戦争体験AIで継承 浜松の企業開発、「語り部」映像収録

 語り部が高齢化している戦争体験の継承に、人工知能(AI)を活用する静岡県内初の試みが浜松市で進んでいる。市遺族会と市戦災遺族会、同市中区のソフトウエア開発「シルバコンパス」が連携。同区の浜松学芸中でこのほど、広島への修学旅行を控えた3年生約50人に、完成したばかりの「AI語り部」が77年前の浜松大空襲の一端を伝えた。

生徒に戦争体験を伝えるAIの「語り部」=8日、浜松市中区の浜松学芸中
生徒に戦争体験を伝えるAIの「語り部」=8日、浜松市中区の浜松学芸中

 市戦災遺族会の語り部、野田多満子さん(84)=同区=が空襲体験を思い起こしながら話す映像を事前に収録し、その様子を会場のモニターで放映した後、AIが生徒の質問を受けつけた。
 空襲の当時、野田さんは7歳だった。浜松城に近い松城町の自宅は既に焼け、身を寄せていた知人宅で夜間の大空襲に遭った。炎が燃えさかり、人々が倒れる中を走って逃げたが、母親は亡くなった。
 会場で生徒がモニターに向かって質問を投げかけると、事前に収録した映像からAIが合致する回答を選び、モニターからは野田さんが答えているような映像と音声が流れた。「平和とは何ですか」との質問には「戦争がないこと。消しゴムがあれば世界中から戦争を消したい」と回答。「今の平和な時代を大切に生きて」と生徒に呼び掛けた。
 戦時下の勉強について尋ねた同校の村松百合香さんは「AIも人も変わりがなく、技術の進歩はすごいと感じた。野田さんの思いを伝えたい」と話した。
 AIを使った語り部システムの開発は2018年、長崎市の原爆死没者追悼平和祈念館の依頼を受け、安田晴彦社長(47)が着手した。21年秋からは地元の浜松で語り部の継承活動に力を入れている両遺族会と協力し、準備を進めた。安田社長は「語り部の高齢化は全国的な課題。浜松から対策を発信したい」と強調した。AI語り部は18日の市戦災死者慰霊祭でも発表するという。

 <メモ>浜松大空襲 浜松市は太平洋戦争末期の1944年12月から45年8月の終戦まで、27回の空襲や艦砲射撃を受けた。45年6月18日未明には米軍爆撃機B29約100機が上空に飛来し、約6万5千発の焼夷(しょうい)弾を投下して市街を焼き尽くした。1157人が犠牲になり、家屋1万5千戸以上が全焼した。

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