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【国際子どもの本の日】アンデルセンの誕生日に合わせて世界各地で本のイベントが。制定の歴史や意義を知ると、もっと絵本が読みたくなる!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「国際子どもの本の日」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年4月2日放送)
 
(山田)今日の静岡新聞の大自在でも取り上げられていましたけども、4月2日は「国際子どもの本の日」なんですね。

(橋本)記事にもあった通り、国際児童図書評議会(IBBY)という組織があります。1953年に、子どもの本を通して国際理解を進めるという目的を掲げてスイスで創設された世界的なネットワークで、本部は今もスイスにあります。日本を含めて約80の国と地域に支部があり、日本にも日本児童図書評議会(JBBY)が1974年に設立されました。国際子どもの本の日は、デンマークの童話作家アンデルセンの誕生日にちなんで1967年に制定されました。

(山田)理念として、どういうことを持っているんですか。

(橋本)子どもの本を通して国際理解を進めることに加え、どんな場所にいる子どもたちも文学的、美術的に質の高い本に巡り会えるようにすること、世界中で優れた子どもの本の出版や普及を奨励することなどのミッションを掲げて活動しています。

(山田)具体的な活動としては、どういうことをやっているんですか。

(橋本)例えば、「児童文学への永続的な寄与」という功績を対象にして、隔年で作家や画家を対象に表彰する「国際アンデルセン賞」という賞を主催しています。「小さなノーベル賞」とも言われ、国際的にはとても名誉のある賞で、日本人も何人か受賞していますが、日本ではまだあまり話題になっていないようです。ほかにも、世界各国の評議会が選出した優秀な児童文学作品のリストを発行したり、ブックバードという機関紙を発行したりしているそうです。

「国際子どもの本の日」の制定も、毎年これを祝って啓発に役立てるという、活動の一つです。

(山田)絵本も入るんですか。

(橋本)そうですね。児童書ということで、絵本も入ります。

(山田)僕も娘にめちゃくちゃ読み聞かせをしています。いいなって思う本は子供も「もう1回読んで」と言いますし、しまいには3回も4回も「読んで」と言われます。

(橋本)いいと思います。子どもはすぐに理解ができないこともあるので、繰り返し読んでいくことでその子の理解が深まったり、何回か読んでいるうちに新しいことを感じたりすることもあると思うんです。

(山田)4月2日は「国際子どもの本の日」ということですが、この日に関しては何か特別な活動があったりするんですか。

(橋本)世界の各支部がキャンペーンを展開したり、児童図書に関するイベントを行ったりしています。日本の場合、JBBYのホームページによると、3月に東京で「JBBY子どもの本の日フェスティバル」が、「国際子どもの本の日」を前に行われたということです。「世界の子どもの本展」という展覧会も東京で始まるそうです。


静岡新聞の過去記事をさかのぼってみたところ、昨年4月の記事には、県東部の公立図書館で、この「国際子どもの本の日」に合わせたアンデルセンの作品展示や本の貸し出しなどのイベントをやったことが出ていました。全国でも、そうしたイベントを開く図書館などがあるようです。

(山田)もしかしたら皆さんお近くの図書館調べてみると、「国際子供の本の日」に関するイベントをやっている可能性もありますね。

ことしは角野栄子さんがメッセージを発信

(山田)他にもIBBYは何か活動されてるんですか。

(橋本)1969年から毎年、IBBYに加盟している各国が順番でポスターを作製し、優れたその国の作家さんなどにお願いして世界の子供たちに向けたメッセージを発しているということです。

1年に1カ国が作っていて、今年は日本が当番でした。1995年以来2回目で、メッセージを担当したのが2018年に国際アンデルセン賞を受賞された角野栄子さんです。角野栄子さんは魔女の宅急便のシリーズの原作者として知られています。ポスターは、スロバキアで活動されてる降矢ななさんという絵本作家が担当されたそうです。JBBYのホームページを見ていただくと、過去のものも紹介しています。

