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【今、とろろ汁が熱い!】自然薯と合わせる「だし」に地域色あり。観光資源として注目度も上昇中!大学の研究室が発表したマップが面白い

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「今、とろろ汁が熱い!」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年3月19日放送)

(川内)今日のテーマは「今、とろろ汁が熱い!」です。

(山田)とろろ汁は冷まして食べるんじゃないですか?(笑)

(川内)よくご存知ですね!とろろ汁はだしととろろを合わせるんですが、だしは粗熱を取っておくんですよ。家庭ごとにルールがあると思いますが、うちの母親には小さい頃に「とろろ汁を作るときには冷ましておくんだよ」と言われていて、それをずっと覚えています。そうしないと、とろろの風味と粘りが落ちてしまうんです。

(山田)なるほど熱々ではいけないんですね。ところで、なぜ今とろろ汁が熱いんでしょうか。

(川内)とろろ汁は、自然薯をすりおろし、だしで伸ばしたもので、ご飯や麦飯にかけて食べるのが一般的です。磐田市にある県立農林環境専門職大の前田節子教授の研究室は昨年、県内各地のとろろ汁の食べ方を紹介する「ふじのくに『とろろ汁さがし』マップ」の第1弾を発表し、今月上旬には最新版を発表しました。

(山田)「とろろ汁さがし」マップ。面白そうですね。

(川内)前田教授の研究室は各地のとろろ汁を食べ比べるワークショップなども開いていて、この研究室の積極的な発信で、食文化としてのとろろ汁への関心が高まっています。

(山田)今日、番組が始まる前に福井県出身のスタッフにとろろ汁を食べるかを聞いたら、年に1回は食べないと言っていました。静岡県内の家庭であれば、年に1回か2回は食卓に出るんじゃないですかね。

(川内)例えば自然薯の産地であるかや、だしを使える環境にあるかなどが影響しますよね。とろろ汁は家庭の料理なんですが、ある意味でハレの日の食べ物とも言えます。家族団らんの中で食べるとか、近所の人たちと集まってとろろ汁を囲むとか、ある種のコミュニケーションツールとして、人と人をまさに粘り強くつなぎます。

(山田)今、手元に「ふじのくに『とろろ汁さがし』マップ」がありますけど、面白いですね。

サバ、イセエビ、シイタケ、黒はんぺん…。使われるだしは多種多彩!

(川内)これは本当に前田研究室の力作なんですけど、東西に長く、海あり山ありの静岡県では各地にさまざまなとろろ汁があります。マップを見てまず驚かされるのは、地域色豊かな多彩さです。私は中部の出身で、振り返るとうちではだしはサバの味噌仕立てでした。

(山田)掛川辺りもサバ味噌だと聞いたことがありますね。

(川内)中部でも静岡市の方に行くと、割とカツオの醤油だしだったりします。思い返すと、子供の頃は私がすり鉢を持って押さえる役で、父親がだしを取ったサバの身をほぐしてだしと一緒に入れてすりこ木ですりつぶしていた記憶があります。

マップを見ると、伊豆ではイセエビやサンマ、西部ではボラやハゼなどが使われている地域があります。川沿いではアユの焼干しも良く使われています。最新版では中山間地の食べ方の紹介にも力を入れていて、川根本町では黒はんぺんをだしに使っているとろろ汁があるそうです。

(山田)川根で黒はんぺんですか?

(川内)これは、かつて海辺の行商の人が大井川をさかのぼって運んだ海産物の中に黒はんぺんもあったことに由来するとのことです。今でも、自然薯の季節には千頭駅近くのカフェで実際に食べられるそうです。

(山田)そうなんですか。中山間地にはシイタケだしもあるんですね。

(川内)山のものを使っているということですね。前田教授は長野県出身なんですが、先日電話でお話を聞いたら、地元では魚が採れないので煮干しを使っていたということでした。だしの素材は基本的に地産地消で、買わないで済むものを使ってきたという生活の知恵も感じます。味付けも、みそと醤油があります。

マップではとろろ汁を使ったシフォンケーキも紹介していて…

(山田)んん!?

