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【飛ばないバットで野球は変わる?】長打が減ることで戦術にも影響が!なぜ基準を変える必要があったのか?運動記者がルール変更の背景を解説します

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「飛ばないバットで野球は変わる?」。先生役は静岡新聞運動部の寺田拓馬専任部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年3月28日放送)

(山田)きょうは春の甲子園の話題ですね。

(寺田)この春の全国選抜高校野球大会から反発力を抑えた新基準の金属製バット、いわゆる「飛ばないバット」が完全に導入されました。これによって野球がどう変わるのかが注目を集めています。

私も中学生までは野球をやってたいんですよ。高校はサッカー「校技」の藤枝東高に行って、バトミントン部に入りましたけど。

(山田)寺田さんもいろいろとかじってますね。

(寺田)山田さんのようにバスケットボールの市の選抜とかには選ばれてはいませんけど、チームでは主軸打者でした。ポジションも内野、外野、ピッチャー、キャッチャーとほぼすべて経験しました。

(山田)野球少年だったんですね。

(寺田)この春の甲子園大会には残念ながら静岡県勢は出場していないので、夏の活躍を期待したいところです。ところで、山田さんは今回の甲子園大会でいわゆる「飛ばないバット」が使われているということをご存知でしたか?

(山田)野球好きのスタッフから聞いていました。ただ、野球はバットやボールなどの道具が結構変わるイメージなので、その流れなのかなと単純に思っていました。

(寺田)実はこれまで2年間の移行期間がありました。日本高校野球連盟が定めた金属製バットの新基準は従来品と比較して最大径を67ミリから64ミリと細くし、打球部の肉厚を3ミリ以上から4ミリ以上と厚くしました。反発性能を抑制したことで、打球初速が遅くなったんです。

(山田)ほう。だから飛ばないんですね。

(寺田)そうなんです。さきほど山田さんがおっしゃった通り、実はバットの基準改正は過去にもありました。

(山田)そうですよね。

(寺田)2001年にも打球が飛び過ぎるとの批判から、重量を900グラム以上にするという基準を定めました。ただ、選手の大型化や肉体強化により、効果がすぐに薄れてしまいました。

(山田)少し重くしたけど、あまり意味がなかった?

守備力や機動力重視の戦術が主流に!?

(寺田)そうなんです。静岡県内では現在、春季大会の県予選が行われているんですが、取材した同僚記者によると、本当に飛ばないそうです。

県内の高校関係者は「真芯で捉えれば打球は飛ぶが、多くは外野で失速する。長打がなくなると外野は前に守るので、二塁に走者がいてもヒット1本でホームに帰って来られない」と話しています。

(山田)なるほど。

(寺田)「当てにいくと芯でも外野をオーバーしない。強く振らないと本当に飛ばない。詰まったら内野フライになってしまう」という声もあります。

(山田)そうなると、技術が必要なんですね。

(寺田)そうなんです。戦術を考える必要がある、つまり「野球が変わる」などと反響を呼んでいます。

(山田)見てるファンからしたらホームランが出て欲しいんじゃないんですか?

(寺田)そうですね。確かにホームランは花形です。ただ、飛ばないバットの導入で、長打で一気に大量得点することが難しくなったため、内外野の守備力、盗塁やヒットエンドランなど足を使った機動力が重視されるようになり、1点を争う接戦が増る傾向が出ているそうです。

(山田)細かい技術の部分が求められてくるわけですね。

(寺田)本来の野球はそういうところにあると思います。では、なぜ飛ばないバットに変えたのだと思いますか?

(山田)ホームランが出すぎてしまうからですか?

基準変更は投手を守ることが理由

(寺田)一番はピッチャーの受傷事故防止です。ピッチャーは打者から近いので、ライナーで速い打球が来るとけがをする恐れがありますよね。

(山田)ほう。まずは危なくないようにするということですか。

(寺田)さらに、ピッチャーは肩、肘を壊しやすいんです。肩、肘は「消耗品」とも言われます。メジャーリーグの大谷選手も肘の手術を受けましたが、ましてまだ体ができあがってない高校生以下のピッチャーであればなおさらです。

長打を警戒するあまり、際どいコースを狙いすぎて球数が増えたり、無理に変化球を投げたりすると肘や肩を壊す危険が増します。飛ばないバットに変えれば、ピッチャーの肩、肘の故障を未然に防止することができます。

(山田)投げる球数の制限も出てきていますもんね。

(寺田)打高投低が進みすぎると、野球が面白くなくなるという見方もあります。接戦が増えると、先ほども言ったように攻撃も守備も戦術を工夫しないといけない。打者も筋トレでスイングスピードを上げるだけじゃなく、打球を芯に当てて飛ばす技術を磨く必要があります。ある意味、選手の成長を促す効果もあるのではないかと思います。

