教育文化部 橋爪充
はしづめ・みつる 1969年、カナダ生まれ。都内IT系出版社を経て2008年入社。ノイズ音楽から梅酒づくりまで、「文化」と名のつくものは全て取材対象。ヒップホップ、フットサル、曽宮一念さん、ヒカシュー、しずおか連詩の会、ラブライブ!サンシャイン!!、コーエン兄弟を好みます。クラフトビール愛好歴18年。ブラジリアン柔術青帯。
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ちゃっきり節 新メディアが流行後押し【しずおか学・地域のうた編】
静岡電鉄(現静岡鉄道)が「狐ケ崎遊園」(後の狐ケ崎ヤングランド)=静岡市清水区=の開園を記念して1927年に制定した「ちゃっきり節」(北原白秋作詞、町田嘉章作曲、原題「ちやっきりぶし」)は、当初お座敷歌として人気を博したが、当時の新しい情報伝達ツールが「全国区」に押し上げた。 28年1月、NHK東京放送局で、町田の指揮する生演奏に乗せて静岡の芸者衆が「ちゃっきり節」を歌った。31年に人気芸者の市丸が吹き込んだレコードも大ヒットした。静岡の文化史に詳しい中村羊一郎・前静岡市歴史博物館長は「新しいメディアの登場は『歌』の概念を変えた。みんなで歌って楽しむものから、プロの歌唱を聴くものになった。
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おまちで演劇や身体芸術、表現無限大 静岡でフェスティバル開催
演劇やパフォーミングアーツ(身体芸術)を野外で楽しむフェスティバル「ストレンジシード静岡」が4日、静岡市葵区の駿府城公園と中心市街地で開幕した。6日までの3日間、毎日12組が各所で公演する。 公園内の芝生エリアや東御門前広場などに加え、今年は市街地の青葉シンボルロードも会場になった。初日は多くの親子連れや演劇ファンが来場し、爽やかな風の中で演目を楽しんだ。 2016年に始まった同フェスは、23年から静岡県や静岡市、文化・経済団体でつくる「ふじのくに野外芸術フェスタ実行委員会」が主催する。昨年は延べ約2万4千人を動員した。フェスティバルディレクターのウォーリー木下さんは「静岡が(町中で上演
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「ゆるキャン△」×「ラブライブ!」 静岡パルコ内に限定グッズショップ、6月2日まで
ともにアニメや漫画で静岡県内を描写している「ゆるキャン△」「ラブライブ!サンシャイン!!」の主要キャラクターの共演グッズを販売する期間限定ショップが3日、静岡市葵区の静岡パルコ内にオープンした。両作品の共演を静岡県の観光誘客に結びつける、関係3社のプロジェクト「Meets SHIZUOKA」の一環。 「POP―UP SHOP(ポップアップショップ)」と命名され、6月2日まで営業する。県内の名所の前でキャラクターがほほえむアクリルスタンド、ミニクッションなど約70種がそろった。 初日は市内からの来店が目立った。葵区の会社員男性(34)は「県内に移住した直後に二つの作品の放映が始まったので
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「細見美術館展」入場1万人 土屋さん、増田さんに記念品 静岡市美術館
古墳時代から近代に及ぶ幅広い時代の日本美術コレクションで知られる細見美術館(京都市)の収蔵品を集めた静岡市美術館(同市葵区)の「京都 細見美術館の名品―琳派、若冲、ときめきの日本美術―」(静岡市、静岡新聞社・静岡放送など主催、セキスイハイム東海特別協賛)の入場者が3日、1万人に達した。 同館でセレモニーが開かれた。節目の入場者となった土屋恵子さん(68)=沼津市=と増田ロサルバさん(71)=長泉町=に、同館の高市純行館長、セキスイハイム東海中部支社の佐野哲也支社長らが展覧会の図録や記念品を贈った。 静岡新聞連載で細見美術館の作品群の知識を得たという土屋さんは「自国の優れた表現を次の世代に
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鈴木慶則さん 画業巡り座談会 トロンプ・ルイユ→水絵 転換の背景は? 清水・フェルケール博物館
静岡市清水区のフェルケール博物館で、同区を拠点にした美術家鈴木慶則さん(1936~2010年)の作品を有識者4人が論じる座談会が開かれた。12日まで同館で開催中の企画展「水の絵 『幻触』と『幻触』以降の鈴木慶則」の関連企画。 1960年代、当時清水に住んでいた美術評論家石子順造さんを中心に結成された美術家グループ「幻触」に参加した鈴木さんは「トロンプ・ルイユ」(実物と見間違うほどの徹底的な写実的描写、だまし絵)の手法による作品を次々発表していた。座談会は、この時期から、水を用いて水を描く「水絵」シリーズを描き始めた70年代後半までの状況に焦点を当てた。 県立美術館の川谷承子上席学芸員は西
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人生「55勝45敗なら大成功」 門井慶喜さん、静岡新聞小説「ゆうびんの父」書籍化
静岡新聞朝刊で2023年1月から1年間連載された「ゆうびんの父」が単行本化された。著者の門井慶喜さんに作品を振り返ってもらった。 前島密を小説に書こうと思ったのは、彼の自叙伝を読んだのが始まりです。特に幼少期をとても面白く感じました。今日、「日本近代郵便の父」とたたえられる人物の生い立ちは、実は不利なものだった。幕末の生まれですが、薩長土肥ではなく、越後の、雪深い上越の、農民の出身です。しかも当時としてはとても珍しい母子家庭に育った。この人がどうやって大きな仕事をするようになったのか。そこを知りたいと思ったのが私のモチベーションでした。 少年期から、前島密は住む場所や師匠を次々と変えてい
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針金、刺しゅうで動植物表現 アイデア競う合同作品展 静岡・駿府博物館
針金アーティストMASASHI(マサシ)さんと、立体刺しゅう作家PieniSieni(ピエニシエニ)さんの合同作品展「素材にいのちを吹き込む―針金とフェルトの世界」(駿府博物館、静岡新聞社・静岡放送主催)が27日、静岡市駿河区の同館で開幕した。身近な素材の特徴を引き出して動植物の姿を表現する2人が、技巧とアイデアを競っている。 色とりどりの針金を使ったマサシさんの大小の人形約280点と、フェルトと刺しゅう糸で本物と見まごうばかりの草花やキノコ、昆虫などを制作するピエニシエニさんの代表作約80点がそろった。 博物館での展覧会は初というピエニシエニさんは「モチーフをよく観察し、表現方法を試行
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「何を撮り 何を撮らないか」 映画「キャメラを持った男たち」 井上実監督 静岡でイベント
1923年の関東大震災直後の現地を撮影したカメラマン3人とその映像やフィルムに着目したドキュメンタリー映画「キャメラを持った男たち-関東大震災を撮る-」(2023年)の県内初上映を前に、井上実監督が21日、静岡市葵区の登録有形文化財「鈴木邸」でトークを行った。古書店が集まる催し「春の探書会」の一環。 同作品は映画誌「キネマ旬報」の23年ベスト・テンで文化映画部門1位に選ばれた。トロフィーを持参した井上監督は「公開以降、自分が考えたコンセプト以上のレファレンス(言及)をいただいた。映画の作り手がその映画の一番の理解者ではないことがよく分かった。見た方も含め、関わった全員でこのトロフィーの重み
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青春を生きる新しい晴明像 映画「陰陽師0」裾野でロケ 原作・夢枕獏、監督・佐藤嗣麻子
裾野市などで撮影が行われた19日公開の映画「陰陽師0[おんみょうじゼロ]」は、夢枕獏のベストセラー小説を下敷きに、平安時代に実在した呪術を操る陰陽師、安倍晴明の若き日を描くオリジナル作品。「エコエコアザラク」「アンフェア」などを手がけた佐藤嗣麻子監督が、陰陽師の学校であり行政機関であった「陰陽寮」を舞台に、新しい「晴明像」を提示した。 若くして呪術の天才と呼ばれている陰陽寮学生の晴明(山崎賢人)は、貴族の源博雅(染谷将太)から皇族の徽子[よしこ]女王(奈緒)の周辺で起こる怪奇現象の解明を頼まれる。解決に向けて動く2人の周辺で、ある若者が変死。怪異と事件の根源には一体何が-。 ユーモラスな
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【動画】「ちゃっきり節」狐ケ崎遊園の開園時に作詞曲【しずおか学・地域のうた編】
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「ちゃっきり節」狐ケ崎遊園の開園時に作詞曲 【しずおか学・地域のうた編】
静岡県内各地に伝わる民謡、伝承歌、風景を描いた唱歌や歌謡曲。土地に根差した「うた」がどう生まれ、どう継がれているのか。 「ちゃっきり節」は、静岡県民に最も広く知られ、愛唱されてきた「うた」の一つだろう。1927年、静岡電鉄(現静岡鉄道)が沿線開発の一環として整備した「狐ケ崎遊園」(後の狐ケ崎ヤングランド)=静岡市清水区=の開園を記念して作った。 同社の長谷川貞一郎・遊園部長の三顧の礼に応え、作詞家北原白秋が「次郎長」「焼津」「三保」「吐月峯」といった県中部の風物を織り込んだ全30編を紡いだ。長谷川部長と白秋の面会には、小説家・正宗白鳥も一役買ったという。作曲は、白秋が邦楽
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「細見美術館展」開幕 若冲の性格、見どころ解説 静岡市美術館で細見氏講演
日本美術史を総覧するコレクションとして国内外で高く評価される細見美術館(京都市)の収蔵品を集めた「京都 細見美術館の名品―琳派、若冲、ときめきの日本美術」(静岡市、静岡新聞社・静岡放送など主催、セキスイハイム東海特別協賛)が13日、同市葵区の市美術館で開幕した。初日は、細見美術館の細見良行館長が記念講演を行った。 細見館長は同コレクションの約80年の歩みを振り返り、祖父にあたる昭和の実業家細見良から自身までの3代が収集した金工品、茶釜、仏教・神道美術、江戸期の絵画などを一つ一つ紹介した。古代から近代まで各時代の作品がまんべんなく集まっていることに触れ「よく、美術の教科書的なコレクションと言
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時論(4月12日)「成瀬」、故郷に錦を飾る
「朝の読書推進協議会」によると、2023年5月31日現在の本県の小中学校、高校の「朝読書」実施率は89%に上る。これを上回るのは栃木、福井、鳥取、佐賀の4県だけ。静岡の子どもが本に接する機会は多い方だと言えよう。 新中学生の長男も今春、「89%」の仲間入りを果たした。小学校時代にはなかった、午前8時20分から15分間の新習慣。そんな彼が4月9日から読み進めているのが宮島未奈さん(富士市出身)の「成瀬は信じた道をいく」である。春休みに読み終えた「成瀬は天下を取りにいく」の続編。「斜め前の席の女子も同じ本を読んでいる」という。 10代の心も捉えた「成瀬」が栄誉をつかんだ。10日発表の「202
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「ゆるキャン△」✕「ラブライブ!サンシャイン!!」 人気アニメが静岡で“共演”
アニメや漫画で静岡県内を描写している「ゆるキャン△」「ラブライブ!サンシャイン!!」の関係3社は11日、2作品の協働で本県各地にファンを誘導するプロジェクトを始めた。アニメや漫画の作品が特定地域を対象にして協働企画を実施するのは極めて珍しい。 「ゆるキャン△」と「ラブライブ!サンシャイン!!」の協働プロジェクトのキービジュアル 3社は「ゆるキャン△」「ラブライブ!サンシャイン!!」をそれぞれ手がけるフリュー(東京)とバンダイナムコフィルムワークス(同)、企画プロデュースを行う「ミライシングス」(クオラス、同)。「ミライ―」の小林大介さんは「2作品のゆかりの地、静岡の新しい魅力や出合い
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24年で最後の野外音楽フェス「頂」 フィッシュマンズなど25組登場へ 6月1、2日に吉田公園
6月1、2の両日、吉田町の吉田公園で開催される野外音楽フェスティバル「頂―ITADAKI―THE FINAL」(静岡新聞社・静岡放送共催)の出演者が出そろった。2008年から毎夏の実施が定着しているが、今年が最後の開催。新旧の注目アーティスト計25組がラインアップされた。 1日の目玉はともに静岡市出身の石野卓球、ピエール瀧による電気グルーヴ。近年は地元のクラフトビール醸造所との協働も話題を呼ぶ。台風接近で中止になった23年に登場予定だった水曜日のカンパネラは17年以来の出演。「頂」の前身イベントにも出演歴があるEGO-WRAPPIN’、第1回からほぼ毎回出演のGOMA&TheJ
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【Web限定】自在自由に「作られる」 初の歌集「くるぶし」発刊 町田康さん(熱海)インタビュー
作家で音楽家の町田康さん(熱海市)が初の短歌集「くるぶし」(COTOGOTOBOOKS)を発表した。全て書き下ろしの352首は「自分の気持ちが景色となって表れた」ものであり「魂の日記」でもあるという。小説と同様、おかしみや諧謔(かいぎゃく)があちこちから顔を出す、痛快な歌集が生まれた。(聞き手=教育文化部・橋爪充) 短歌はインスタグラムに載せ始めた ―発刊のいきさつは。 「最近、古典の仕事をやっている中で、韻律っぽい文章が出てきて、自然に七音、五音のリズムがインプットされてきたんです。最初は俳句をやりましたが、あんまりうまいこといかない。でも歌(短歌)やったらできるやろなという予感はあ
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個性豊か ふんどし人物戯画 富士宮の伊藤さん 静岡市葵区で個展
富士宮市の戯画(ぎが)作家伊藤千史さんの個展「五百裸漢現る!」(実行委員会主催)が9日、静岡市葵区の「東静岡アート&スポーツ/ヒロバ」で開幕した。会場を活用した文化プロジェクト「Art@東静岡(アート・アット・ヒロバ)」の第12回企画展。 円形の広場に白、黄など4色ののぼり旗を計約60本立て、一つ一つにさまざまな表情のふんどし姿の人物を墨で描いた。伊藤さんの代名詞的なモチーフを野外でダイナミックに展開した。コンテナを活用したギャラリーには、ふんどし一丁の男を描いた無数の布製造形物をつるし、空間作品として紹介している。 伊藤さんは個展初日に会場で白井嘉尚静岡大名誉教授とトークライブを行った
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身体表現の楽しさ感じて パフォーマー松島さん(沼津)がワークショップ 10日も静岡市葵区で
静岡市葵区の「東静岡アート&スポーツ/ヒロバ」で9日、国内外で活躍するパフォーマー松島誠さん(60)=沼津市=による身体表現のワークショップ(実行委員会主催)が開かれた。同会場の一般参加型アート企画「ヒロバあそび!」の一環。 参加者約10人が松島さんの緩急自在の手や足の動作に倣いながら、思い思いに体を動かした。「相手の動きから何かを感じ取って、コミュニケーションしよう」という松島さんの呼びかけに応え、身体表現の楽しさを満喫した。 10日も午前10時半と午後2時に実施する。1回約30分で参加無料。希望者は直接「東静岡アート&スポーツ/ヒロバ」へ。問い合わせは同会場<電054(294)710
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「オッペンハイマー」最有力 米アカデミー賞予想 映画評論家・鬼塚さんに聞く
