牛舎をリノベーション 若い女性に人気 冷や汗の秘境アンティークカフェ「ロード」(掛川市)【記者さんぽ|個店めぐり】

 「訪れたら、二度と帰れなくなるカフェがある」。そんなホラーのような噂を耳にしました。本当にそんなことがあれば、事件です。「どういうことなんだろう・・・」。真相を確かめるべく、掛川市大野の「アンティークカフェ ロード」を訪ねました。噂の意味はカフェに到着する前に分かりました。

ツタの絡まる外観。看板があるのに、これがカフェだと気付かないお客さんも少なくない
ツタの絡まる外観。看板があるのに、これがカフェだと気付かないお客さんも少なくない

 とにかく道が狭い。粟ケ岳の麓の山道です。幅約2メートルでガードレールはなく、道のすぐ脇は森と崖に挟まれています。運転が苦手な私(記者)はヒヤヒヤ続き、動悸が止まりませんでした。


photo01 取材を諦めようかと思うくらい運転が怖かった道(停車して車内から撮影)

 噂の真相はそう、「訪れたは良いものの、車の運転が怖くて帰れなくなるような場所にある」という意味でした。国道1号バイパス沿いの「道の駅 掛川」から車で10分ほどで、市街地からさほど離れているわけではありませんが、到着までラスト数分は車のすれ違いが極めて困難な道幅で冷や汗をかきました。何とか店にたどり着き、店主の大場貞夫さん(63)にお会いできました。
 ※記事末尾の動画で途中の道、店内の雰囲気などをご覧になれます


photo01 店内は昭和感あふれるレトロな雰囲気

 大場さん曰く、2013年の開店以来、脱輪した車をジャッキで救助した件数は43件。「最近は、道が狭いと知れ渡ったせいか、ずいぶん減ったけどね」とのことでした。なぜここで開業したのか。心底疑問に思って尋ねたところ「東京と大阪の間にあるから変わり者が来るだろうと思って」。分かるような分からないような個性的な視点から切り出し、これまでの経緯を話してくれました。


photo01 ネコがいっぱい。七輪で温まる姿がかわいいです

 開業のきっかけは、古道具収集が趣味の大場さんが古い家財を買い取るために、この場所にかつてあった知人の家と農機具小屋を訪れたこと。ひっそりとした山中にたたずむ、川沿いのさびたトタンの無骨な小屋に一目ぼれ。「『これはカフェだ』と直感した」と言い切ります。知人が当時「不動産が売れない」と嘆いていたことも大場さんの背中を押しました。


photo01 大場貞夫さん(右)。個性的で面白い方です

 森町出身の大場さんは、開業当時50代半ば。掛川市内で写真スタジオを経営していて、自分で炊飯器のスイッチを押したこともコーヒーを入れたこともなかったそう。


photo01 オリジナルカレー。お豆たっぷりでおいしかったです

 「よくオープンしたもんだと自分でも驚いちゃう」と振り返りますが、開業を決めてからいろいろなコーヒー豆を買ってコーヒーの研究を重ね、優秀な調理スタッフも雇ったそうです。


photo01 かつて牛舎で使われていた水飲み設備。今も残っている

 小屋は、農機具置き場として使われる前は牛舎でした。牛の水飲み設備や居住スペースを分ける木枠が残っていました。これらを生かしつつ、窓ガラスをはめたり厨房を作ったりと、数カ月かけて自らリノベーションし、独創的なカフェとして蘇えらせました。店内にはレトロおもちゃや家電など、あらゆるジャンルの古道具約200点も展示されています。



photo01 ペット連れのお客さんの姿も

 エアコンはありません。「夏は結構涼しい。冬も結構涼しい」(大場さん)。面白い方です。冬場は石油ストーブと七輪で暖を取ります。カフェ内外にはネコが11匹いますが、お客さんを駐車場から店内に誘導したり、七輪のそばで丸まったりと愛らしい姿がたくさん見られました。「昔、牛が居た所なんだから」という理由で、ペットの入店も可能。これまでに犬、ネコ、オウム、ミーアキャット、ヤギの入店実績があるとのことです。


photo01 お店の外でもネコがひなたぼっこ

 変わり者の男性が集まるという開業前の予想に反し、客層の9割は若い女性だそうです。取材日は平日昼間でしたが、この時も女性ばかりでした。お世辞にも好アクセスの立地とは言えませんが、新型コロナの緊急事態宣言による休業中を除けば、お客さんが1人も来なかった日はないのだとか。「あまりにもお客さんが来なかったらバイトすれば良いし」と秘境の灯りを守る意気込みをのぞかせていました。
 <アンティークカフェ ロード>掛川市大野1776の7。電話090(4853)0851。営業時間は午前11時~午後4時。月曜、火曜休み。(年末年始はこの他、12月31日、1月1日、6日、7日も休み)

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