介護、育児「両立可能に」 当事者目線が市政に必要【地方議会と女性 第2章 活動の環境㊤】

 各国の男女平等の度合いを測る「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本の遅れが顕著な政治分野。多様な民意を反映する意味でも、女性を含むさまざまな人材の政治参画が求められる中、県内の女性議員はなかなか増えない。女性が直面する困難は当選後も多い。現職の体験から、格差解消の糸口を探る。

夕方、通所施設から帰宅した長女元美さんに、視聴するDVDを尋ねる小沢映子さん(左)=5月、富士市
夕方、通所施設から帰宅した長女元美さんに、視聴するDVDを尋ねる小沢映子さん(左)=5月、富士市

 「今日はどのDVDを見ようか」。富士市議の小沢映子さん(63)は、市内にある重症心身障害児者の通所施設「でら~と」から帰宅した長女元美さん(37)に尋ねた。元美さんは小沢さんが持った用紙を手で指し、お気に入りの映画を選んだ。
 5期目を務める小沢さんが初当選したのは2003年。小沢さんを中心とした重度の障害児者の親たちが、特別支援学校を卒業した子どもの日中の居場所としてゼロから構想した「でら~と」の開所に道筋が付いた頃だった。引退する女性市議から「あなたほどの(市民の痛みが分かる)当事者はいない」と背中を押された。
 元美さんは、着替えや食事、トイレなど生活の全てに介助が必要。周囲には「そんな大変な介護をしながら、議員活動ができるのか」という懐疑的な声もあった。だが「社会は『生きにくさ』であふれていると娘から教えられた。自分の視点を市政に生かしたい」と決意した。
 日々の介護と議員活動の両立。多忙な一方「実は困った経験はそれほど多くない」と振り返る。元美さんは日中、「でら~と」で過ごし、小沢さんの帰宅が遅い日はヘルパーを頼んだ。会社員だった夫や次女、長男のサポートも得ながら、国内外の視察や出張にも何度も出掛けた。
 介護を理由に議会を欠席したことはない。ただ「後進のことを考えれば、休む日があってもよかったかもしれない」と今は思う。元美さんが熱を出した時など、誰が家に残るか調整に苦労した日もあったが「男性中心の議会の中で、家族のために欠席するという発想が自分にもなかった」という。
 21年初頭、全国の都道府県議会と市議会、町村議会の各議長会は、議会運営のひな型となる標準規則を改正し、議会が欠席を認める理由として「介護」や「育児」を明記した。県内でもほとんどの議会が会議規則を改正した。小沢さんはこの動きを歓迎し「必要がある場合には、もっと普通に休めるようになれば」と期待する。
 「政策決定の場に女性が少なくとも3割は必要」と考えるため、新たに市議を志す女性を発掘、支援するつもりだ。「例えば、ひとり親や性的マイノリティーの人など『生きにくさ』を抱える人の視点こそ、議会には必要」と強調した上で「多様な人材が参画できるようにするためには、それぞれの事情に応じて生活との両立を支える環境整備が欠かせない」と指摘する。

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