時論(4月3日)デジタル化 問われる思考力

 小中学校に続き、本年度から高校教育が「主体的・対話的な深い学び」を掲げる新学習指導要領に移行する。検定結果が公表された新教科書は、思考や探究を促す仕掛けがみられる。
 評論家の外山滋比古さんはロングセラー「思考の整理学」(1983年)で、先生と教科書に引っ張られて勉強する生徒を自分では飛べないグライダーに例え、自分で物事を発明、発見するいわば飛行機を育てよと主張した。
 「ゆとり教育」の失敗と、それが一因でもある格差拡大、デジタル技術の進化で「読解力」「思考」の危機感が高まった。書店に並ぶ本の表題や帯にはこれらの言葉があふれている。
 新年度、心機一転という人は多いはず。新たな人間関係で言語によるコミュニケーションが必要になる。しっかり自分の頭で考え、自分の言葉で、自分の文章で伝えることが求められる。
 それは「タテ・ヨコ」「算数」で、と立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長は説く。タテは時間軸(歴史軸)、ヨコは空間軸(世界軸)。算数はデータ、ファクト。物事を客観的に、立体的に見よと助言する。
 パソコンやスマホの検索機能を使えば簡単に知識が得られるようになった。ただ、「知識の量と思考力は反比例するのでは」と外山さん。知識が思考の邪魔をすることもあるというのは、ネット社会への警鐘でもある。
 思考や読解は各人の頭の中の作業だが、言語を使えば、考えることは多人数でできる。「三人寄れば文殊[もんじゅ]の知恵」はドイツで「四つの目は二つの目よりよく見える」。衆知糾合を教えることわざは東西にある。ただし、持ち寄るのが意見でなく感想だと「船頭多くして船山に上る」ことも。用心したい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