米国時間10日(日本時間11日)に発表される第96回米アカデミー賞。日本の3作品が各賞候補に選出されるなど、例年以上に注目が集まる。主要部門の作品賞、監督賞の行方と日本作品の受賞の可能性について、映画評論家の鬼塚大輔さん(静岡英和学院大・常葉大非常勤講師)が占った。(聞き手=教育文化部・橋爪充) 作品賞は原爆開発を主導した人物を描いた「オッペンハイマー」(29日日本公開)が最有力だと思います。ブルーレイで見たのですが、評判通りの素晴らしい内容でした。クリストファー・ノーラン監督の集大成のような作品です。1月発表の第81回ゴールデングローブ賞では主要部門で受賞が相次ぎました。 ノーラン監
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残す芸術、残さない芸術 「天地耕作」糸口 静岡県美館長が講座
静岡県立美術館は3日、浜松市の美術家3人による野外美術制作プロジェクト「天地耕作(あまつちこうさく)」をテーマにした企画展「天地耕作 初源への道行き」(同館、静岡新聞社・静岡放送主催)の関連企画として、木下直之館長の美術講座を静岡市駿河区の同館で開いた。 木下館長は、流木や土といった自然物を使って山林などに制作し、限られた期間に公開する「天地耕作」のありようを糸口に、古今東西の芸術や文化について「後世に形を残すことが前提か、否か」という論点で話した。 美術館など厳密に管理された環境下で展示される「残す」作品の対極として、金刀比羅宮(香川県)に掲げられた絵馬を挙げ「人間だけでなく神仏が見る
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初代大橋宗桂VS本因坊算砂 江戸時代の将棋対局、プロ棋士が再現 静岡市歴史博物館
静岡市歴史博物館は29日、江戸時代の駿府城で行われた将棋対局を現役のプロ棋士が再現するイベントを同市葵区の同館で開いた。同日に市内で行われた「第82期A級順位戦最終局」の関連企画。 将棋家元「大橋本家」の祖で一世名人の初代大橋宗桂と囲碁家元「本因坊家」の始祖・本因坊算砂が、元和2(1616)年4月9日に顔を合わせた一局を、三代大橋宗桂が書いた「古名人勝負手合帳」の棋譜に基づきたどった。神谷広志八段(浜松市中央区)と竹部さゆり女流四段が、後手の初代宗桂が152手で勝利するまでの道筋を、息の合ったやりとりで解説した。 解説の二人は駒を動かしながら、対局中の二人の心境に思いをはせた。時に現代将
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演劇に関わる人 増やしたい 「アートひかり」仲田恭子
藤枝市の蓮華寺池公園や周辺の施設、商店街を活用した「藤枝ノ演劇祭」が3月2、3の両日、開かれる。今年で3回目。2022年の初開催から連続参加する演劇ユニット「アートひかり」の仲田恭子代表(同市出身)は「演劇祭を通じて、演劇に関わる人が増えてほしい」と願いを込める。 アートひかりは今回の演目に、オーストリアの劇作家ペーター・トゥリーニの代表作「ねずみ狩り」を選んだ。演出を担当した仲田は「現代社会や文明を批判する内容で1971年の初演時は賛否が分かれたが、今では教科書にも載っている。戯曲の力が普遍的だったのだろう」と紹介する。 都会のごみ捨て場に現れた男女。「全てはごみだ」とする男は銃でネズ
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言葉で描く 日常の点線 現代詩新シリーズに静岡県内若手2人
月刊誌「現代詩手帖」を発刊する思潮社が、若手の詩人による新シリーズ「lux poetica(ルクス・ポエティカ)」を立ち上げ、その第1弾に静岡県内出身の詩人2人の第1詩集が顔をそろえた。 偏屈な乾燥衣類(ニャー)。 メロンパンが湖を、画面を横切るカット、ボール。天使がひろがる床ゆか、皮膚。 鋭く、折れ曲がった人工の視線。 (「トロフィー、胡桃の床」の一部) 2023年に現代詩手帖賞に選ばれた芦川和樹さん(三島市出身)の「犬、犬状のヨーグルトか机」は、言葉の連なりから生まれるイメージを、果てしなく拡張する。瞬間的に単語を選び取っているような、スピード感豊かな詩集だ。 00年代
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野外フェス「朝霧JAM」 富士宮で10月12、13日開催
富士宮市で2001年から毎年秋に開く静岡県内最大級の野外音楽フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」の実行委員会は23日、今年の開催を10月12、13の両日とすることを発表した。開催は21回目。朝霧アリーナなどを会場とする。 朝霧ジャムは地元住民らと企画制作会社スマッシュ(東京)による実行委が運営する国内屈指の〝老舗〟フェス。国内外の多彩なジャンルの音楽家と1万人超の観客が集う。19年は台風接近で中止、20、21年は新型コロナウイルス感染拡大により中止した。23年10月、20回目の開催が実現した。
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美術の規範はみ出す実践 山本さん(金沢美術工芸大)講演 静岡県立美術館「天地耕作」関連企画
静岡県立美術館は18日、浜松市の美術家3人による野外美術制作プロジェクト「天地耕作(あまつちこうさく)」をテーマにした企画展「天地耕作 初源への道行き」(同館、静岡新聞社・静岡放送主催)の関連企画として、金沢美術工芸大講師の山本浩貴さん(文化学)を招いた講演会を静岡市駿河区の同館で開いた。 山本さんは「『天地耕作』を思い切り壊して、僕なりに再構築したい」と宣言し、同じ「かいたい」という読みの「改替」「開袋」「解体」「懐胎」の四つのパートに分けて語った。西洋の男性が「中心」を占めた美術の歴史が構造改革を迫られている現況を論じ、同プロジェクトを「『美術』の規範からはみ出る要素を持った実践」と位
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巻上さん 米芸術団体から支援決定 声の表現 革新性が高評価
米国の芸術家支援団体「ファンデーション・フォー・コンテンポラリー・アーツ(FCA)」は16日(日本時間)、2024年の助成芸術家を発表した。音楽家で詩人の巻上公一さん(68)=熱海市=が選ばれた。 助成金は4万5千ドル。巻上さんは1978年結成のバンド「ヒカシュー」やソロ活動を通じてボーカル技術を革新したこと、中央アジアの喉歌など声楽の伝統を実験的なボーカル・パフォーマンスに取り入れていることなどが評価された。 FCAは芸術家個人への支援を目的に、63年に作曲家ジョン・ケージと画家ジャスパー・ジョーンズが創設した非営利組織。これまで千人以上のアーティストが絵画、彫刻、版画などを寄贈し、財
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瞬間を生き続けるために パフォーマー・松島誠さん(沼津市)【表現者たち】
日本大芸術学部在学中の1980年代前半に、後に世界的な団体となるダンスシアター「パパ・タラフマラ」に参加し、2012年に解散するまでパフォーマーとして活躍した松島誠さん(60)=沼津市=。即興を主体にした、身体と声、表情をしなやかに用いた表現で知られる。 南米、中米、欧州、東南アジアなど20カ国以上、約500回の公演実績は、言葉を介さない表現の強みを最大限に発揮するすべを心得ているからこそ成し得たものだ。 「国内外を問わず、最初はダンサー同士のセッション、体の対話から始まる。即興のやりとりからどれだけ新しいもの、高揚感が生まれるか」。アーティスト同士で一つのパフォーマンス作品を作る。それ
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静岡の書家・柿下木冠さん追悼展 故郷への思い、濃淡やかすれで雄弁に
昨年10月4日に亡くなった静岡市駿河区の書家柿下木冠(かきした・ぼっかん)さん(1940~2023年)の追悼展が15日、同市葵区のギャラリーえざきで始まった。 同ギャラリーでの隔年開催が定着していた柿下さんの「近作小品展」に連なる展覧会として教え子らが企画。22年以降の作品を中心に、書道研究会「抱一会」などで柿下さんと切磋琢磨(せっさたくま)した書家大石千世さん(同市葵区)が20点を選んだ。 飯田蛇笏の句を縦横の文字列で踊らせた作品、故郷・川根本町の山や草木への思いを一文字に込めた「象書」など、熟練の筆遣いによる濃淡の墨の走り、にじみ、かすれが題材を雄弁に表現する。ウクライナの平和をこい
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静岡県内屈指の〝古株〟野外音楽フェス「頂」 今年が最終回
毎年6月上旬に吉田公園(吉田町)で開く野外音楽フェスティバル「頂-ITADAKI-」を主催するブンブンバッシュ(静岡市駿河区)は15日、2008年から続く同フェスの開催を今年で最終にすると明らかにした。 すでに開催発表されている6月1、2両日を「頂-ITADAKI-THE FINAL」(静岡新聞社・静岡放送共催)と銘打つ。小野晃義プロデューサーは「世の中のさまざまな状況、自分自身の体力の低下を踏まえ、今年の開催をもってファイナルとすることに決めた」とコメントを寄せた。 「頂」は静岡県内屈指の〝古株〟野外フェス。2008年6月に同市清水区の日本平ホテル野外庭園で「頂 日本平大音楽祭」と題し
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針金に血が通い“生”が宿る ワイヤーアーティスト・法月健一さん(静岡市葵区) 【表現者たち】
針金に命を吹き込む。簡略化された線の集合から表情が生まれる。ワイヤーアーティスト法月健一さん(38)=静岡市葵区=の、動物や人物をモチーフにした立体作品は、無機的な素材を「生々しさ」に変換する。その過程、落差がスリリングだ。 ペンチを用いるが、多くの部分は素手で仕上げる。「触りながら作るので、血が通いやすい。体温を伝えやすい」。作業のありようは、手を使って土をこね、繊細に成形して、茶人の手になじむわんをこしらえる陶芸家に近い。作り手の“手の跡”が感じられる。 針金との付き合いは13年目という。グラフィックデザインを志していた専門学校時代、仲間6人と東京ビッグサイト
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「生きること」全てが「詩」 松下育男さん 静岡で講演
静岡県詩人会(金指安行会長)は、年始恒例の催事「ポエム・イン静岡」を静岡市葵区の中島屋グランドホテルで開いた。詩人の松下育男さんが「わたしの詩と生について」と題して講演した。「書く」「読む」だけでなく「生きること」全てが「詩」であると説いた。 松下さんは7、8歳で詩を書き始め、30代で詩と距離を置いた後、50代後半に詩作を再開した。これまでの道程を振り返り、「人の詩を読むことが自分の人生を豊かにしてくれた」と語った。強く引き付けられた詩人として1986年の「ひょうたんへちま」以降、2020年までに詩集10冊を発表している長嶋南子さんを挙げた。 松下さんは長嶋さんの新旧作品5編を5段階の進
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時論(1月23日)人生を変えた井上靖のことば
17日発表の第170回直木賞に選ばれた万城目学さんの「八月の御所グラウンド」には、第2次大戦前の草薙球場(静岡市駿河区)が出てくる。時間や場所は明示されないが、日米野球で沢村栄治投手がベーブ・ルースらを相手に1失点で抑えたゲーム、といえば一つしかない。1934年11月20日。球場に2人の像が残る「あの」試合だ。 昨夏の第169回直木賞では、島田市生まれの永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」が選出された。41年ぶりの“県勢”受賞は、本紙の2023年十大ニュースに選ばれた。 第170回の候補6人に本県出身者はいなかったが、万城目さんは“準県勢”
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富士宮市の彫刻家御宿さん フィリピン・セブ島に新作を設置
彫刻家御宿至さん(富士宮市)の新作「創造の楽しみ~喜び~」が、模型大手タミヤ(静岡市駿河区)のフィリピン・セブ島の新工場に設置された。 ブロンズにウレタン塗装を施した作品は高さ3メートル10センチ。二つの立方体を重ねた構造で、上下それぞれに弱くねじった面と、強くねじった面を持つ。面のなめらかさと縦横のエッジが作り出す直線という相反する要素を、有機的に組み合わせた。 2021年秋から制作を始めた作品を前に御宿さんは、彫刻家で詩人の高村光太郎(1883~1956年)の著作「美について」を引き「『いい作品は見る人が(周りを)回ってみたくなる』という言葉が頭にあった」と語った。
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音楽をやりたいという気持ちのままに 作・編曲家(富士市出身)/林哲司【あのころの私⑥】
竹内まりやさん「SEPTEMBER」(1979年)、杏里さん「悲しみがとまらない」(83年)、中森明菜さん「北ウイング」(84年)など多くのヒット曲で知られる作・編曲家の林哲司さん(74)=三島市=。近年は「シティ・ポップ」ブームの担い手として、世界中から注目を集める。ことしは活動開始50周年。音楽と共にあった富士市での中学高校時代を見詰め、「導かれるようにここまできた」と感慨を込めた。 音楽が生活に入ってきたのは吉原三中に入学してから。ブラスバンド部で毎日クラリネットを吹いていました。ラジオで聴いた洋楽や映画音楽の旋律を耳で覚えて、階段の踊り場で演奏していた。ギターを始めたのも中学時代
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静岡市駿河区池田 住宅街にすっくと現存 「火の見櫓」編②【アートのほそ道】
しずてつジャストラインのバス停「池田」のほど近く、静岡市消防団静岡第14分団の器具置き場の敷地に、コンクリートの基礎からすっくとそびえる火の見櫓[やぐら]。周辺はアパートや、ファミリー向けの一戸建てが立ち並ぶ。静岡県内では珍しい、住宅街に現存する1基だ。 交点に丸い金物を用いたX型のブレース(筋交い)を8段重ね、バスケット型の見張り台をいただく。四角すいの屋根の下には半鐘も健在だ。由来や大きさについて、静岡市消防局には記録がない。中部電力パワーグリッド静岡支社によると、隣接する電柱の高さは約13・5メートル。火の見櫓は15メートルを超えるとみられる。 「昭和25(1950)年頃だったと思
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劇団「ユニークポイント」拠点移動へ 藤枝市「白子ノ劇場」24年1月閉館
藤枝市の小劇場「白子ノ劇場」が2024年1月で閉館する。劇団「ユニークポイント」の専用劇場として多くの演劇ファンや市民に親しまれた約6年。劇団主宰で劇作家・演出家の山田裕幸(焼津市出身)は「やれることは全てやった。貴重な創作の場だった」と感謝を込めて振り返る。 6年の活動支えた 創作の場 同劇場が入る築約50年の建物の取り壊しを見据え、管理する不動産会社から今年2月に退去の要請があったという。12月9~11日にユニークポイントの最終演目「5deer」を上演。来年1月のワークショップ「みんなでつくる演劇」が最後の活動となる。 1999年に東京で活動を始めたユニークポイントが藤枝市に拠点を移
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富士市南松野 優美な“貴婦人” 「火の見櫓」編①【アートのほそ道】
