キャンプ富士のコロナ感染 米軍情報把握に課題 住民の安全安心担保を【解説・主張しずおか】

 昨年末から今年初めにかけて、御殿場市中畑の米海兵隊キャンプ富士で海兵隊員らの新型コロナウイルス感染が相次いだ。市は状況把握に苦慮し、感染が市中に広がるとの懸念から地元住民の不安が高まった。情報提供の在り方を含め、住民の安全安心を担保できる関係や態勢づくりを目指すべきだ。

隊員らの新型コロナウイルス感染が相次いだ米海兵隊キャンプ富士=3月上旬、御殿場市中畑
隊員らの新型コロナウイルス感染が相次いだ米海兵隊キャンプ富士=3月上旬、御殿場市中畑

 キャンプ富士の12月29日付発表で日本人従業員1人を含む10人の感染が明らかになった。その後も感染が拡大し、御殿場市によると、累計感染者は50人を超えた。沖縄県や山口県では米軍基地内での感染拡大が市中感染につながったとの見方が強く、キャンプ富士周辺でも懸念の声が上がった。
 隊員の感染情報は県などに提供されず、基地のフェイスブックや在日米軍のホームページで公表されるのみ。発表のタイミングも分からず、市職員は頻繁にページをチェックして現状把握するしかなかった。市と基地は平時、行事などでトップ同士の交流があり関係は良好とされる。有事においても直接連絡するチャンネルを持ち、情報共有できる関係が理想だ。
 基地内外での感染対策が米軍任せになり、実態や効果が不透明だったことも不安を高める要因になった。県や市などは12月31日に隊員の外出禁止を含む対策徹底を基地に申し入れた。だが、「対策をしてくれていると信じるしかない」(市幹部)のが実情で、年末年始に基地周辺を出歩く米軍関係者とみられる姿が目撃された。米軍の感染対策は日本政府が求めている内容より緩やかとの指摘もあり、米軍の特権的地位を定めた「日米地位協定」の見直しを求める意見も出ている。
 米軍の動向把握にはこれまでも、大きな壁があった。昨年の射撃訓練中に重機関銃の銃弾1発を東富士演習場外の山中に着弾させたとみられる事案では、射撃後の確認不足で銃に残った銃弾に気付かなかったのが原因とされた。ただ、残った銃弾が発射された時の状況は「米軍の運用の詳細に関すること。答えは差し控えたい」(防衛省南関東防衛局)とされ、地元側からは不満が漏れた。
 同演習場の権利者団体などは長年、キャンプ富士の全面返還を求めている。2020年には当時の河野太郎防衛相が「私自身が先頭に立ち防衛省一丸となり取り組む」と回答した。こうした経緯を踏まえ、米軍からの適切な情報提供体制の構築を含め、基地周辺住民が安心して生活できる環境づくりを求めたい。市や県はあらゆる機会を通じて国や米軍に要望してほしい。

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