帰還の町伝えた情報紙廃刊 福島・大熊「もう普通だから」

 福島県大熊町の職員有志が発行してきた情報紙「大川原ライフ」が3月に廃刊した。2011年3月の東京電力福島第1原発事故による全町避難から帰還した町の日常を、絵を交えた手書きの文字で伝えてきた。廃刊の理由は「もう普通の町になってきたから」だ。

福島県大熊町の職員有志が発行してきた情報紙「大川原ライフ」
福島県大熊町の職員有志が発行してきた情報紙「大川原ライフ」

 福島第1原発がある大熊町は11年3月12日、全域に避難指示が出された。19年春、南西部の大川原地区で事故後初めて避難指示が解除されたが、人口約1万人のうち町に戻ったのは60人ほど。情報紙は全国に避難を続けている多くの町民の不安に、実際に住んでいる町職員の目線で答えようと19年10月に始めた。
 創刊号の見出しは「出没!イノシシ」。夜の車中、道でイノシシと遭遇し5分間にらめっこした実体験を、イノシシが前脚を上げあいさつしてくる絵を添え、A4用紙2枚にコミカルにまとめた。町政報告など堅くなりがちな正規の広報紙とはあえて雰囲気を変えた。
 最大で町職員6人が取材し、事故後初となる居酒屋の開店、町職員の通勤事情、庭の野菜の放射線量測定など、なんでもネタにした。創刊号のように、生活圏まで野生動物が出てくる原発事故の負の側面も隠さなかった。「特異な町の日常」を毎月約5千部、全国の町民に配り続けた。
 記事を書いてきた職員佐藤由香さん(34)は「意外と普通の生活だと伝わればと思っていた」と話す。ただ「いつからか『紹介したい』と思うものが減ってきた」とも。同じ編集担当の職員喜浦遊さん(43)も「他の町と変わらない生活になった」と口をそろえる。
 職員らで話し合い、今年3月の54号を最終号にした。地区の避難指示解除から5年がたったいま、解除地域は拡大し町民も約690人まで増えた。商店や学校も再開した。町には子どもたちの声が響き、田んぼでは稲作が行われる。イノシシを見かけることもない。

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