ヤマモミジやケヤキ、イチョウが整然と植わった庭園に据えられた、真っ白な火の見櫓[やぐら]。高さ19メートルは県内最大級だが、周囲を圧する気配はない。背筋を伸ばした貴婦人のようなすっきりしたいでたちと、“足元”のなだらかなカーブは、優美さに満ちている。八角形の屋根は少し外側に膨らんでいて、鉄製とは思えない柔らかな雰囲気を醸し出す。 富士市南松野のカフェ「無上帑[むじょうど]」の敷地内に立つ火の見櫓は、2005年に地元の市民グループ「櫓[やぐら]an[あん]」(久保田常右代表)が旧富士川町の国道1号沿いから移設した。06年には、国の登録有形文化財に認定された。 195
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SDGs活躍の社会派コメディー 最優秀賞・富士、高校演劇関東大会へ
2024年夏の全国高校総合文化祭演劇部門出場を目指す第47回静岡県高校演劇研究大会(県高校文化連盟演劇専門部など主催)が11月25、26の両日、静岡市葵区の市民文化会館で開かれた。ブロック大会を勝ち抜いた12校の演目を識者が審査し、富士が最優秀賞に決まった。優秀賞4校から選出された韮山とともに、来年1月に甲府市で開催される関東大会に出場する。 3年ぶり7回目の関東大会出場を決めた富士の作品は、創作脚本・演出の「Goodbye,the earth」。地球最後の日を前にした「世界のどこか」を、9本のドラマで描く。「SDGs」を名乗るヒーロー3人が「海洋汚染」なるダークヒーローと対決する社会派コ
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格好良い女性像追う 劇団代表・草野冴月さん(静岡市葵区)【表現者たち】
静岡女子高(静岡市駿河区)演劇部の卒業生を主体にした「演劇ユニットHORIZON[ホライゾン]」はことし、旗揚げ10周年を迎えた。演出、脚本を手がける草野冴月代表(38)=静岡市葵区=は、節目の年の掉尾[とうび]を飾る12月公演に特別な作品を選んだ。多くの演劇関係者やファンの支持を得ている「演劇集団キャラメルボックス」の「サンタクロースが歌ってくれた」である。 「高校1年の春、部活動紹介で演劇部がこの演目の小編を上演してくれて。『かっこいい。あそこに入りたい』と強く思った。それが演劇に関わるきっかけ」 高校時代は40人ほどの部員と切磋琢磨[せっさたくま]し、演じることに全霊をささげた。大
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文芸賞短篇部門受賞 西野冬器さん(静岡県出身) 「絶対にない世界観を」
第60回文芸賞(河出書房新社主催)の「短篇部門」に静岡県の西野冬器さん(16)=在住地、在校名非公表=の「子宮の夢」が選ばれた。「短篇部門」は雑誌「文芸」が創刊90周年を記念し、1年限りの企画として募集。4176作の応募があった。選考委員の一人の作家松田青子さんは選評で「候補作の中で最も表現の冒険を行っている」とたたえた。 西野さんは中学時代に小説を書き始めた。高校1年の年末に完成させた「子宮の夢」が、大きな成果を得た。「自分の書いたものが人に読まれているという感触を味わうのは初めて」と実感を口にする。 作品は、女たちが子宮を投げ合う奇想的な場面で始まる。語り手の体から引っ張り出された「
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「文芸静岡」創刊60周年 「地域の総合誌」脈々と紡いだ志
高度経済成長期のさなかに発足した県文学連盟、その機関誌「文芸静岡」が60周年を迎えた。今秋に第93号を発刊。詩、小説、短歌、俳句などの書き手が一堂に集まる、全国でも珍しい「地域の総合誌」として、本県の文芸運動の中心であり続けている。 「文芸静岡」は1963年12月創刊。主導したのは当時静岡大で教えていた作家の高杉一郎(1908~2008年)だった。戦前は改造社(東京)の「文芸」編集責任者を務め、大陸への従軍、シベリア抑留を経て1949年に故郷の静岡に帰ってきた。50年代から60年代にかけて、「静岡文芸」創刊、県芸術祭の入賞作品を掲載する「県内文芸」の立ち上げにも関わっていた。本県の文学の
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森との関係見直す 現代美術家・楡木令子さん フィンランド人招き展覧会
藤枝市の地域おこし協力隊としても活躍する現代美術家楡木[にれき]令子さん(東伊豆町出身)が同市の中山間地を拠点に、2人のフィンランド人写真家を招いた交流プロジェクト「The Forest―鎮守の杜[もり]」を実施している。26日まで、かつての保育園を活用した展覧会を中心に、森林と人の関わりをテーマに据えたさまざまなプログラムを予定する。 写真家2人はリトヴァ・コヴァライネンさん、サンニ・セッポさん。ともにヘルシンキデザイン美術大修士課程を修了した。1990年代初頭に森林や自然を主題にしたプロジェクト「Tree People」を始め、現在も継続する。 「フィンランド人にとって森林は大切な場
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神津島のラン科植物、雑種化 送粉者に適応、繁殖しやすく ふじミュー早川准教授ら発見
伊豆諸島の神津島に分布するラン科の植物が、送粉者のツチバチの特徴に合わせる目的で近縁種と交わり雑種化していることを、神戸大大学院末次健司教授、ふじのくに地球環境史ミュージアム早川宗志准教授らの研究グループが突き止めた。植物の進化や生態系に及ぼす影響を理解する手がかりになる。 グループは約10年にわたる同島のラン科植物アケボノシュスランの観察により、①本土の主要な送粉者であるマルハナバチがいない同島ではツチバチが花粉を運んでいた②マルハナバチに比べて蜜を吸う器官「口吻[こうふん]」の短いツチバチに花粉を運んでもらうため、アケボノシュスランは花筒(花の筒状になった部分)が短い別のラン科植物との
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「節目」の20回目彩る28の音色 朝霧JAM、1万6千人魅了
老舗野外音楽フェスティバル「朝霧JAM[ジャム]」(実行委員会主催)が21、22の両日、富士宮市の朝霧アリーナと周辺で開催された。節目の20回目。大小二つのステージに国内外の28アーティストが集い、延べ約1万6千人(主催者発表)を楽しませた。 2001年の第1回から、出演者のジャンルの幅の広さが特色だったが、今年はそれが際立った。 21日の幕開けを務めた7人編成のチョコパコチョコキンキンは中南米の音楽、アフリカのビート、沖縄のカチャーシーを取り入れた楽曲を連発。一方で、22日の最後を飾った韓国人DJナイト・テンポは日本の昭和歌謡や70、80年代アイドル曲をディスコビートに乗せて会場を踊
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高温で種残す 植物を作出へ 沼津の慶応大AOI・ラボ
地球温暖化に伴う農作物の高温障害が顕在化する中、沼津市のAOI―PARC(アオイパーク)に拠点を置く慶応大SFC研究所AOI・ラボ(代表・神成淳司教授)は、高温に強い植物の作出を目指して研究を進めている。先端農業推進を掲げる県の「AOIプロジェクト」の一環で、突然変異の誘発を通じて、高い気温でも安定して種子をつける個体を見いだすのが狙い。研究結果をさまざまな農作物に応用展開し、種子の安定供給に寄与したい考えだ。 同ラボの樽谷芳明特任准教授が、アブラナ科のシロイヌナズナを使って実験を重ねている。シロイヌナズナは高さ40~50センチに成長し、発芽から種をつけるまでは数週間程度。突然変異の実験を
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里山、海岸… 土地の記憶とともに 奥能登国際芸術祭 石川・珠洲
石川県珠洲市で11月12日まで、国内外50組超のアーティストが集う広域フェスティバル「奥能登国際芸術祭2023」が開かれている。能登半島の変化に富んだ景観や古くから受け継がれてきた生活・文化を下敷きにした作品を鑑賞するため、海岸線や里山の集落を巡った。 芸術祭は2017年に初開催。トリエンナーレ(3年に1回)方式を想定していたが、20年は新型コロナ禍で1年延期した。ことしの第3回も、5月5日に起こった震度6強の地震が開催を危うくした。「人口約1万3千人の半数以上が高齢者。復興優先との声もあった」と事務局の水上昌子次長は振り返る。 開催の決め手は、過去の実績だった。17年の第1回は7万1
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「即興」の音色響く 熱海未来音楽祭が開幕 巻上公一さん「化学反応を見て」
音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)が企画する、「即興」をキーワードにしたジャンル横断型イベント「第5回熱海未来音楽祭」が20日、同市内で開幕した。 オープニングを飾ったのは「復讐(ふくしゅう)から愛への肌触り」と題した即興演奏と人形劇の協働演目。熱海銀座商店街の衣料品店にすり鉢状の客席を設け、コルネットやテルミンを操る巻上さん、サックスの纐纈雅代さん、鍵盤楽器の坂口光央さんの演奏に合わせて人形遣いの黒谷都さんが紙の人形(ひとがた)や、布で作った顔を用いたパフォーマンスを披露した。会場には、まがまがしさと清涼感が入り交じった、不思議な空気が充満した。 残り2日の音楽祭は、中国西南部の口琴
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「静岡文学マルシェ」 焼津に全国の自主制作本 10月22日まで
静岡県内外の文学愛好家がつくる自主制作本を展示即売する「静岡文学マルシェ」が20日、焼津市の「プレイボール!カフェ」で始まった。22日まで。 県内17組を含む全国21都府県の62組の書籍やグッズ約210点を販売する。詩歌集やミステリー、ファンタジー小説、絵本といった文芸作品に加え、今年は介護や文具をテーマにしたエッセー集、星占いなどの実用書も多く、ジャンルの幅が広がった。2016年から年1回のペースで開催している。 表紙にリボンやトレーシングペーパーを使ったり、タイトルを型押ししたり、短編小説を一つ一つ封筒に入れたりするなど、一般の書店では見られない装丁の本も多い。同マルシェ実行委員会の
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熱海未来音楽祭 10月20日から 即興演奏、大河のように
音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)がプロデュースする「即興」をキーワードにした音楽とパフォーミングアーツの祭典「第5回熱海未来音楽祭」(20~22日)のプレイベントが、同市の起雲閣で開かれた。 「4万キロメートルの音楽散歩」と題し、巻上さんと5人の音楽家が組み合わせを変化させながら即興演奏を繰り広げた。米国出身のピアニスト、アルメン・ナルバンディアンさんの端正なメロディーを連ねた清涼感のあるソロからスタート。巻上さんのテルミン、内橋和久さんのギター、フランク・グラトコフスキーさん(ドイツ)のバスクラリネットが加わり、跳ねるようなリズムを時折交えながら、音量や音程を高めたり降下させたりを繰
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日本語の豊饒さ 再認識 恩田さん 評論新刊
俳人で文芸評論家の恩田侑布子さん(SBS学苑講師)=静岡市葵区=が俳句をはじめとした文芸や芸術を論じた「星を見る人 日本語、どん底からの反転」(春秋社)を発刊した。功利主義がまん延し、死生観が浮薄化していく情報社会に対する危機感が執筆の原動力。読者に改めて日本語の豊饒[ほうじょう]さを提示し、その復権を呼びかける。 2013年から23年までに書いた評論に、大幅に筆を加えた。石牟礼道子の全句集から自身に共通する「古里」のイメージを嗅ぎ取り、久保田万太郎の「やつしの美」を「けはい」「ミニマリズム」といったキーワードを用いながら多面的に論じた。 2年間の新聞連載「俳句時評」から、芳賀徹(前県立
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「超老」芸術家の自信作一堂に 静岡グランシップ
静岡県民のアート活動を支援する県文化財団内の組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」は3~8日、高齢になっても絵画や彫刻などに取り組み続ける「芸術家」の作品を一堂に集めた「超老芸術展―遅咲きのトップランナー大暴走!―」を、静岡市駿河区のグランシップで開く。開幕を翌日に控えた2日、作品の搬入、展示作業が行われた。 「超老芸術」は、ACしずおかの櫛野展正チーフプログラム・ディレクターが命名した概念。専門的な美術教育を受けていないのに、ユニークな作品群を生み出す力がある高齢者が多いことに気づいた。 今回は県内外22組の「超老芸術家」が集まる、初の大規模展。平面・立体作品約1500点が並ぶ。
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海野雅威 直感重視のステージに【ハママツ・ジャズ・ウィーク「ヤマハジャズフェスティバル」出演者に聞く㊤】
第31回ハママツ・ジャズ・ウィーク(浜松市、ヤマハ、静岡新聞社・静岡放送など主催)が10月14日に浜松市で開幕する。最終日、22日にアクトシティ浜松で行う「ヤマハジャズフェスティバル」の出演者に、音楽的な信条や、今回のライブの聴きどころを聞いた。 東京芸大在学中、18歳で音楽家として活動を始め、2008年に米ニューヨークに移住したピアニストの海野雅威[ただたか]。マイルス・デイビスとの共演で知られるドラマーのジミー・コブ、00、10年代を代表するトランペッター、ロイ・ハーグローブら数々の大物ジャズ音楽家との共演で知られる。 「ジャズの本場に住んで、現地のミュージシャンに指名されてバンド
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進化続ける熱海怪獣映画祭 市民発案で誕生、来月6回目 「世界の愛好家 集う場に」
「熱海で『キングコング対ゴジラ』を見たい」。2018年から毎秋開催する「熱海怪獣映画祭」の発端は、JR熱海駅周辺のバーで交わされた常連客の会話だった。酒場で膨らんだ町の活性化策は、同じ年に「映画祭」として結実。通算5回の歴史を刻んだ。今年も10月の開催を控える。 1962年に作られた同作では、クライマックスで熱海市の海沿いに位置する観光施設「熱海城」が派手に破壊される。一般社団法人「熱海怪獣映画祭」の水野希世代表(同市)は「ほかにも『大巨獣ガッパ』やウルトラシリーズなど、多くの作品の舞台になっている。熱海と怪獣映画の縁の深さが映画祭開催のきっかけ」と話す。 バーでアイデアを出した市民らが
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アントニオ猪木さん一周忌 直木賞作家の村松友視さん、40年の交友振り返る「『面白い』ことを探し続けた男」
プロレスラーのアントニオ猪木さんが亡くなってから、10月1日で1年。直木賞作家の村松友視さん(83)=旧清水市出身=が、1980年のベストセラー「私、プロレスの味方です」を契機とした約40年の交友を振り返り、空前絶後の人物像に改めて思いをはせた。 ―「私、プロレスの味方です」をお書きになったのは、中央公論社の編集者だったころでした。猪木さんとの接点はどのように生まれたのでしょうか。 「当時は、(プロレス評論家の)田鶴浜弘さんみたいな関係者以外で、プロレスについて書く人は皆無だったんです。『私、プロレスの味方です』はプロレスについて考えようという本なわけで、売れるわけがないと思ったので、
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「私のモットーは常に『最新が最高』なんです」 弾き語りトラックメイカーアイドル眉村ちあき 唯一無二の音楽、源泉は?