(山田)JBBYのホームページ、ちょっと気になった方は覗いてみてください。

ユダヤ人女性が、子どもにとっての本の必要性を訴えた


(山田)なぜ「国際子どもの本の日」は制定されたんですか。

(橋本)歴史を調べてみましたが、なかなか意義深いと感じました。

最初に提案したのがジャーナリストで児童文学作家のイエラ・レップマンさん(1891〜1970年)という女性で、IBBYの創設者になります。ドイツのシュツットガルト生まれ、ユダヤ人で、第1次世界大戦後に夫と死別して仕事をしなくてはならなくなり、新聞社に勤めてジャーナリストになったそうです。

ただ、その後、ドイツでナチスが台頭してユダヤ人が迫害され始めたため、子ども2人を連れてイギリスに亡命します。1945年にドイツが連合国軍とソ連にそれぞれ降伏して戦争が終わります。そうすると、米軍がドイツに進駐することになるのですが、イギリスにいましたから女性と子どもの文化・教育に関してアドバイザーをしてほしいということで米軍に請われ、帰国しました。

当時、ドイツは国土が荒廃しきって、子どもは貧困の中で大変な思いをしていました。レップマンさんはそれを見て、絵本を通して希望を与えることの必要性を強く感じ、子どもに本を届けるための活動を始めます。

最初にしたことは、20カ国に手紙を送り、ドイツの子供たちのために本を送ってくれるよう頼んだことでした。しかし、ドイツは周辺の国を侵略して戦争を起こし、負けたところでしたので、「本を送って」と言っても、「侵略してきた国に本なんか送れないよ」という反応もあったそうです。

ドイツ国内でも、そんなことをしても当時のドイツの立場からして無理だというような空気もあったようですが、彼女は断られてもまた手紙を送って「ドイツの子どもたちに新たな出発をさせたい」「外国の絵本を見れば子どもたちは外国とも互いに繋がっていることを感じて、次の戦争を防ぐことに繋がるのではないか」と説得したそうです。

(山田)なるほど。

(橋本)そうしてたくさん集めた本を、ドイツ国内を巡回して展示しながら、読み聞かせをするというような活動を始めていくと、次第に賛同者が増えていきました。後に、ミュンヘンに国際児童図書館という図書館を創設し、IBBY創設にも携わりました。

ミュンヘンの国際児童図書館は、子ども専門の図書館としては世界で最大規模だそうです。彼女を紹介した本もいくつか出ています。例えば「子どもの本で平和をつくる」や、彼女の著書の「子どもの本は世界の架け橋」という本は日本でも出版されているので、読むともっと詳しくわかると思います。

(山田)ちょっと気になった方はチェックしてみてください。この方の活動が世界に広がっていったということですね。

(橋本)彼女がユダヤ人だということに深い意味があるなと、特に今は思います。ドイツは彼女にとって生まれ育ったところであっても、ユダヤ人としてドイツ人に迫害されて国外に逃れたという経緯をたどっているし、同胞もたくさん犠牲になっている中で、帰国するのはなかなか勇気が必要だったのではないかと想像できます。

戻ったドイツでしたことはドイツの子どもたちのための活動なので、自分を追い出した人たちの子どものためにもなってるわけです。そういう子どもたちのために心血を注いで活動したことは、本当に価値があるなと思います。

ちょうど今、パレスチナのガザ地区で1万数千人の子供たちがイスラエルの攻撃や、それに伴う飢餓でなくなっていますね。同じユダヤ人なんですが、現状を見ると、レップマンさんの功績とか理念というのをもっと共有して、子どもを守るための対応をしてほしいなと本当に思います。

(山田)今日の橋本さんの話を聞いて、教育って、やっぱり本からだなって思いました。「国際子どもの本の日」に、皆さん改めて、歴史があってこういう日が生まれてるんだというのを確認してみてはいかがでしょう。今日の勉強はこれでおしまい!

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