静岡鉄道「春日町駅」 春日町にはありません【NEXT特捜隊】
「静岡鉄道の春日町駅は『春日』にあるのに、なぜ『春日町駅』なんでしょう。春日町は離れた別の場所にあります」
静岡市駿河区の静鉄通勤ママさん（３０代）から、静岡新聞社「NEXT特捜隊」に疑問が寄せられた。タクシーで「春日町までお願いします」と伝えたところ、春日町駅方面に案内された経験があるという。
地図を確認してみたら確かにそう。春日町駅は静岡市葵区春日２丁目にある。春日町の最寄り駅は隣りの音羽町駅だ。「どうしてこうなったのか」。早速調査に着手した。
春日はかつて春日町だった
NEXT特捜隊事務局内でのミーティングで「駅が設置された頃はここも春日町だったのでは？」との仮説が生まれ、まずは静岡市戸籍管理課に尋ねた。調べてもらったところ、春日町駅周辺は１９８０年（昭和５５年）に「春日町」から「春日」へと町名が変わり、春日町１〜３丁目は春日１〜３丁目に表示を新たにした。仮説は「正解」だった。
市の担当者によると、町名の変更は「住所を分かりやすくするための制度変更」（住居表示）の一環で行ったという。住所は従来、「〇〇町×番」のように町名と土地につけられた番号「地番」の組み合わせが用いられてきた。
しかし土地の分筆、合筆、譲渡、売買などにより、「地番」に飛び番や枝番が発生。住所が分かりにくくなり、緊急車両の到達遅れや郵便物の誤配・遅配など、市民生活に支障をきたすようになった。そこで登場したのが「住居表示」だ。「地番」に替わり、建物に「街区符号」と「住居番号」を付ける住所の表示方法が採用された。春日町に限らず全国各地で行われてきた。
静岡鉄道「春日町駅」
静岡鉄道総務課にも疑問を伝えたところ「駅名は古い町名に由来していると思われます」との回答だったが、命名に至る詳細な記録は見つからなかった。この時になぜ、町名に合わせて「春日駅」「春日２丁目駅」などに変更されることはなかったのか、議論はなかったのか、知ることは出来なかった。
駅名と町名の不一致に不都合を感じたのは投稿者だけではないようだ。周辺の町内会は１９９７年（平成９年）、「他の町から春日町を訪れる方々が道に迷い大変迷惑を被っている」として、静鉄に駅名変更を求める陳情書を提出した経緯があるという。
静岡鉄道総務課は「今のところ駅名変更の予定はありません」とのことだった。
春日と春日町 似た地名なぜ混在？
すっきりはしないものの静鉄通勤ママさんの疑問にはある程度お答えできた。しかし、どうにも気になる。そもそもなぜ「春日」と「春日町」というよく似た地名が近接するのか。町名変更前から、「春日町」は「春日町」、「春日１～３丁目」は「春日町１丁目～３丁目」という町名だった。市区政課（当時）の『静岡市の町字の変遷』によると、昭和初期に「春日町１～３丁目」「春日町」「瓦場町」という地名がいずれも新設されたとある。
より詳しい情報を求め、春日町町内会の谷口弘行会長（６８）に当たったところ、史料には１９２８年（昭和３年）に「おめでたい」という理由で、３６候補の中から「春日町」という名前に投票で決まったと記されているという。
１９３２年（昭和７年）には「春日町南北分離問題台頭 ８年間の大紛乱の結果、評議員会で決定 清水山の線をもって南北に分離」との記述もある。現在の「春日町」は清水山の北側、「春日１～３丁目」は南側にあり、この記述と矛盾しない。現在の「春日町」と「春日」はもともと一つだったが、分離したと読み取れる。ただ、春日町分離問題については、「春日」の複数の地元住民に当たったが知る人はおらず、市にも資料は残っていなかった。
〈記者メモ〉駅名と町名の不一致 昔も？
取材の過程で目を通した冊子「静鉄グループ百年史 過去から未来へのメッセージ」には、静岡電鉄時代（１９４０年＝昭和１５年＝ごろ）に「春日２丁目」という駅が表記されていました。音羽町と護国神社前の間にあったとされ、現在の春日町駅の立地と矛盾しません。「春日２丁目駅」が「春日町２丁目」にある。駅名と町名の不一致はかつても存在していたということでしょうか。静岡鉄道総務課によると、同社の決算資料には１９４４年（昭和１９年）に「春日二丁目駅」、１９４９年（昭和２３年）に「春日町駅」の記載があるとのこと。ただこの２駅が同一なのかも含め、その理由は今回の取材では分かりませんでした。
この記事を読んでくださった皆さま、春日と春日町の地名の由来や、「春日二丁目駅」について情報をお持ちの方はいらっしゃるでしょうか。「こんなことを聞いたことがある」「資料が残っている」など小さなことでも構いません。静岡新聞「NEXT特捜隊」のLINEやメール〈n-toku@shizuokaonline.com〉にご連絡をいただけましたら幸いです。
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