作詞・作曲、編曲、歌唱、ステージパフォーマンスの全てを高水準でこなす「弾き語りトラックメイカーアイドル」眉村ちあきが30日、浜松市中区のライブハウス「浜松窓枠」でライブを行う。5月に発表した新作アルバム「SAI」のツアー「一切合SAI」の一環。唯一無二の音楽活動の源泉を聞いた。 ー「SAI」のツアーは5月から続いています。手応えはどうでしょうか? 「私のモットーは常に、『最新が最高』なんです。だから、毎回のライブも『めちゃくちゃ更新しているな』という感じがあります。最新のライブが、今までで一番いいライブ。でも、主観と客観が違うのも分かっているから、各地のおいしい物を食べに行きつつ、スタ
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静響が定期演奏会 スダーンさん情熱的指揮、2大作曲家の名曲演奏
富士山静岡交響楽団は16日、第121回定期演奏会(静岡新聞社・静岡放送共催)を静岡市清水区のマリナートで開いた。 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団など世界の名だたるオーケストラと共演歴があるユベール・スダーンさんを指揮に迎え、シューベルト作曲「交響曲第7番ロ短調『未完成』」、ベートーベン作曲「交響曲第3番変ホ長調『英雄』」を中心にプログラムを組み立てた。ヨーロッパの二大作曲家の代表曲を立て続けに聴かせた。 指揮棒や指揮台を使わないスタイルのスダーンさんは、膝から両手の指先までをやわらかく使いながら指揮し、楽団員一人一人と対話するように、一音一音を抱きとめるように音楽を
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「普通じゃない」地点へ 俳優 蔭山ひさ枝さん(静岡市葵区)【表現者たち】
静岡大演劇部の卒業生を中心に結成し、静岡市を拠点に活動を続ける「劇団渡辺」は来年、20周年を迎える。蔭山ひさ枝さん(43)=同市葵区=はその間、「看板俳優」の誉れと重圧を一身に受けてきた。 2023年は、活動を加速させている。あらゆる行動がままならなかった新型コロナ禍の3年間に報復するかのようだ。2月にイプセンの古典「人形の家」で主役ノーラを演じるなど、8月までに6作品。どの演目も、アルトの声で放たれる巧みなせりふ回しと確かな身体表現で、観客に強い印象を残した。 「無計画な人間だから、面白そうだしやるか、となる。でも、もともと『演劇で食べていくぞ』という気持ちで始めた劇団。常に作品に関わ
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静岡フィルハーモニー 熱の込もったリハーサル 2日特別演奏会
1977年に創設し、静岡市民を中心に活動を続ける静岡フィルハーモニー管弦楽団は29日夜、同市葵区の市民文化会館で9月2日に開催するロシア出身のピアニストを招いた特別演奏会を前に、同館でリハーサルを行った。 国内外で活躍する指揮者の篠崎靖男さんが約90人の団員を前に熱を込めて指導した。「メロディーを聴いて(楽団全体が)一つになろう。共感とオーケストラは同義」と呼びかけ、細かいテンポの取り方や音色のニュアンスを助言した。 演奏曲目のシベリウス作曲「交響詩『エン・サガ(伝説)』」は、各パートの見せ場が多数用意された荘厳な作品。篠崎さんは「フィンランド人としてのアイデンティティーを爆発的に表現し
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新設校、校歌制定にも新風 静岡県立ふじのくに中学校、伊豆伊東高
自校の教育理念や地域の自然・文化を織り込んだ高校や中学の校歌は、在校生のみならず卒業生にとっても心のよりどころとして機能している。社会の変容に基づいて学校の統合や新設が相次ぐ中、制定の方法や作者の人選にも新しい風が吹いている。県内の二つのケースを追った。(教育文化部・鈴木美晴、橋爪充) ふじのくに中学校、県内初の夜間中学 1期生の思いを表現 県内初の夜間中学「県立ふじのくに中学校」の第1期生が校歌づくりに取り組んでいる。新設校ならではの取り組みを通し、生徒が自ら何かをやり遂げる経験を積み、主体的に学ぶきっかけの一つとするのが狙い。 三島市の同中学三島教室で7月中旬、藤枝市出身のシンガー
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映像分析 災害の現場特定 「キャメラを持った男たち-関東大震災を撮る-」 都市史・災害史研究家 田中傑さん(静岡駿河区)
1923年9月1日の関東大震災から100年を迎えるのを前に、震災直後の現地を撮影したカメラマン3人とその映像フィルムに着目したドキュメンタリー映画「キャメラを持った男たち -関東大震災を撮る-」が8月26日、全国で公開される。過去に例がないこのプロジェクトでは、静岡市駿河区の都市史・災害史研究家の田中傑さん(49)が、映像の撮影日時や場所の特定に大きく貢献した。 映画は一般社団法人「記録映画保存センター」(東京)が製作。関東大震災を記録した二十数本のフィルムから、日活向島撮影所の撮影技師だった高坂利光さん、「東京シネマ商会」所属の白井茂さん、映画会社「岩岡商会」経営の岩岡巽さんの3人が撮影
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古布で「人の不在」表現 浜松で美術家婦木さん個展 27日まで
浜松市中区の市鴨江アートセンターで、神戸市出身の美術家婦木加奈子さん(26)の個展「いなさ」が開かれている。同センターのアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)事業の一環。役目を終えた古布を素材にした造形を組み合わせ、「人の死」や「不在」について考察するインスタレーションを提示した。展覧会は27日まで。 婦木さんは5月、浜松市に移住。直後に別の場所に住む親しい人の死に直面し、「死に向き合うこと」「死によって残るもの」を作品の主題に決めた。「不在の存在」を意味する造語「いなさ」という言葉をよりどころに創作を進めた。 現在は使用されていない衣類、布団、座布団などを活用し「かつて誰かが使って
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現代書家 大杉弘子さん(袋井市)「書」を「書」で考えない【表現者たち】
9年ぶりの地元での個展を前に、気勢がみなぎる。現代書家大杉弘子さん(76)=袋井市=は、徳川家康を主題にした今回展の淵源に大河ドラマ「どうする家康」を挙げる。 「新しい史実、解釈。いいじゃない、私たちが習った歴史とは違っても。まさに『ポストモダン』」 国民的ドラマからの影響をあっけらかんと語るのは、大杉さんの真骨頂だ。「厭離穢土欣求浄土[おんりえどごんぐじょうど]」をはじめとした家康の言葉、三河から身を起こし天下を治めるに至った道程を念頭に、気をためて筆を揮[ふる]った。 1980年代から、同時代の文化芸術への興味関心をてこに「書」の世界を拡張すると同時に、文字の歴史を深く掘り下げると
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裾野でロケ 「リボルバー・リリー」 行定勲監督 生と死の境界線描く
裾野市でロケが行われた「リボルバー・リリー」は、長浦京のハードボイルド小説を、行定勲監督がガンアクションと人間ドラマを両輪に据えて映画化した。行定監督は、綾瀬はるか演じる銃の使い手「小曾根[おぞね]百合」の行動原理が伝わる演出に腐心したとし「生と死の境界線を描けた」と手応えを口にした。 舞台は大正時代の東京。小曾根は鍛え抜かれた戦闘力と洞察力で、やくざや軍から狙われる少年細見慎太(羽村仁成)を保護する。陸・海軍の陰謀と工作がうごめく中、小曾根は生き延びるためのぎりぎりの選択を繰り返す-。 「GO」(2001年)、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)などで知られる行定監督にとって、アク
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富士山御殿場口 登山道140周年 歴史に思いはせる写真展
御殿場市の御殿場口新5合目が現在の起点となっている「御殿場口登山道」は今年、開設140周年。山小屋関係者らは開削の中心人物である伴野佐吉(1839~1905年)や登山道の歴史に思いをはせる。 富士登山の4ルートで最も新しい同登山道は、開設年やいきさつがはっきりしている唯一の道でもある。ルート上の山小屋などでつくる山内組合の福島邦彦組合長(71)は伴野佐吉について「富士山を観光資源として捉え、御殿場に人を呼ぶ方策を考え、実行に移した」とたたえる。 毎年7月1日に市内で行う開山式には、佐吉の子孫にあたる伴野琢也さん(東京)が列席する。新型コロナ禍で途絶えていた慣例が今年、4年ぶりに復活した。
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富士山保全協力金 木札が“切り札” 新返礼品好評「自然感じる」 静岡県、主要3登山道5合目などで配布【富士山臨時支局】
静岡県は今年、世界遺産富士山の環境保全管理に用いる「富士山保全協力金」の協力者証を、これまでの缶バッジから木札ストラップ=写真=に変更した。新装した“返礼品”への登山者の評価は上々で、県の担当者は協力率の最高更新に期待を込める。 新しい協力者証は富士山麓周辺が原産のブランド木材「富士ヒノキ」が素材。縦6・5センチ、横3・5センチで、富士山世界文化遺産協議会が制定した世界遺産登録10周年記念のロゴマークをレーザー加工で彫り込んだ。県内では主要3登山道の富士宮口5合目、御殿場口新5合目、須走口5合目、水ケ塚駐車場の計4カ所で、保全協力金(1人千円)を支払った人に配布して
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川越宗一さん 静岡新聞連載小説「パシヨン」単行本化 「一人一人の集積、丁寧に」
2021年7月から約1年間続いた静岡新聞朝刊小説「パシヨン」が単行本化された。戦国・江戸時代のキリスト教徒の苦難と救済を描いた作品は、キリシタン大名の子孫で渡欧して司祭となる小西マンショ彦七が主人公。著者の直木賞作家川越宗一さんは、初の新聞連載を「一人一人の人間の集積が歴史のうねりになる。その一つ一つを丁寧に描こうとした」と振り返った。 直木賞受賞作「熱源」と同様に「価値観の相違」が主題の一つ。織田信長から徳川幕府に至る、正邪の考え方が大きく揺れ動く時代は、ストーリーをつかさどる作家には魅力的に映った。 「キリストへの信仰を持つ人、持たない人。江戸時代に順応できる人、できない人。二軸が組
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時論(7月28日)学校図書館に文学賞作品を
永井紗耶子さんの「木挽町[こびきちょう]のあだ討ち」が第169回直木賞に決まった。5月の第36回山本周五郎賞に続く“2冠”である。 本人による略歴に「生まれは駿河の島田宿」とある。受賞会見では島田大祭・帯まつりに言及していた。人生の大半を県外で過ごしたにもかかわらず「静岡」を特別な存在として扱ってくれた。県民の一人としてうれしかった。 決定から1週間余。今、この作品を手に入れるのは至難の業だ。主要書店には姿がない。「月末に新潮社が増刷するようだ」。独立系書店店主の言葉が頼りなく響く。 巡り合わせだろうか。店頭をにぎわせているのは、2021年の第164回で芥川賞に
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佐藤九段2回戦へ 将棋JT杯静岡大会 183手熱戦、稲葉八段破る
プロ棋士の公開対局などを行うイベント「将棋日本シリーズJTプロ公式戦/テーブルマークこども大会」静岡大会(日本将棋連盟、静岡新聞社・静岡放送主催)が22日、静岡市駿河区のツインメッセ静岡で開かれた。全国を巡回するトーナメントの1回戦第3局を行い、先手の佐藤天彦九段が稲葉陽八段を183手で下し、2回戦に進出した。 約2時間の大熱戦を粘りの将棋で制した。序盤から互いに大駒を取り合い、先手角2枚、後手飛車2枚の戦いとなった。稲葉八段は8三香、8四香を連ねて突破を図ったが、佐藤九段は6八玉でかわして桂2枚で中央から攻めたてた。中盤から終盤にかけては互いに視野を広く保って押し引きを繰り返したが、佐藤
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「絵が助けてくれる」という確信があった 絵本作家(浜松市出身)/スズキコージ【あのころの私①】
さまざまな分野で活躍する県内出身者は、子供時代をどのように過ごしたのか。友人や教師との付き合い、部活や勉学、挫折と苦労-。現在の立場につながる出来事や目標への努力、工夫を語ってもらうインタビュー企画。初回は絵本作家のスズキコージさん(75)=浜松市出身=。 浜名中から浜松西高に入り、まだ赤くなかった遠鉄とバスで1時間半ぐらいかけて通っていました。勉強は苦手だったけれど、西高に入ったら「絵が俺を助けてくれる」という確信があったんです。 美術部で寝ても覚めてもアートの活動。絵を志している連中とワイワイしながら、大いにデッサンをやりましたよ。(消しゴムの代わりに)パンで消すんですが、腹が減って
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佐藤九段、稲葉八段が抱負 将棋JT杯静岡大会22日
静岡市駿河区のツインメッセ静岡で22日に開かれる「将棋日本シリーズJTプロ公式戦/テーブルマークこども大会」静岡大会(日本将棋連盟、静岡新聞社・静岡放送主催)を前に、公式戦トーナメントの1回戦で対局する佐藤天彦九段と稲葉陽八段が21日、同市内で取材に応じ、意気込みを語った。 同連盟のタイトルホルダーや賞金ランキング上位者12人が出場し、トーナメントで争う同シリーズ。3年ぶりに名を連ねた佐藤九段は「トップ棋士が顔をそろえ、オールスターの趣がある」と心証を語り、対局の喜びを口にした。 稲葉八段は2年連続3回目の出場。初出場の2018年は静岡市での1回戦で当時の渡辺明棋王に敗れている。昨年は準
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「情」排除 軽やかな静岡 地元で初個展 写真家・佐内正史さん(静岡出身)
静岡市出身の写真家佐内正史さん(55)の個展「静岡詩」が、静岡市葵区の市美術館で開かれている。地元での個展は初。県内の風物を撮影した約40点は全て新プリントで、約100点とエッセーを収録した同タイトルの書籍も発行した。何げない日常を切り取る作風で知られ「写真は写真の個性を撮るもので、私の個性を撮るものじゃない」と公言する佐内さんにとって、生まれ育った場所を題材にした展覧会には格別の難しさがあったという。 デビュー直後の1998年から断続的に撮影を続けた“静岡写真”に、今年4月以降の撮り下ろしを加えた。初夏の光を浴びる昼下がりの静岡市役所前、富士川河口の堤防、古びた
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フラメンコ 情熱伝える ギターデュオ徳永兄弟 7月静岡公演