(川内)もちもちとした食感と魚の風味、甘さが非常にマッチするようですよ。

(山田)へえー。このマップを見てるだけでも食べたくなりますね。

とろろ汁文化を支える「農試60号」とは?

(川内)本当にそういう気持ちになりますよね。このとろろ汁を支えているということで忘れてはならないのが、昔から伝わる在来の自然薯から選抜した「農試60号」です。

(山田)「農試60号」?

(川内)農試はかつての県農業試験場(現在は県農業技術研究所)の略で、県内から集めた100を超える野生の自然薯の中から、粘りや香りが際立っていたので選ばれて、栽培が広がりました。

これも前田教授に聞いたんですが、60号というのは品種名が付く前の「系統」と呼ばれるものの番号で、一気に広がったために系統番号のままの名前になっているそうです。

(山田)普通は何らかの名前が付きますよね。お米で言えばコシヒカリとかいろいろありますけど。

(川内)「農試60号」は粘り強さと香りのほか、きめ細やかな食感も特長で、県内の産地としては牧之原市が知られています。

(山田)牧之原か。

(川内)温暖な気候と水はけの良い土壌が適しているようです。前田教授も「農試60号」がどう県内に定着したかを調べる中で、とろろ汁の多様さを知り、とろろ汁にかかわるきっかけになったと話していました。

(山田)なるほど。X(旧ツイッター)の方にもリスナーさんから「祖母の家の正月の定番料理だった」とコメントが来ています。

(川内)前田教授の家では正月の2日に家族で囲んで食べていたとのことです。

(山田)静岡市に住んでるわれわれからしたら、やはり丸子が有名ですよね。

(川内)そうですね。県内でとろろ汁が名物といえば、東海道丸子宿です。古くから、弥次さん、喜多さんで知られる十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」や歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」などに登場します。

東海道中膝栗毛ではどのような場面があるかと言うと、とろろ汁のお店の夫婦が喧嘩をして、亭主がすりこ木で叩けば、女房はすり鉢を投げて応戦。そこら中にとろろ汁がこぼれて広がり、亭主と女房、仲裁に入った近所のおかみさんも足を滑らせて転ぶ、という愉快な描写があります。

しにせのとろろ汁のお店も知られています。自然薯は滋養強壮の効果が知られ、東海道の峠を越える旅人たちの疲れを癒やしてきたのでしょう。

(山田)静岡県内でとろろ汁が広まっているのは、この東海道の宿場町が大きく関わってるということですよね。

(川内)そこは大きいですね。東海道の旅人を惹きつけたでしょうし、疲れを癒すという意味で、とろろ汁を出す宿やお店が街道筋に多かったんじゃないでしょうか。もちろん、家庭の中での食べ物という形でもいろいろな地域で受け継がれているのだと思います。

奥深いとろろ汁の世界をさまよってみよう!


(山田)そんなとろろ汁ですが、静岡県の食文化ということですよね。

(川内)今、観光としてその土地ならではの食文化を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」というものがあり、とろろ汁はその活用という点でも注目されています。

地域の風土に根ざした個性があり、そこに行って味わいたいと思わせる力強い食べ物だと思います。素材としてのポテンシャルは高いですし、私もマップを見て、思わず全制覇したくなりました。

(山田)本当に制覇したくなりますね。

(川内)主だったものはマップにレシピが書いてありますし、家庭で作ることができます。あるいは旅に出れば、現地の店で提供しているものもあるそうです。地域によっていろいろな変化が楽しめると思います。

最近ではすりこ木やすり鉢がないという家庭もあるかもしれません。その場合はおろし金やフードプロセッサーを使ったり、冷凍のとろろを活用したりしても良いかと思います。みなさんにもぜひ、奥深いとろろ汁の世界をさまよっていただきたいですね。

(山田)話を聞いてとろろ汁を食べたくなりました。今日の勉強はこれでおしまい!

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