤さんは一つひとつの言葉にパワーがある。やっぱり藤枝のメンタリティは須藤さんが作ったと思うし、それは藤枝からJ1のクラブに移籍した(久保)藤次郎も(渡邉)りょうも持ってると思う。彼らにも負けられない」

千葉でも存在感そのまま

横山は元々テクニックに自信を持っていたが、須藤監督のもとで勝利のために今何が必要かを考えて判断するビジョン、何よりも戦う姿勢を学んだ。藤枝のファンサポーターには説明する必要もないが、横山のその意識は新天地の千葉でも変わらずに持ち続けているようだ。

「上手い選手でも、プラスアルファ走れないといけない。毎試合、チームの中で3番以内の走行距離は出したい。走行距離がすべてじゃないですけど、気持ちの部分でも負けないように」

横山は千葉にとっての伝統的なプレシーズンマッチである、柏レイソルとの”ちばぎんカップ”にスタメン起用されて、最初は4−2−3−1のボランチ、途中から風間宏矢に代わり”10番ポジション”とも呼ばれるトップ下でプレーした。

千葉では16番を背負うが、攻撃における存在感は藤枝の頃のままだ。その試合は2−0で千葉が勝利した。

「(二つのポジションで)もちろんタスクは変わってくるので、ポジションチェンジした直後は多少やりづらさもあります。けれど、その中で両方できれば自分の可能性も広がるし、どっちが得意とか苦手とかはない。別に何も感じてないです。より長くピッチ上でプレーしていたい」

そう自信を明かす横山に、藤枝にとってライバルである千葉に移籍した理由を聞くと「もちろん藤枝でこの先もプレーするというのは自分の選択肢の中でありました」と切り出しながら、移籍に込めた思いを語ってくれた。

「須藤さんと一緒に目標を掴みたいという思いは強かったんですけど…。より自分がチャレンジャーでいられる環境というか、誰も知り合いがいないところで、スタメンを掴み取るところまで這い上がっていくメンタリティというか。千葉に移籍した方が、そういったメンタリティになれると思った」

そして移籍の際には、小林監督からも「ジェフを昇格させた一人になれるチャンスがある」という言葉をもらった。「自分はなかなかうまくキャリアを積んでこられなかった。選ばれなかった回数のが方が多い」というサッカー人生の中で、外から必要とされることに対する喜びは大きかったようだ。

それでも藤枝に対する強い気持ちは消えていない。

「藤枝のニュースはいつも自分の中で一番チェックしてますし、藤枝の選手が頑張ってるという記事を見るだけで、もっとやらなきゃなと思う。自分が大好きな藤枝を選ばずに、他に来たという意味でも、藤枝に残っている以上に成長しなきゃいけない。まだまだ、もっとやっていかなきゃなって思います」

静岡県勢の藤枝MYFCと清水エスパルスにとって、強力なライバルの中心選手となっていきそうな横山だが、目標はもっと先にある。そのために、千葉でもチームのために頑張るだけではなく、個人としてのギラギラは常に持ってチャレンジしていきたいという。

そんな横山に「藤枝のサポーターに”横山は藤枝が育てた”と胸を張って言ってもらえるようにしたい?」と聞くと、力強く頷きながら笑顔で答えてくれた。

「藤枝のサポーター、どこに行っても大好きなので。僕は」

<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
 
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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