本場スペインで学び、現代的なフラメンコを追求するギターデュオ「徳永兄弟」が7月5日、静岡市葵区の静岡音楽館AOIで県内初公演を行う。激しさともの悲しさを行ったり来たりする、振れ幅の広い感情表現がフラメンコの神髄。2人は「熱量たっぷりのステージを楽しんでほしい」と口をそろえる。 兄・健太郎、弟・康次郎で活動を始めて11年目。それぞれがスペインのコンクールで上位入賞を果たし、デュオとしてはアニメ「アルスラーン戦記」主題歌やNHK番組「旅するためのスペイン語」のオープニング曲を手がけた。今夏の野外フェス「フジロックフェスティバル」への出演が決まるなど、活躍の場を広げている。 昨年11月に発表し
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メディアの変化伏線に 横関大さん(富士宮出身)「メロスの翼」
昨年発刊したユーモアミステリー「忍者に結婚は難しい」が第10回静岡書店大賞に選ばれた作家横関大さん(富士宮市出身)が、若い男女3人の絆を描くエンターテインメント小説「メロスの翼」を出した。故郷への感謝を胸に執筆し、謎解きと人間ドラマを絶妙なバランスで配置した。 世界の強豪が集まる卓球のトーナメント大会を、急きょ出場した中国の補欠選手が席巻する。世界ランキング3位を一蹴した彼のユニホームにはなぜか日の丸が縫い付けられていた―。 物語は試合が行われている現在と21年前、15年前、11年前、6年前を行き来する。3人の生い立ちと出会い、かけがえのない関係性が語られる。過去の悲劇的な犯罪、その背景
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台風15号被災の文化財資料救おう NPO会員ら作業 静岡県内初事例に注目
昨年9月の台風15号で被害を受けた静岡平和資料館をつくる会・静岡平和資料センター(田中文雄センター長、静岡市葵区)の所蔵資料のレスキュー活動が、同市内で本格的に始まった。各地で「文化財レスキュー」の在り方について議論が進む中、県内では事実上初めての復旧活動。関係者の注目が集まる。 4月上旬、同市葵区の西蔵寺で実施した活動には同センター関係者、NPO文化財を守る会(同区)の会員ら17人が参加した。被害を受けた資料は50リットル入りコンテナ4箱分。虫害やカビを防ぐために冷凍した写真、手帳、地図、史料コピーを一つ一つ解凍し、水で洗う。エタノールで殺菌し、キッチンペーパーで水気を取ってからアイロン
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音楽作品の上映相次ぐ ステージとスクリーン“距離”に変化 静岡シネ・ギャラリーなど
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)は6、7月、日本のベテランバンドを追った新作ドキュメンタリー3本を連続上映する。近年、各映画館では音楽ドキュメンタリーの上映が相次ぐ。識者は「ステージとスクリーンの『境目』がなくなっている」と指摘する。 静岡シネ・ギャラリーは上映中の「劇場版 優しいスピッツ」に続き、6月30日から「Pascals~しあわせのようなもの~」を公開する。1995年結成の大編成アコースティックバンド「パスカルズ」による新型コロナウイルス禍のライブを収めた。伊勢真一監督は「(60~70年代のバンド)ザ・バンドを描いた『ラスト・ワルツ』(78年)に通じる、時代の空気感が伝わる作品。
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沼津出身のラッパーELIONE 渋谷で初ワンマンライブ 新作の世界観存分に
ラッパーのELIONE[イーライワン](沼津市出身)が8月12日、東京・渋谷の大型ライブハウス「WWW」で初のワンマンライブを行う。今春発表した5枚目のアルバム「So Far So Good」の世界観を存分にアピールする。 アルバムに参加したラッパーのCHICO CARLITO[チコ カリート]、唾奇[つばき]、SALU[サル]ら豪華ゲストを交えるライブは、発売直後にチケットが売り切れた。 「クラブのライブだと、僕を目当てのお客さんもいるが、DJやお酒など別の要素がいっぱい。でも、ワンマンだと『おまえ、どんなライブするんだよ』という気持ちを一人で受け止める必要がある。みんなが楽しめる空間
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伊藤さん(裾野)連覇 深沢さん(静岡)を押し切る 静岡県アマ将棋名人戦
将棋の静岡県内アマチュア最高峰を決める第72期県アマチュア将棋名人戦(日本将棋連盟県支部連合会、静岡新聞社・静岡放送主催)の決勝トーナメントが18日、静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開かれ、裾野市の会社員伊藤大悟さん(35)が連覇を果たした。 静岡市清水区の会社員深沢知巳さん(62)との決勝戦は、後手の伊藤さんが中盤に歩で速攻を仕掛けて相手を窮地に追い込み、そのまま押し切った。 伊藤さんは、「思い描いた展開に持ち込めた」と対局を振り返った。9月に岡山県で開催される第77回全日本アマチュア将棋名人戦に出場する。今秋に山梨県で予定する将棋公開模範対局(静岡新聞社・静岡放送など主催)での、藤井
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現代的な長屋住まい 「沼津アーケード名店街」編④完【アートのほそ道】
2000年代前半に新しいまちづくりの検討をはじめた「沼津アーケード名店街」(沼津市)。ことし3月、1953年完成の「第一地区」の再開発事業計画が県に認可された。「町方町・通横町第一地区市街地再開発組合」の水口隆太理事長(68)=水口園代表=は、名店街の過ぎし日々を「隣近所が助け合う、現代的な長屋住まいのようだった」と懐かしむ。 60年代に、2階建てが3階建てに増築された。間口がほぼ均一の13店舗が並んでいた。「店舗それぞれの上に家族と従業員が住んでいた。街全体で、現在の3~4倍の人がいただろう」 通りを挟んで向かい側の第6ブロックでは百貨店「松菱」が営業していた。街路全体の象徴だった。4
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静岡県立美術館・太田正樹さん顕彰 寄贈品展 現代美術コレクションに貢献
静岡県立美術館(静岡市駿河区)は7月9日まで、同館に2008年度から美術作品の寄贈を続け、22年7月19日に89歳で亡くなった太田正樹さん(旧清水市出身)を顕彰する「太田正樹コレクション展」を開いている。22年度の70点を含め、15年間で106点の寄贈を受けた同館の木下直之館長は「館のコレクションを一緒に作っていくという域にまで達していた」と感謝する。 航空経営学を専門分野として長年早稲田大で教えた太田さんは04年に帰郷。1970年代から作品を収集していたという。2006年の同館「我が愛しのコレクション展」に20作品を貸し出し。08年度以後はほぼ毎年、同館に寄贈を行った。 1960~2
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人口4300人 徳島・神山町の地域おこし紹介 藤枝で11日イベント
人口約4300人の山村であるにもかかわらず、ユニークな地方創生プロジェクトを次々打ち出して全国から注目を集める徳島県神山町の取り組みを、ドキュメンタリー映画と地域おこしの当事者のトークで紹介するイベントが11日午後1時半から、藤枝市本郷の藤の瀬会館で開かれる。 同町は芸術家を招いた1999年のアーティスト・イン・レジデンスを端緒に、農業の未来を作るフードハブプロジェクト、地元高校で実施する「神山創造学」など独創的な活動を続けている。 イベントでは同町の暮らしを描いた「ある日森で」を上映し、「神山つなぐ公社」に在籍する田中泰子さんが講演する。映画の川口泰吾監督(沼津市出身)、藤枝市地域おこ
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舞台と客席 “共振”の会話劇/劇作家・演出家 山田裕幸さん(藤枝市)【表現者たち】
「それでね、駅前の居酒屋に寄ったんですよ」。5月中旬、藤枝市の「白子ノ劇場」で上演された劇団「ユニークポイント」の「4fish」は、装飾が何もないせりふで始まった。テーブルを囲んで、高校教師が4人。それぞれが顧問を務める演劇部の作品について、生徒の感想を交えて議論する。 県大会の出場1校を決める話し合い。時間の経過に伴い変化する互いの同意、反目、共感、違和感がありありと浮かぶ。作・演出で同劇団を主宰する山田裕幸さん(51)=同市=の会話劇は、「揺れ動くその場の空気」を、正確に客席へ届ける。どう演出しているのか。 「会話のリズムが重要。テンポが悪いと思ったら、現場で一部のせりふをカットする
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作家の“命題”菊池寛に共感 門井慶喜さん「文豪、社長になる」
日本の郵便制度を設計した前島密を描く静岡新聞本紙連載小説「ゆうびんの父」を執筆中の直木賞作家門井慶喜さんが、駿府博物館(静岡市駿河区)で個展を開催中の画家山田ケンジさんとの対談企画で本社を訪れた。インタビューに応じた門井さんが、出版社「文芸春秋」の創設者で作家の菊池寛を題材にした新刊「文豪、社長になる」の背景を語った。 伊藤博文が主人公の「シュンスケ!」(2013年)を皮切りに、宮沢賢治の父政次郎にスポットを当てた直木賞受賞作「銀河鉄道の父」(18年)をはじめ、歴史小説を次々発表している。「文豪―」は、外部の要請を受けた人選。初めての試みだったという。 「文芸春秋から、100周年に合わせ
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静岡醸造(静岡市駿河区) 魅力的な地に根を下ろす ラガーの奥深さを追求【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑨】
静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙がリレー形式で地元のクラフトビールを紹介する連載企画「クラフトビール群雄割拠」の第9回。3巡目の第1弾は、昨年6月に静岡市内に開業した「静岡醸造」を静岡新聞が取り上げる。 県外出身者が静岡のクラフトビールの魅力に触れ、静岡に根を下ろしてビール醸造を志す―。県内ではこうした事例が相次いでいる。2022年6月に醸造を開始した「静岡醸造」の福山康大代表(33)もその一人。青森県から移り住み、「ラガー」と「IPA」に特化した醸造所を実現させた。 県立大国際関係学部入学後、ベルギーやアイルランドの輸入ビールを入り口に、その多様性に触れた。1年間のスペイン留学で欧州の
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優美なデザインの防火建築帯 「沼津アーケード名店街」編③【アートのほそ道】
1953年12月に西側が、54年11月に東側が完成した「沼津アーケード名店街」(沼津市町方町)の、2階以上が歩道に突出する「有階アーケード」は、全国でも類のない建築方式だった。沼津市誌(61年)には「沼津の一名所となり、四季を通じて各地から視察に来る特異建築となった」と記されている。 設計は当時建設工学研究会に所属していた建築家の池辺陽(20~79年)、今泉善一(11~85年)だった。設計段階での沼津との縁は不明。池辺は以後、沼津での仕事を請け負っており沼津産業会館(53年)、沼津公会堂(55年)の設計者としても名を残す。後に東京大鹿児島宇宙空間観測所施設など大規模建築も手がける池辺だが、
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日常の共通性作品の枠に 静岡県とタイの共同演劇、御殿場で7月
静岡県とタイの劇作家による共同演劇プロジェクト「パラレル・ノーマリティーズ」の作品が7月、タイ・バンコクの北約500キロに位置するダーンサーイ市のアート祭で上演される。2000年から続く同プロジェクトの作品が近くお披露目されるのを前に、日タイの制作関係者が御殿場市でトークイベントを開いた。 作品は劇作家石神夏希さん(静岡市葵区)が17年に京都府舞鶴市で制作した「青に会う」を基盤とする。「青」という名の女性が、同市のあちこちを実際に訪ねて人々と交流する14日連続の演劇で、写真家鈴木竜一朗さん(御殿場市)が本人役で出演した。7月の上演は、舞台をダーンサーイ市に移し、タイの劇作家ナッタモン・プレ
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“家康ビール”完成 久能山東照宮などゆかりの地から酵母 産学官連携「静岡の代表格に」
静岡大の文理融合研究組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」(所長・大原志麻人文社会科学部教授)と、静岡市や静岡商工会議所などでつくる大河ドラマ「どうする家康」の活用推進協議会が開発を進めていた、徳川家康にちなんだクラフトビールがこのほど完成した。 市内で醸造したビール3種は、アオイブリューイング(葵区)のゴールデンエール、静岡醸造(駿河区)のユズラガー、ホースヘッドラブズ(清水区)のペールエール。駿府城公園や久能山東照宮など家康ゆかりの地に生える植物から酵母を取り出し、発酵能力が高いものを選んで使用した。 大河ドラマを契機に観光消費に資する商材を官民一体で創出しようと、昨年秋に始まっ
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ろうそくが彩る舞台に感慨 中納良恵さん 熱い景色バトンつなぐ【音楽に包まれて 頂-ITADAKI-名場面㊦】
2日間で20組以上が出演する野外音楽フェスティバル「頂」には、1日1組しか使わない特別な舞台がある。数百本のろうそくが彩る「キャンドルステージ」だ。バンド「エゴ・ラッピン」のボーカリスト中納良恵さんは2019年の出演を「特別に美しい景色だった」と振り返る。 ギタリストの森雅樹さんと2人だけのアコースティックセット。夜のとばりが下りる中、ヒット曲をしっとりと歌い上げた。 「ステージの前に小さな池があって、水面に光が映っている。神々しさすら感じました。炎の熱も記憶しています。素晴らしい空間で歌わせてもらいました」 08年開始の「頂」にはソロ名義も含めて過去7回出演している。同フェスの前身と
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静フィル、リハーサルに熱 6月3日静岡・葵区で定演
1977年の創設後、静岡市民を中心に活動を続ける静岡フィルハーモニー管弦楽団(静フィル)が6月3日、同市葵区の静岡市民文化会館で第46回定期演奏会を開く。本番を前にした5月23日夜、同区の静岡音楽館AOI講堂で約80人が熱を込めてリハーサルを行った。 指揮に佐々木新平さん(ヤマハ吹奏楽団常任指揮者)、ソリストに鈴木舞さん(バイオリン)を迎え、チャイコフスキー作曲「バイオリン協奏曲ニ長調」のテンポや音の強弱など細部を確認した。 佐々木さんは同曲について「バイオリニストの技術を余すところなく表現できる」と解説。その一方、オーケストラについても「ソリストに寄り添うだけでなく、自ら発信することが
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自分史を脚本化、演技で表現 中高生の実体験を音楽劇に 静岡市葵区のカンパニー・ナイン 27、28日初公演
