ルート選定経緯に静岡県苦言 JR「高圧湧水は避けられず」【大井川とリニア】

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴う大井川の水問題は、JR東海がルートを選定した際に水資源への影響をどの程度考慮したのかが焦点の一つになっている。JRは「(南アルプスの)どこを通ろうとも高圧湧水は避けられない」としてルート選択の余地がなかったとするが、山梨県内でルートを迂回(うかい)させる理由にもなった高圧湧水は短期間で止めるのが難しい。静岡県側は「ルートの検討が不十分だった」と懸念を強めている。

南アルプストンネル工事静岡県内区間で高圧大量湧水発生の恐れがある箇所
南アルプストンネル工事静岡県内区間で高圧大量湧水発生の恐れがある箇所

 「今になってつけが回ってきている」。難波喬司副知事は1年2カ月ぶりに開かれた4月26日の県有識者会議の地質構造・水資源専門部会で、ルート選定の経緯を説明したJRに苦言を呈した。「いまさらルート決定時のことを追及するつもりはない」と述べつつ、「(南アルプスの)地質の問題と生態系への影響についての検討が(当時)不十分だった」との認識を示し、専門部会で議論する必要性を強調した。
 委員からも、地質のもろさや高圧湧水の懸念を理由にルートを迂回した山梨県の巨摩山地と、同様の問題がある本県の南アルプス(大井川上流域)を比べて「なぜ違いを見いだせたのか分からない」と疑問の声が上がった。
 JRの担当者は、巨摩山地の北中部と南部を比較し、地質や地形を考慮して南部を選んだと説明。南アルプスは「どこを通ろうとも断層を横切らないといけない」と述べ、「なるべく距離を短く通過する」との考えが念頭にあったと明かした。
 南アルプス周辺の地質に詳しい狩野謙一静岡大客員教授(構造地質学)は取材に「巨摩山地の地質が脆弱(ぜいじゃく)という資料は見たことがない」とし、根拠の説明が必要だと指摘する。
 ルート選定を巡っては川勝平太知事が「巨摩山地より南アルプスの方が危ない。回避する結論になるのが当たり前」と批判していて、県有識者会議でも新たな議論テーマになっている。

 ■県有識者会議 中央部2キロで超高圧湧水の懸念 JR資料から判明
 JR東海が4月26日の県有識者会議で初めて配布した地質調査資料によると、「超高圧大量湧水が発生する可能性が高い」と記された範囲は、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事県内区間(10・7キロ)の中央部2・2キロに及ぶとされる。
 JRは突発湧水の恐れがあるため、山梨県境付近の幅800メートルの断層帯を下り勾配で掘削できないとしているが、資料の記載を踏まえれば、県境付近より中央部で突発湧水の影響が大きくなる可能性がある。
 場所は西小石沢付近で、トンネルの深さが千メートルを超え、断層周辺の破砕帯で湧水発生の可能性が高いとした。他に、高圧大量湧水発生が懸念される箇所は4カ所あり、西俣川直下と蛇抜沢直下は場所が新たに示された。大井川直下と西俣川付近の2カ所は2020年10月の国土交通省専門家会議で公表済み。
 資料は詳細ルート選定時の13年3月にJRが地質調査会社に委託して作成した。

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