(山田)先ほどまでは飛ぶバットのほうがいいのにと思っていたんですけど、飛ばないバットを使うことも悪いことではないんですね。

野球だけじゃない規格の変更

(寺田)そうなんですよ。実は同じようにゴルフもボールの規格が変わるんですよ。

(山田)プロゴルフですか。

(寺田)ゴルフはメートルの約9割換算になる「ヤード」という距離の単位を使うんですが、今やドライバーの飛距離で300ヤードは当たり前の時代になっています。国内でも男子プロで平均飛距離が300ヤードを超える選手がいます。

ボールの規格が変わるのはプロとトップアマだけですが、2028年に20年ぶりに変更されます。

(山田)へえー。

(寺田)なぜなのかという話ですが、伝統ある名門コースはかなり昔に作られているので、300ヤードも飛ばされてしまうと狭くて距離が短すぎるという事態になってしまうんです。

(山田)確かに。環境面のこともあって新しいゴルフ場ができたという話はあまり聞かないですもんね。

(寺田)ゴルフコースは敷地に限りがあるから簡単に広げられないですよね。選手が昔より
1.5倍ほど飛ばすようになってきたのに対し、コースの距離は決まっています。その中で競技をしなければならないという理由がまずあります。

(山田)面白いですね。

(寺田)4打以内でのカップインを目指すミドルホールでは、第2打でグリーンにのせるのがこれまでの設計だったんですが、飛ばす選手だと1打でグリーンに届いてしまう可能性が出てきます。要するにボールが飛びすぎると、これまでの計算が合わなくなってしまいます。

(山田)いや、その話すごく興味深いですね。

(寺田)ボールがコース外に出てしまうという危険もあります。実際に最近のゴルフ練習場、いわゆる「打ちっぱなし」では、打球がフェンスの上を越えて外に飛び出す事故が県内でも頻発していて、実際の規格より飛ばないボールに変えている練習場もあります。私の自宅の近所にも3箇所ほどゴルフ練習場があるんですが、ここ5年くらいで軒並み飛ばないボールになりました。

(山田)練習していて飛ばないと感じるんですね。

(寺田)ドライバーは「男のロマン」と言う人もいまして、飛ばすことの爽快感が減るのに反対の声もあります。一方で、ゴルフは飛ばしっこ競争ではなく、技を競うものだということで、ボールの規格変更は必要という声は多いんです。

(山田)ルール変更で面白いのは、時代がスポーツを追い越し、そこにスポーツがまたついてくるというような感じがするところですね。

(寺田)現状は飛ぶ人に有利すぎて、パワーだけでスコアが出てしまいますからね。ところで、ゴルフ競技ではバッグにクラブを何本まで入れていいか知ってますか?

(山田)決まりがあるんですか。僕はほぼ7番アイアンで回りますからね(笑)。初心者は7番だけ持てといいますから。でも、皆さんは細かくクラブを変えますよね。パターやサンドウェッジなどを含めると12本?

(寺田)惜しい!14本です。ドライバー、ウッド、アイアン、アプローチウェッジ、パター。これを組み合わせて自分で14本を選び、残り飛距離やボールがある場所の状況などを判断して使い分けます。

ラウンドするとすべてがうまくいくということはなかなかないです。ドライバーがいいと、アイアンがだめだったり、パターが入らなかったり。つまり、ドライバーで飛距離が出て、あまりクラブを使い分ける必要がないという話になってしまうと、ゴルフ本来の形と違ってきてしまうんですよね。

(山田)楽しみ方も変わってしまいますね。

(寺田)そうなんです。ゴルフでプロ中のプロを例える時、「名手」という言葉がしっくりきます。パワーだけだと「名手」はしっくりこない。いろいろなクラブ、ショット、パットの技を使いこなさないと「名手」とはいえないのではないかと思います。

(山田)道具、技術、ルールがかみ合うとスポーツは面白くなるということですね。

ルール変更は競技を面白くすることにもつながる!


(寺田)最後に、スポーツにはなぜルールがあるのかを考えてみたいと思います。

(山田)なぜスポーツにルールはあるのか。

(寺田)さまざまな意見があると思いますが、まずは安全性ですよね。飛ばないバットでピッチャーを守るとか、ゴルフで打球事故を防ぐとか。もう一つは公平性とか平等ということです。

野球のピッチャーとバッターの関係が対等でないと面白くないですよね、ゴルフのパワーヒッター偏重ではやはり面白くなくなる。公平性ということが必要なんです。

ルールを守らないというのは無法地帯と同じで競技が成り立ちません。ルールを守るということは、互いを尊重するというスポーツマンシップが前提なんです。

さらにもう一つ理由があります。

(山田)分かった!より楽しむためですか?

(寺田)そうです。競技を面白くするためなんです。競技に関わる人すべてのためです。もっと言えば、今だけじゃなく将来にわたってその競技が発展していくとか、みんなが楽しめるということのためにルールが変わっていくんです。

ルールは絶対守らないといけないですが、競技を面白くするために実は常に変化しているんです。

(山田)なるほど、変わっていくからこそ面白くなるということですね。「飛ばないバット」というテーマから、そんな話になるとは思いませんでした(笑)。今日の勉強はこれでおしまい!
シズサカ シズサカ

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