静岡県内在住の中学・高校生を演じ手に据え、それぞれの実体験や思考を脚本や音楽に入れ込む演劇プロジェクト「カンパニー・ナイン」(静岡市葵区)が27、28の両日、同区の「MIRAIEリアン」で第1回公演を行う。21日夜、公演会場での稽古を行い、幕開けに向けて出演者と制作陣が気持ちを高め合った。 初演目はオリジナルミュージカルで「STAGE!」と題した群像劇。演出家田中奏さん(36)=同区=が、公募で集まった中高生10人が語る自分史から印象的なエピソードをすくい上げ、脚本化した。家族、夢、友達、生死、喜び、悲しみ―。さまざまな逸話が1本の作品に結実した。田中さんの盟友で、劇団四季でも活躍したア
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交通事故の後遺症から復帰 GOMAさん 演奏活動再出発の場所【音楽に包まれて 頂ーITADAKIー名場面㊤】
6月3、4両日に吉田町で開かれる野外音楽フェスティバル「頂―ITADAKI―」(静岡新聞社・静岡放送など共催)は、2008年初開催。新型コロナウイルス禍で中止した20、21年を除き、毎夏開催が定着している。主催者や制作陣の多くが地元在住の「ローカルフェス」として、国内屈指の歴史がある。出演常連の音楽家に、過去のステージで体感した「名場面」を語ってもらった。 ◇ オーストラリア先住民の木管楽器「ディジュリドゥ」の奏者GOMA[ゴマ]さんは、初開催からほぼ毎年出演する。「2回目の音楽人生が始まった場所」と語るのが11年の「頂」だ。 09年11月の交通事故で外傷性脳損傷と診断され、記
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音楽家・詩人 巻上公一さん(熱海市) まばたきごとに世界は変わる【表現者たち】
音楽家で詩人の巻上公一さん(67)=熱海市=が第2詩集「濃厚な虹を跨ぐ」を出した。1978年結成の5人組「ヒカシュー」の歌詞を中心にした72編。ロック、ジャズ、テクノ、現代音楽などジャンルの壁を越えたバンドの音楽性と響き合う言葉の数々が、時に面妖に、時に明快にこだまする。 第1回大岡信賞を得た第1詩集「至高の妄想」(2019年)で、現代詩の作り手としての評価を確固たるものにした。「最初からそういうつもりで(歌詞を)書いている。現代詩との親和性を意識していた」 「濃厚な―」に収録された初期作品を読むと、当時から言葉一つ音節一つでイメージを伸縮しようと試みていたことが理解できる。擬音語、擬態
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鍵盤楽器奏者、ADAM at 「DJ」名義で初アルバム “六者六様”リミックス
SBSラジオ「ADAM[アダム] at[アット]の詞がないラジオ」のパーソナリティーを務める鍵盤楽器奏者ADAM at(磐田市)が、サイドプロジェクト「DJ ADAM at」名義の初アルバム「百物語」を発表した。 2017年から続く同プロジェクトは、バンド形式で演奏している楽曲を電子音楽として再構築し、DJ機器を使ってノンストップで聴かせるライブ形式。「ADAM atはジャズに分類されることが多いけれど、DJ ADAM atはクラブミュージックに近い感覚。(低音打楽器の)“四つ打ち”で同じ展開を繰り返し、音の抜き差しを考えます。お酒を飲んで踊るのにいいと思って」
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演劇、ダンス…舞台は街 「ストレンジシード静岡」開幕 6日まで
静岡市の中心市街地で繰り広げるパフォーミングアーツの祭典「ストレンジシード静岡」が4日、同市葵区の駿府城公園などで開幕した。6日まで、海外からの参加を含む計12組が同公園内外の8カ所で演劇やダンスを披露する。 フェスティバルディレクターのウォーリー木下さん作・演出による「χορός/コロス」では、公募に応じた約70人による群舞。人間と、人間が形成する集団の心理や行動をダイナミックに演じた。18台のベッドを同公園中央の広場に持ち込み、海を行く船や地震発生の装置としても用いた。 京都が拠点の劇団「安住の地」は仏教絵画の「九相図[くそうず]」をテー
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「うさぎのみみっく!!」 ボカロPと初アルバム 井出ちよの(富士出身)所属
富士市出身のアイドル井出ちよの(21)が所属する4人組「うさぎのみみっく!!」が初アルバム「ムーンライトストリート」を発表した。音声合成ソフトを使って楽曲を発表する「ボカロP」のInagi[いなぎ]が、多様な音楽スタイルを駆使したポップな10曲を提供。軽やかさと深さが同居する作品に仕上がった。 富士山のご当地アイドルプロジェクト「3776[みななろ]」のメンバーとしても活動する井出。「うさぎの―」には2018年に加わった。メンバー変更を乗り越えて、ようやく初アルバム発表にたどり着いた。 「『うさぎの―』は、かわいさにパラメーターを振っている。3776とはコンセプト、楽曲が全然違っていて、
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柱なし「片持ち梁」構造 「沼津アーケード名店街」編②【アートのほそ道】
「沼津アーケード名店街」(沼津市町方町)の「有階アーケード」を歩くと、歩道の上の居住スペースを支える柱が少ないことに気づく。 工期前半の1953年12月に完成した南西部分の「第1ブロック」は、特に分かりやすい。全長約70メートルに1872年創業の「水口園茶店」をはじめ13店舗分のスペースが連なるが、車道側には柱が一本もない。非常に大胆な建築デザインだ。 県ヘリテージセンター長で1級建築士の塩見寛さん(70)=同市=は「カンチレバーで造られている」と解説する。片持ち梁[ばり]と和訳される構造で、梁の一方が固定され、反対側は固定されない。開放的な歩道を造るために採用したとみられる。 有階ア
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名人戦の大盤解説 男女棋士 丁々発止 静岡・浮月楼
静岡市葵区の料亭「浮月楼」で開かれた将棋の第81期名人戦7番勝負第2局の関連企画として、同市の実行委員会が27日、同じ会場で大盤解説会を開いた。男女棋士5人が、渡辺明名人、藤井聡太六冠の指し手の意図や形勢を説明した。 木村一基九段(49)、佐々木勇気八段(28)、飯塚祐紀七段(54)、貞升南女流二段(37)、脇田菜々子女流初段(26)が二人一組で次々登壇し、丁々発止のやりとりを見せた。過去の名人戦の逸話、タイトル戦に臨む棋士の心理状態にも触れ、会場を沸かせた。 約140人が集った。最前列で約5時間半耳を傾けた戸塚貴美江さん(58)=同市葵区=は「2020年から将棋を観戦している。今日はゆ
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浜田省吾の“伝説”映像作品に 浜松で先行上映 関係者登壇
シンガー・ソングライター浜田省吾が1988年8月20日に浜松市の「渚園」で行った野外ライブ「A PLACE IN THE SUN」の映像作品が、5月5日から27日まで各地の劇場で上映される。全国公開を前に、浜松市中区の「TOHOシネマズ浜松」で先行上映会が開かれ、同ライブに関わった音楽評論家田家秀樹、岩熊信彦プロデューサーが会場で目にした風景を語った。 ライブには5万5千人が集まった。田家は「日本の野外コンサートのエポックメイキング。70年代はオムニバスが主流で、これだけ大きなソロ公演は初めてだった」と説明。「空が美しい、海がきれいと感じていたが、映画になる日が来るとは夢にも思わなかった」
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FUJI&SUN’23 ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文 地元、温かな気持ちで
富士山の麓でキャンプしながら音楽を楽しむ野外フェスティバル「FUJI&SUN‘23」が5月13、14の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれる。2日目の最後に演奏する4人組バンド「ASIAN KUNG―FU GENERATION」(アジアン・カンフー・ジェネレーション、以下アジカン)のボーカリストでギタリストの後藤正文(島田市出身)に、自身の“フェス観”、地元フェス出演への思いを語ってもらった。 アジカンの結成は1996年で、国内の野外フェスの草分けとされる「フジロックフェスティバル」の初開催は97年。メジャーデビューした2003年に同フェスに初出
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上層階 突き出し「屋根」に 「沼津アーケード名店街」編①【アートのほそ道】
JR沼津駅と沼津港の間に位置する「沼津アーケード名店街」。日本の建築史にその名を残す長さ約250メートルの商店街は2022年に再開発が決まり、24年には解体が始まる。 2階以上が突き出して1階部分の屋根の役目を果たす、全国でも珍しい「有階アーケード」、角に丸みを持たせた優美な壁面、水平のラインを強調したガラスサッシのファサード―。まもなく姿を消す昭和20年代の名建築を惜しみ、静岡県内外から建築愛好家らが訪れている。 1953(昭和28)年12月に商店街西側、翌54(昭和29)年11月に東側が完成。戦後復興の中で鉄筋コンクリートの「防火建築帯」としてつくられた。都市の不燃化運動の先駆けと
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旧工場 飛び交う新思考 アートスペース「DHARMA沼津」
旧印刷工場をアートスペースとして再生した沼津市市場町のDHARMA[ダルマ]沼津で、公募型作品展「市場町アートフェス2023」が開かれている。同所を拠点とするアーティスト集団「EN」のメンバーらが参加。自由な発想による約30点が、既成概念からの飛翔[ひしょう]を競う。 2階会場には井口貴夫さん(伊勢原市)の「水面[みなも]」シリーズ3点が並ぶ。赤や黄の鮮やかな、少しにじんだ背景と、黒やオレンジの舞うような曲線のコントラスト。絵の具をしたたらせるドリッピング技法に見えるが「ケチャップの容器に絵の具を入れてストロークした」という。小さな正方形に、ピントが定まらない世界と、輪郭がはっきりした線を
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アウトドアブームの火付け役 アニメ作品「ゆるキャン△」 原作者のあfろさん(浜松市出身)インタビュー【しずおかアウトドアファン】
静岡県や山梨県を舞台に、キャンプが好きな女子高校生5人の日常を描いたアニメ作品「ゆるキャン△」は、アウトドアブームの火付け役の一つとされる。漫画原作者のあfろさん(浜松市出身)に、創作の端緒や描写の工夫を聞いた。 漫画の連載開始は2015年。現在のようなアウトドア人気の高まりはなかったが、自身の興味関心を出発点に「女子高校生とキャンプ」というテーマにたどり着いた。 「前に連載していた2作はSFだったので、編集担当との打ち合わせで次は日常の話をやろうということになりました。たまたまキャンプが趣味だったので題材にしたんです。夏ではなく冬を舞台にしたのは、落ち着いた話が描きたかったから。虫が
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詩人・水沢なおさん(長泉出身) 初の小説集「うみみたい」 言葉に導かれ 見つめる「生殖」
中原中也賞詩人の水沢なおさん(長泉町出身)が、初の小説集「うみみたい」を発表した。雑誌「文芸」2022年冬季号掲載の表題作を含めた全4編は、生き物の「生殖」に対する崇敬、畏怖、葛藤がテーマ。デビュー時から研ぎ澄ませてきた代名詞的モチーフだ。 表題作は美術大を卒業し、同居してそれぞれ創作に励む女性2人、「うみ」と「みみ」が主人公。昆虫や両生類の繁殖施設「孵化[ふか]コーポ」でアルバイトするうみは、生き物の増殖に美を感じるが、自分の恋愛には及び腰。「異性と性行為をすることでふえていく自分のことを思うと、目の前が真っ暗になる」。一方のみみは「ひとがひとをうむってことが、人間のすることのなかで一番
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5月13、14日「FUJI&SUN’23」 音楽もキャンプも全部楽しむ DJ・TOPDOCAさんインタビュー
富士山の麓でキャンプと音楽、各種野外活動を楽しむフェスティバル「FUJI&SUN’23」が5月13、14の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれる。2019年の初開催以降毎回出演しているDJのTOP DOCA(トップ・ドカ)さん(46)=富士市=に、同フェスの特徴を語ってもらった。 いろんなフェスに行きますが、こんなにアットホームな雰囲気の会場は珍しいです。「フェス慣れ」していない子連れの方もかなりいらっしゃる。音楽とがっつり向き合う、というよりキャンプや遊び、ロケーションを全部楽しもう、というお客さんが多いのではないでしょうか。 会場では、メインステージの背後にドンと
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静岡人インタビュー「この人」 帰国後10周年公演を終えたフルート奏者 青島由佳さん(静岡市駿河区)
欧州留学から帰国して10周年を記念したコンサートを、故郷の静岡市で開いた。17~18世紀の欧州で聴かれた「バロック音楽」の魅力を伝える活動に心血を注ぐ。県内では希少な、古楽器「バロック・フルート」の使い手としても知られる。静岡東高出。40歳。 -本年は「バロック・ダンス」をテーマにして各種活動を展開。最終公演を終えての心境は。 「(フルート奏者の)前田りり子さんを講師に招いたワークショップ(WS)を年間3回行い、2月のコンサートはその集大成だった。イベントを立て続けに実施した1年の締めくくり。温かい雰囲気の中、充実した演奏ができた」 -舞踏を主題にした理由は。 「当時の音楽とは切り離
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静岡新聞連載小説「家康」8巻刊行 新しい戦国史観 構築 作家・安部龍太郎さん
作家安部龍太郎さんが徳川家康の生涯を描いた本紙連載小説「家康」の単行本第8巻「家康(八)明国征服計画」が出た。ライフワークを自認する作品はこれが「折り返し地点」。前期の「完」とした。天下統一を果たした豊臣秀吉に臣従する家康は熟慮を重ね、苦悩を深める。「新しい家康像」構築に心血を注ぐ安部さんに創作の背景を聞いた。 最新刊は秀吉の招きに応じた後陽成天皇の聚楽第行幸(1588年)から朝鮮出兵(92年~)までの時代を描く。 「北条家を討った小田原征伐をへて江戸城に入場した家康は、進軍する豊臣軍の東北地方征討の大将格に任じられる。大きな転機となった」 そうした中、秀吉の明国征服計画が持ち上がる
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高まるクラフトビール熱 醸造所続々オープン 三島・沼津
