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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

パリ五輪の最終予選に向けて大岩ジャパンでアピールした選手は?佳境を迎えたサバイバルの行方は?


大岩剛監督が率いるU-23日本代表は3月22日に京都でアフリカのマリ、25日に北九州でウクライナと対戦した。すでに五輪出場を決めている両国との対戦で、マリには1−3で敗れたが、ウクライナに2−0と無失点勝利。4月15日に開幕するパリ五輪最終予選のU-23アジア杯に向けて有意義なシリーズとなった。

今回、元清水の鈴木唯人(ブレンビー)をはじめ、この世代の中心的な選手として期待される何人かの”欧州組”が外れたことに、疑問のあるファンもいるかもしれない。理由はカタールで3週間にわたって行われるU-23アジア杯が、いわゆるIMD(インターナショナルマッチデー)ではなく、その期間のリーグ戦に出られなくなってしまうから。Jリーグのクラブからは全面的な協力を得ることで合意しているが、海外とは個別の交渉になる中で、招集が難しいという判断だろう。

A代表に招集されている久保建英(レアル・ソシエダ)と鈴木彩艶(シント=トロイデン)はもちろん、本来は鈴木唯のほかにオランダの斉藤光毅(スパルタ)と三戸舜介(スパルタ、JFAアカデミー福島出身)、佐野航大(NECナイメヘン)、スコットランドの小田裕太郎(ハーツ)などが有力候補になる。そうした選手たちを呼べない状況でも、アジアカップを戦いぬき、アジアで3枚しかないパリ五輪の切符を勝ち取る期待は十分にあることを感じさせる。

町田のスピードスター平河が猛アピール

今回の2試合で猛アピールした一人が平河悠(FC町田ゼルビア)だ。マリ戦で唯一の得点を決めた平河はウクライナ戦でも途中出場して、攻守に渡る存在感を見せた。4−3−3を採用する大岩ジャパンで、マリ戦は左サイド、ウクライナ戦は右サイドでプレー。「相手を見てプレーすることや、個人的な仕掛けとコンビネーションの使い分けは意識した」と語る平河は、左右どちらも違和感なくこなせると主張する。

攻守で存在感を放った平河(20)


「正直、フィジカルのところはJリーグより強さを感じたし、この2試合の国際試合でも削られることが多かった。結構、踏まれたりして痛かったですけど(苦笑)」。そう振り返る平河だが、より早く良いポジションを取ってボールを受け、前を向いて仕掛ければ、こうした相手にも十分に通用することも実感できたようだ。

左サイドにはウクライナ戦で先制点を決めた佐藤恵允(ブレーメン)、右サイドにはセットプレーの左足キッカーを担う山田楓喜(東京ヴェルディ)がいるが、斉藤や三戸の招集が難しいチーム事情がある中で、J1で首位を走る町田のスピードスターの存在は大岩監督にとっても心強いはず。

攻撃面を意識した植中(JFAアカデミー福島出身)

中盤では植中朝日(横浜F・マリノス)と荒木遼太郎(FC東京)がU-23アジア杯に向けてアピールした。二人とも4−3−3のインサイドハーフだが、植中は本職がFW、荒木はいわゆる10番タイプの選手であるため、もう一人のインサイドハーフがボランチ気味になることが多い。大岩監督も、そうなることを想定して中盤を構成しているようだ。

植中はマリ戦でチームキャプテンの山本理仁(シント=トロイデン)、荒木は同僚でもある松木玖生(FC東京)と組んだが、植中も荒木も前目で攻撃に絡み、守備も彼らが前に出ることで、4−4−2のような形で相手にプレッシャーをかけていく時間帯が多かった。

メンバー入りへアピールを続ける植中


JFAアカデミー福島の出身で、中学時代を静岡県で過ごした植中は昨年アイスタ日本平で行われたアルゼンチン戦に、追加招集でメンバー入り。大岩監督からは守備のハードワークを高く評価されたようだが、マリ戦はそこは大前提として攻撃面でのアピールを心がけて臨んだ。

得点はできなかったが、マリ戦でスタメン、ウクライナ戦でも松木に代わり、後半途中から投入されて田中聡(湘南ベルマーレ)、ゲームキャプテンの藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)と組んで、2−0勝利に貢献した。

鈴木海音(ジュビロ磐田)の現在地

ディフェンスラインではウクライナ戦でセンターバックのコンビを組んだ馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)と鈴木海音(ジュビロ磐田)の奮闘が目立った。鈴木海はここまで磐田で公式戦の出場チャンスを得られていないが、「失うものは何もないと思って。ここでビビってたら、これから何の成長もないし、(磐田で)出てないからこそチャレンジすることは意識していた」と振り返るように、攻守で積極性を押し出して持ち味をアピールすることに成功した。

センターバックは昨年のアジア競技大会から這い上がってきた馬場と”大岩ジャパン”の常連でもある鈴木海、そしてマリ戦に先発した西尾隆矢(セレッソ大阪)、高井幸大(川崎フロンターレ)を合わせた4人が、そのままカタールに行くと見られるが、鈴木海にとってはパリ五輪までのサバイバルに向けて、改めて磐田でポジションを掴むことが必要になりそうだ。

関根大輝(静岡学園高校出身)の台頭

最終ラインでは左右のサイドバックも良い意味で競争が激しさを増している。特に右は半田陸(ガンバ大阪)と内野貴史(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)に加えて関根大輝(柏レイソル、静岡学園高出身)が台頭し、大岩ジャパンの中でホットゾーンになっている。馬場と同じアジア競技大会のメンバーだった関根は柏で開幕スタメンを掴み、ここまで存在感のあるプレーを見せていることが、大岩監督の評価を高めていると考えられる。

187センチと大柄だが、静岡学園で磨いたテクニックはビルドアップ、高い位置での仕掛けの両面に生かされている。サイドラインでの1対1の強さはもちろん、ゴール前で体を張れることもアピールポイントだ。

滑り込みで代表入りを狙う関根


そしてライバルとの違いは攻守のセットプレーで絶大な力を発揮できること。ウクライナ戦でも荒木のCKにニアで合わせ、クロスバーに嫌われたが、跳ね返りを佐藤が押し込む形でゴールが生まれた。

まずはU-23アジア杯に臨む23人に選ばれ、カタールの地でパリ五輪の切符を勝ち取ることがノルマになる。パリ五輪のエントリーは18人で、しかもオーバーエイジ(五輪の男子サッカーでは3人まで、24歳以上の選手の招集が可能)が入ってくることを考えればサバイバルは熾烈だ。3月シリーズに招集されなかった有力候補としては静岡学園高の出身である松村優太(鹿島アントラーズ)らもいるが、まずは4月4日に予定されるU-23アジア杯のメンバー発表を待ちたい。
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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