奇想天外「夫婦げんかもの」 富士宮市出身・横関大さんが新刊「忍者に結婚は難しい」

 テレビドラマ化、映画化された「ルパンの娘」シリーズで知られる作家横関大さん(富士宮市出身)の新刊「忍者に結婚は難しい」(講談社)は、現代に生きる伊賀忍者と甲賀忍者の夫婦を主人公に据えた多面的なエンターテインメント作。表裏の顔を使い分けて社会生活を営む忍者たちの冒険活劇、禁断の組み合わせのカップルが巻き起こすコメディー、本格的な謎解きが潜むミステリーという三つの要素を巧みに操る手さばきが光る。

「僕の小説はお気楽に読んでほしい」と語る横関大さん(講談社提供)
「僕の小説はお気楽に読んでほしい」と語る横関大さん(講談社提供)

 泥棒一家の娘と刑事のカップルが主人公の「ルパン-」をはじめ、「水と油」とも言える人物の顔合わせを説得力のある物語に昇華させるのはお手の物。「忍者に-」は「『夫婦げんかもの』を書きたかった」という思いが出発点だった。ブラッド・ピットさんとアンジェリーナ・ジョリーさんが共演した映画「Mr.&Mrs.スミス」を引き合いに出す。「伊賀と甲賀の忍者夫妻、というのをフッと思いついて。そこからの執筆は早かった。『ロミオとジュリエット』の“離婚版”にしよう、と」
 全364ページの真ん中付近、170ページあたりで物語の色合いががらりと変わり、ギアが入ったようにスピードが上がる。「計算ずくで書いてはいない。緻密にプロットを作り込んで書くタイプではないし。登場人物たちが勝手に動きだしていく方が、結果的に面白いものが出来上がるとは思っている。今回はそれが成功している」
 出身地静岡県に関する記述をあちこちにちりばめた。伊賀忍者の主人公は静岡市の出身。複数の県内キャンプ場の描写もある。徳川慶喜が明治期に過ごした静岡には伊賀忍者が多い、という説明もあるが「もちろん、これはフィクション」と笑う。
 富士宮市役所在職中の2010年に「再会」で推理小説家の登竜門、江戸川乱歩賞を受賞。「8回目の応募でやっと取れた。でも、苦労は何もない。最終選考に初めて残った4回目以降は、いつかデビューできると思っていたから」
 18年から作家専業に。エンターテインメント小説を強く意識する。「読んでいる時間を楽しく過ごせること、読み終わった後は前向きな気持ちになることを常に心掛けている」
 (文化生活部・橋爪充)

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