沼津市のクラフトビール醸造所「リパブリュー」が3月、三島市で缶ビール製造を主体にした新工場を稼働させた。同市では同じ3月に「fete(フェット)三島醸造所」が醸造を開始。近隣の沼津市でも起業が相次いでおり、首都圏以外では異例の「クラフトビール集積地」が出現した形だ。互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、品質向上と県東部の交流人口増を目指す。 品質向上へ切磋琢磨・交流人口増に期待 リパブリューの新工場「ナチュラル・ルーツ・スタジオ」は同社の新しい缶ビールブランドを展開するための拠点。米国発祥の人気スタイル「ヘイジーIPA」など4種の製造を始めている。 地下77メートルからくみ上げた水を使い、
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青春のかけら きらり輝く 宮島未奈さん(富士出身)デビュー 「成瀬は天下を取りにいく」発刊
富士市出身の作家宮島未奈さんがデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)を発刊した。過去に窪美澄さん、町田そのこさんらを輩出した同社主催「女による女のためのR-18文学賞」で大賞ほか全3冠を得た「ありがとう西武大津店」など6編からなる短編集。奇想天外な発案と揺るぎない行動力で周囲をあぜんとさせる女の子、成瀬あかりを中心に据えた連作は、地方都市の何げない日常にきらりと輝く「青春のかけら」を巧みにすくい上げる。 「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。受賞作は「閉店が決まった百貨店に夏休みの間、毎日通う」という中学生成瀬の奇矯な宣言で始まる。幼稚園時代から運動、勉学、芸術に秀でなが
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良質、身近な音楽届けて40年 静岡、浜松の「友の会」が節目
親子で楽しめる本格的なクラシックコンサートを提供したい-。1983年に静岡、浜松両市で当時の市民グループが創設した二つの音楽団体が2023年度、ともに40周年を迎える。両市の音楽文化の担い手としての自負を胸に、さらなる活動充実を期す。 「必要に迫られて、生み出した」。静岡市で年4、5回の「四季のコンサート」を開催する「静岡音楽友の会」の三城苑子代表(76)は、子育てしながらピアノを指導していた40年前を振り返る。当時は子連れで入れる演奏会がなく、自ら母親仲間約10人と託児サービス付きの演奏会シリーズを始めた。 年会費4千円で4回の演奏会が聴ける低廉な価格設定。初年度は千人超が集まった。
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災害時 歴史資料どう守る 静岡市歴史博物館で講座
静岡県博物館協会(事務局・県立美術館)と静岡市歴史博物館は、災害時の歴史資料や文化財の救出を学ぶ講座を、同市葵区の同館で開いた。阪神大震災を契機に発足した歴史資料ネットワークの奥村弘代表委員(神戸大副学長)が、同ネットの活動事例を交えて語った。 全国約30組織と緩やかに連携する同ネットの保全対象について「被災した歴史資料だけでなく、被災の状況や生活の復興過程を示す災害資料も重要」とした。 災害発生から資料救出、修復までのプロセスも解説した。文化財保護活動を行う人と、文化財の所在地や所有者との関係について「災害の前から相互に知り合っていることが大事。地域全体でそのエリアにある遺産を把握し、
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音、言葉 聴き手に委ねる 音楽家・鈴木惣一朗(浜松出身)が新アルバム
浜松市出身の音楽家鈴木惣一朗のソロプロジェクト「ワールドスタンダード」が、14作目のアルバム「ポエジア…刻印された時間」を発表した。2020年の前々作「色彩音楽」以降のビジュアルを担当するイラストレーター横山雄の作品からインスピレーションを受け、弦楽器や管楽器を交えた「歌のある環境音楽」を作り上げた。 自身初のボーカルアルバム「色彩音楽」、21年の前作「エデン」と3部作をなす新作はLPレコードとしてリリース。アコースティックギターを基調に、ピアノやチェロ、フルート、クラリネットの音が静かに柔らかく響く。もの悲しさや寂寥[せきりょう]感が漂う歌の中に、ほんのり明るさも漂わせる。
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おまちに「高札場」復元 静岡・葵区 新観光スポット除幕
静岡市の市街地活性化を図る団体「I Love しずおか協議会」は25日、同市葵区の繁華街で復元を進めていた江戸時代の法令掲示施設「高札場(こうさつば)」の除幕式を開いた。 同協議会の創設10周年記念事業。沼田千晴会長、設置場所を提供した百貨店「静岡伊勢丹」の秋野孝三社長、田辺信宏静岡市長、本紙連載小説「家康」シリーズの作者で直木賞作家の安部龍太郎さんが除幕し、集まった市民約50人とともに新しい観光スポットの完成を祝った。 沼田会長はあいさつで江戸時代から残る地名「札の辻」に触れ、「高札場の向こうに巨大な駿府城、傍らに富士山が見える。家康はそんな形で町をつくったのではないか」と思いをはせた
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浜田省吾の「渚園」(浜松市西区)ライブ映像公開へ
シンガー・ソングライター浜田省吾が1988年8月20日に「渚園」(浜松市西区)で行った野外ライブの映像作品「A PLACE IN THE SUN at 渚園 Summer of 1988」が5月5日、全国で公開される。 これに先駆け4月17日午後6時半から、同市中区の「TOHOシネマズ浜松」でプレミア先行上映会を行う。上映前には音楽評論家田家秀樹とプロデューサー岩熊信彦の対談もある。 入場料3千円。申し込みは3月31日から4月4日まで。詳細は公式サイト<https://www.sh-nagisaen1988.jp/>参照。
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記者コラム「清流」 訃報に代えて
静岡ゆかりのオペラ歌手三浦環(1884~1946年)の研究で知られる田辺久之さんが18日、92歳で亡くなった。ご遺族とうまく連絡が取れず、直後の訃報を出せなかった。痛恨の極みだ。 常葉学園大で教え、図書館情報学の権威として学校図書館への司書配置促進に尽力した。お住まいが筆者の近所だったので、行き来があった。 2020年、半世紀の研究をまとめた「新版考証三浦環」発刊を機に、長時間の取材に応じてくれた。環の欧米各国の足跡を追った約410ページ。100ページに及ぶ年譜を目にし、人の情熱はこんな高みにまで達するのかと感嘆した。 気象に関する著作もあった。わが家の庭先では、そのデータ取得に用いた
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音と音楽 境界行き来 浜松で緩衝材使うワークショップ【とんがりエンタ】
宅配便でおなじみの緩衝材で、自由に音を出してみよう-。音響作家のウエヤマトモコさん(名古屋市)が、浜松市鴨江アートセンター(同市中区)でワークショップ(WS)を開いた。 会場には「プチプチ」とも言われる空気入りのシートや、小さな白い個体、ウレタン製の直方体など約20種の緩衝材が勢ぞろい。ウエヤマさんは「お気に入りの音を探そう」と呼びかけ、素材を転がしたり、破いたり、落としたりして音の広がりを実践した。 当初は面食らっていた親子ら11人の参加者だったが、配られたトレーやベニヤ板、輪ゴムも使い、独自の音を探り当てる作業に没頭。「パチン」「ギシギシ」「ポンッ」といったユニークな音を響かせた。後
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アイドルの皮かぶって 静岡発2人組アーティスト「もにゅそで」 インタビュー
静岡市駿河区用宗、焼津市を拠点に楽曲や動画を制作する女性2人組「もにゅそで」。メンバーのもにゅこ、ミナミムラソデコはそれぞれ、所属レーベル「LushMusic(ラッシュ・ミュージック)」を運営する会社の代表取締役社長、取締役でもある。2022年末にはJR焼津駅前に直営のライブハウスも開いた。活動の目的に「地方創生」を掲げる2人に、結成から2年3カ月を振り返ってもらった。 意識を韻に置き換えた時 塗り替えられた君の心とtalking 少年に希望を老年に後光を 韻は愛そうだろう?nomorewar (才能と叡知よ命じよ) 韻踏みますそしてrebirth (時代と歴史の定義を)
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フルート奏者・青島由佳 宮殿の舞踏会“再現” 帰国10周年で演奏会
フルート奏者の青島由佳(静岡市葵区)が、欧州からの帰国10周年を記念した演奏会を同区で開いた。「舞踏」をテーマに活動した2022年度の締めくくりとして、フランス・ベルサイユ宮殿の舞踏会の演奏曲を中心に選曲。古楽器の合奏で、中心市街地のホールにフランス・バロックの優雅な世界を現出させた。 古楽器アンサンブル「バッハ・コレギウム・ジャパン」のバロック・フルート奏者前田りり子らを招いた。プログラムには17~18世紀を生きたフランスの作曲家の名が並んだ。 マレ(1656~1728年)の「トリオ作品集より 組曲第1番ハ長調」では九つの楽章それぞれに、明瞭で動きのある旋律が聴かれた。青島と前田は、薄
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文化活動担い手 つなぐ“見本市” 支援組織「ACしずおか」、静岡で12日に大規模イベント
静岡県民の文化活動を支援する県文化財団内の組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」は12日、2年間の活動や助成対象団体、支援アーティストを紹介する、初の大規模主催イベントを開催する。会場は静岡市駿河区のグランシップ。「創造的な地域づくりへの貢献」を掲げた事業の成果を、エンターテインメントを交えて披露する。 コンセプトは「しずおかアートプロジェクト見本市」。ACしずおかによる、県内各地の団体への助成▽関係人口創出の取り組み「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」▽企業とアートの連携プロジェクト-を通じてつながりが生まれた表現者が集う。 2021年度は助成団体を集めた「活動報告会」を実
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トップ棋士10人対局へ抱負 将棋A級順位戦最終局 静岡・浮月楼で2日開幕
将棋のトッププロ10人が渡辺明名人への挑戦権をかけて総当たりする第81期A級順位戦の最終局(日本将棋連盟など主催、静岡市など共催、静岡新聞社・静岡放送後援)が2日、静岡市葵区の料亭「浮月楼」で行われる。対局を控えた1日、同所で開会式が開かれた。 全9局のリーグ戦方式で行う今期のA級順位戦は昨年6月開幕。8局を終えて藤井聡太五冠と広瀬章人八段が6勝2敗で並んでいる。永瀬拓矢王座ら4人が5勝3敗で続く。 開会式には棋士10人が登壇し、将棋ファンら約100人の前で一人一人、翌日の対局への抱負を述べた。同順位戦に初めて挑んでいる藤井五冠は「いろいろなことを意識しすぎては良くない。これまで通り、集
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“頭蓋骨”を通り抜けて 美術家・中村昌司さん(掛川市)個展
美術家中村昌司さん(69)=掛川市=は、静岡県内外各所で繰り広げる空間芸術(インスタレーション)で知られる。災害で失われた命への鎮魂を込めた赤いささ舟を展示するプロジェクトを、浜松城公園(浜松市中区)などで展開。大井川鉄道沿線で行うアート祭「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」では、赤や緑の布で区切られた“部屋”に大井川の水をしたたらせた。 出発点は、東京芸術大で油絵を学んでいたころ。「平面の中で塗ったり削ったりする造形活動に意味を感じられなくなった」。美大生としての葛藤を抱え、石油危機後の社会をにらみながら、表現方法を模索した。 「大勢のホームレスがいる上
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朝霧JAM 20回目開催決定 富士宮市で10月21、22日
富士宮市で2001年から開かれている静岡県内最大級の野外音楽フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」の実行委員会は23日、今年の開催を10月21、22の両日とすることを発表した。開催は20回目。例年どおり朝霧アリーナ、キャンプ場「ふもとっぱら」などを会場とする。 同フェスは地元住民らと企画制作会社スマッシュ(東京)による実行委が運営する。国内外の多彩な音楽家と1万人超の観客が集う。19年の台風接近による中止、20、21年の新型コロナウイルス感染拡大による中止をへて、22年10月、4年ぶりの開催が実現した。
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新種カメムシ 学名は「キシモトイ」小笠原で発見 初の採集者は岸本教授(地球環境史ミュージアム)に由来
東京農大院生の嶋本習介さんらの研究チームが、小笠原諸島で発見した新種のカメムシを「オガサワラシロヒラタカメムシ」と命名し、学名を最初の採集者であるふじのくに地球環境史ミュージアムの岸本年郎教授にちなみ「ネソプロキシウス キシモトイ」とした。7日付の国際学術誌「Zookeys」電子版に掲載された。 岸本教授が1999年3月に同諸島・父島で採集し正体不明のまま標本化したシロヒラタカメムシ属の一種。嶋本さんらによる2021~22年の同諸島の野外調査でも採集され、詳細な個体観察の結果新種と判明した。 シロヒラタカメムシ属はこれまで9種が確認されているが、日本での発見は初。9種目の発見からは40年
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幕府が法令掲げた「高札場」おまちに復元 家康がつくった街体感 静岡の官民団体
静岡市の市街地活性化を図る官民協働の団体「I Love しずおか協議会」は、創設10周年の記念事業として、江戸時代に幕府が法令を掲げた高札場(こうさつば)を、当時の設置場所付近に復元する。3月のお披露目に向けて準備が進み、〝おまち〟の新しい観光スポットとして地元関係者の期待が高まっている。 2012年5月設立の同協議会では昨夏以降、10周年記念事業の議論を深め、市民が街の歴史に触れられるモニュメントの制作を決めた。討議の末、江戸時代に幕府や諸藩が法令を掲げた高札場を復元することにした。 沼田千晴会長(55)=政豊社長=は、中心街の呉服町通りと七間町通りの交差点や付近の碑を挙げ「かつて高札
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「東海道の美」屏風や絵画で 日比野氏(掛川市二の丸美術館館長)が記念講演 静岡市美術館企画展
