ウクライナからの避難犬 待機期間短縮に賛否 検疫対応、慎重な議論を【解説・主張しずおか】

 農林水産省は4月、ウクライナから日本に来た避難者が帯同したペットの犬に狂犬病対策をすることを条件に、最長180日間の検疫施設での待機期間を大幅に短縮した。関係者からは人道的な措置と評価される一方、心配の声も上がる。日本は65年間、狂犬病の国内発生がない世界屈指の「清浄国」で、厳格な水際対策によって侵入を防いできたためだ。ウクライナが発生地域であることを踏まえ、“家族”への避難者の愛情に敬意を表しつつ、慎重な議論を続けてほしい。

狂犬病の予防接種を受ける犬=6日、静岡市清水区の杉山獣医科
狂犬病の予防接種を受ける犬=6日、静岡市清水区の杉山獣医科


 対応は災害救助犬の規定を準用して、マイクロチップの装着や2回のワクチン接種、抗体価の確認が済めば、週1回の動物検疫所の報告やほかの動物と接触させないことを条件に、避難者が滞在先で飼育できるとした。狂犬病臨床研究会の杉山和寿副会長(静岡市清水区、杉山獣医科)は現状の検疫期間について「犬が発症するまでの潜伏期間は長く、平均2カ月だが、6カ月とのデータもある。感染していても発症するまで確認できない点から、最長180日は妥当」とし、「国内に帯同された犬が感染している可能性は低いとはいえ、ゼロではない」と指摘する。日本獣医師会は4月28日、「飼育される予定の都道府県の獣医師が健康相談や診療対応を支援する」と発表した。
 狂犬病は犬などにかまれて人の体内に入ったウイルスが上行して脳炎を起こす。致死率はほぼ100%。発症した犬の映像では狂乱状態だけでなく、のんびり寝そべって見えるケースもあるが、顔の近くで動く物に反射的にかみついていた。
 ウクライナでは野生動物に狂犬病が発生している。インドネシアでは島に持ち込まれた犬から感染が広がり、160人以上が死亡した例もある。かまれたらすぐ医療機関で処置を受ければ高確率で発症を防げるが、小柄な子どもは発症までの時間が短く、犠牲になりやすい。
 海外の清浄国はオーストラリア、ハワイなど六つの国・地域のみ。日本は予防注射を義務付けた狂犬病予防法(1950年制定)から7年で撲滅したが、近年は海外でかまれた人が帰国後に死亡する事例がみられる。狂犬病は過去の病気と感じる人がいるかもしれないが、それは日本が厳格な対策と努力に裏付けられた清浄国だからであり、世界が現在進行形で直面する脅威だと改めて認識したい。

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