江戸時代の東海道を描いた屏風(びょうぶ)や名家に残された人気絵師の作品を集めた企画展「東海道の美 駿河への旅」(静岡新聞社・静岡放送など主催)が11日、静岡市葵区の市美術館で始まった。開幕を記念して掛川市二の丸美術館の日比野秀男館長が講演し、東海道の行き来を描いた作品群を見比べ、名所や宿場をはじめとしたモチーフの傾向を探った。 3月7日からの後期に展示する奈良県立美術館蔵「東海道往来図屏風」は「人々の生活と山水・風景が一緒に描かれている。人物が一人一人全部異なっているところに(技術の)難しさを感じる」と見どころを紹介した。静岡市蔵「東海道図屏風(マッケンジー本)」については朝鮮通信使の一行
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服飾から演出読み解く 映画「イニシェリン島の精霊」 野沢さんがトーク【とんがりエンタ】
第95回米アカデミー賞の主要8部門にノミネートされている映画「イニシェリン島の精霊」を上映中の静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)は、作品の舞台アイルランドの服飾文化を語るトークイベントを同館で開いた。洋品店「ジャックノザワヤ」(同区)の店主野沢弥一郎さん(65)が、登場人物の服装から演出の意図を読み解いた。 野沢さんは網目模様が特徴のアイルランドの伝統的なセーター「アランセーター」の輸入販売を長く手がけ、約30回、現地を訪れている。 トークではまず、主演コリン・ファレルが着た襟付きの赤いセーターに言及した。「設定は1923年のアイルランドの離島だが、当時も今も男性が赤色を着ることはない。
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物体版画、沼津で実験 山口源「能役者」 モンミュゼ沼津【美と快と-収蔵品物語(52)】
約9カ月の休館を経て、新しい運営態勢で今年1月に再出発を果たしたモンミュゼ沼津(沼津市庄司美術館)は、世界的に評価の高い版画家山口源(1896~1976年)の作品約350点を収蔵する。現在の富士市で生を受け、40代後半から亡くなるまで沼津市江浦で創作に励んだ山口の「能役者」は、58年にスイスのルガノ国際版画ビエンナーレ展で日本人初となるグランプリに選ばれた。板や葉といった身近な素材をそのまま刷り出す「物体版画」の大きな成果として知られる。 「能役者」 1958年作 86.0センチ×46.5センチ(東部総局・山川侑哉) 多色刷りの画面にぽっかりと浮かぶ、木目が鮮やかな
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「生」と「もろさ」ガラスで表現 静岡市美術館で松藤さん個展
ガラスを使って自然と人間の関係を描き出すアーティスト松藤孝一さん(富山市)の個展「世界は生きている」が、静岡市葵区の市美術館エントランスホールで開かれている。暗がりで鮮やかな蛍光緑の光を放つウランガラスのインスタレーション「世界の終わりの始まり」は、物質の「生」と命あるものの「もろさ」という相反する要素を強烈に視覚化した。 表現の素材としてガラスを選び取ったのは大学時代。溶鉱炉で溶け、形を変えるガラスの姿に魅せられた。生命が存在できない炎の世界から取り出されたガラスが、冷えるにつれて徐々に透明な光と美しい表情を獲得していく。「物質の生」を感じた瞬間だった。 「千度を超える熱で溶けたガラス
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「詩の心」感動が生む 静岡県詩人会例会 佐相憲一さん講演
静岡県詩人会(中久喜輝夫会長)は、年始恒例の「ポエム・イン・静岡」を静岡市駿河区の県男女共同参画センターあざれあで開いた。詩人で編集者、ライターの佐相憲一さんが「詩という事件」と題して講演した。自作詩の朗読と解説を交え、詩の送り手と受け手との関係性を論じた。 昨年発刊した「サスペンス」に収録した「うすくれないの帰り道」「電子体温計」「漁村」などを読み上げ、「詩の心」のありかを探った。「散文的意識の積み重ねの中で魂を揺さぶられる瞬間。大切な何かを他者と共有した瞬間。世界そのものが自分の中で声を上げる瞬間。それが詩の心だと思う」と考察した。 詩を芸術の「ジャンル」として固定的に捉えることに疑
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ベアードブルーイング(伊豆市) キャンプ場に「乾杯」の声 年間40種 出来たて提供【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑤】
静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙がリレー形式で地元のクラフトビールを紹介する連載企画「クラフトビール群雄割拠」の第5回。2巡目の第1弾は、醸造所併設のキャンプ場が人気の「ベアードブルーイング」を静岡新聞が取り上げる。 狩野川のほとり、広葉樹に囲まれた4階建て相当の醸造所の周辺に大小のテントが並ぶ。2018年6月開業の「キャンプベアード」(伊豆市)は、日本におけるアメリカンエール人気の火付け役の一つ「ベアードブルーイング」(同)が運営する。全国でも珍しいビールメーカー直営のキャンプ場だ。 最大の特徴は出来たてのビールが飲めること。同社はラガー、IPA、スタウトなど定番12種をはじめ、ミカン
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御殿場高原ビール(御殿場市) 地元の米が薫る一杯 知名度向上にも貢献【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟①】
静岡、山梨、長野、新潟の4県は1990年代後半の第1次「地ビールブーム」の時代から、国内のクラフトビール業界をけん引し続けてきた。現在も個性豊かな醸造所が相次いで誕生し、地域振興を担う存在として期待されている。4県の県紙が、地元のビールと地域の関わりをひもとく新連載。初回は静岡新聞が「御殿場高原ビール」を取り上げる。 富士山を間近に望む御殿場市。御殿場高原ビールの醸造所には、容量2千リットルの仕込み釜が二つ並ぶ。7月下旬、作業を終えた5代目工場長の村石充博さん(48)は、室内に掲げたカウンターボードの数字を入れ替えた。「創業から6267回目の仕込みですね」。四半世紀超の歴史を刻む木製のボー
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水滴音交えて“合奏” 装置開発の加藤さん 28日浜松でライブ【とんがりエンタ】
水がしたたる音を利用した音楽装置「Potarhythm(ポタリズム)」を開発し、「水滴音楽家」として活動する加藤泰生さん(26)=浜松市浜北区=が28日、同市中区のライブバー「TEHOM(テホム)」で実演ライブを行う。 「心地よい雨音の発生装置」とも言うべきポタリズムと、打楽器やギター、ベース、コーラスによる前代未聞のセッションを繰り広げる。装置上部の水槽から下部水槽に水滴を落とした「ポチャン、ポチャン」という音を、アンサンブルに取り込む。リズムだけでなく旋律も制御して“演奏”する。 装置開発は2019年から。首都大学東京(現東京都立大)システムデザイン学部在籍時
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現代美術家集団「幻触」と鈴木慶則さんを語る 本阿弥さん(静岡)、峯村さんが対論
1960年代末から70年代初頭にかけて活動し、全国から注目を集めた静岡市などの現代美術家の集団「グループ幻触」と、その中心的存在だった鈴木慶則さん(1936~2010年)を語るトークイベントが、東京都中央区銀座のギャラリーQで開かれた。同ギャラリーの40周年記念展「鈴木慶則-石子順造と歩んだ世界」の関連企画。 グループ幻触を研究する美術評論家本阿弥清さん(静岡市清水区)と、多摩美術大名誉教授の峯村敏明さんが対論した。同ギャラリーのディレクター上田雄三さん(旧清水市=現静岡市清水区=出身)が司会を務めた。 本阿弥さんと峯村さんは幻触のメンバーの主な作品をたどりながら、旧清水市を拠点に彼らと
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フィボナッチ数列 オルゴールに結実 川根本町の造形作家日詰さん
造形作家日詰明男さん(川根本町)が不思議な数字の並び「フィボナッチ数列」をベースにした手動オルゴールを完成させた。「構想から27年。やっと形になった」と感慨を語った。 同数列は「1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…」と、ある数字と次の数字の和が、その次の数字になるように並んでいる。ひまわりの種の並び方など自然界のさまざまな場面でこの数列が見られるという。 日詰さんは1995年から、同数列を活用した立体作品や音楽を発表してきた。オルゴールは究極形という。 歯車6枚を同時に回す構造。それぞれの歯車には同数列に従って5、8、13、21、34、55個の歯が刻まれる。レ
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輞川図巻 鮮やか理想郷 中国・明代の絵巻 静岡県立美術館で全巻初公開
静岡県立美術館は9日まで、2018年に県民から寄贈を受け、3年間かけて静岡市内の工房で修理した中国・明(1368~1644年)代の絵巻「輞川(もうせん)図巻」を公開している。全巻公開は初。 「輞川図」は唐代の詩人で画家の王維が自らの別荘「輞川荘」を描いたという故事に基づく、長く中国や日本で愛されてきた画題。同館収蔵作品のように石の版から刷った墨1色の絵を基に着色した事例は珍しい。同館によると、米国のシアトル美術館の蔵本や長崎県の聖福寺の旧蔵本が知られているが、数は少ないという。 県立美術館の作品は、険しい山、整然と並んだ木々、それらに囲まれた居宅や庵(いおり)などが描かれる。緑や青
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ヴァンジ美術館 「現状形態で存続を」8割 長泉町、アンケート結果公表
新型コロナウイルス禍による経営難を踏まえ、静岡県に施設の譲渡を提案したヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)はこのほど、同館の在り方について利用者らに聞いたウェブアンケートの結果をまとめた。全国から回答した9659人の約8割が「これまでどおりの形態での存続」を望んだ。 全体の98%が「存続を望む」とし、その内の81%が「これまでどおり」の運営形態を希望した。現在行っている美術館の活動で継続した方が良いものを聞いたところ「障害のある方も楽しめる美術館づくり」が64%でトップ。「触れることのできる作品の展示」が15%で続いた。 アンケートは9~25日に実施した。岡野妙子専務理事は「さまざまな立場の
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時論(12月23日)美術館「ユニバーサル」の実績
生まれて初めて、目を閉じて映画を観賞した。ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)が開いた、視覚障害者の美術鑑賞が主題のドキュメンタリー「手でふれてみる世界」の上映会で、音声ガイドを利用した。「チューブに入った女の彫刻。見えるのは顔と足の裏」-。イヤホンから流れる声が、スクリーンの出来事をつぶさに伝える。 大手映画会社などでつくるNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC[マスク])によると、2021年公開の邦画490本のうち、80本には音声ガイドが用意されていた。統計を開始した12年は554本中の6本だったというから、大幅な伸長である。 MASCは「すべての人が映像作品に何不自由
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音楽レーベル「ラッシュ・ミュージック」 焼津に新ライブハウス
焼津市、静岡市駿河区用宗を拠点に活動する音楽レーベル「Lush Music(ラッシュ・ミュージック)」が12月、焼津市に新ライブハウスを開業する。 JR焼津駅南口から徒歩4分のビル2階にある「LIVE HOUSE LUSH」は66席。3階に別室を設け、ファンと出演者の交流の場とする。 看板アーティスト「もにゅそで」のライブで24日にこけら落とし。25日にはレーベル所属の音楽家らによるフェスティバルを開催する。年明けからは週末を中心に営業し、レーベル所属16組などのライブや配信を行う。 もにゅそでは動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で絶大な人気を誇る女性2人による音楽、動画
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記者コラム「清流」 鴻池展が生む衝動
静岡県立美術館の「みる誕生 鴻池朋子展」は「美術館が開催する作品展」という、人の脳みそに固定されたスタイルを木っ端みじんに打ち砕く。 驚くことに、最初の3部屋には鴻池さんの作品がほとんどない。県立美術館の収蔵品から川村清雄、田中敦子らの名作が出ているが、選択に鴻池さんは関わっていない。 本人作品のエリアに入る。紙、粘土、アニメ、毛皮、ビニール、セミの声-。素材が非常に幅広い。館外の森には巨大なトンビが木につるされている。これは一体何だ-。 タイトルや説明文がない展示物ばかり。ふと気が付いた。作品を全部、自分で「解釈」できるではないか。五感を全部使って解釈すれば、何を言っても不正解はない
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無人駅の芸術祭 創作拠点を一新 島田「ヌクリハウス」お披露目
大井川鉄道の駅を活用した広域アートイベント「UNMANNED(アンマンド)無人駅の芸術祭/大井川」を主催するNPO法人クロスメディアしまだ(島田市)は17日、芸術祭の参加アーティストの制作拠点を一新した同市川根町抜里の「アトリエ&ゲストハウス ヌクリハウス」のお披露目イベントを開いた。 開設を祝して近隣住民や県内外のアート関係者が集まった。イベントでは「マンガライブペインター」の内田慎之介さん(島田市出身)によるふすまを使った公開漫画制作や、新潟県で開かれる国際アートイベント「大地の芸術祭」の運営に携わった関口正洋さんらのトークを実施した。 地元住民の住まいをリノベーションした同施設は1
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ヴァンジ美術館「触察」実践例を映画化 視覚障害者ら手で触れて彫刻鑑賞 岡野副館長が監督
ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)の岡野晃子副館長がこのほど、視覚障害者らが手で触れて彫刻を鑑賞する「触察(しょくさつ)」を主題にしたドキュメンタリー映画を完成させた。全国の博物館関係者から、実践例を映像化した作品として注目を集める。 映画「手でふれてみる世界」は、イタリア中部のアンコーナ市にある国立オメロ触覚美術館の活動を追う約60分の作品。同館は1993年に「視覚障害者の文化的融合と成長を助けること」などを目的に全盲の夫妻アルド・グラッシーニ氏、ダニエラ・ボッテゴニ氏が開館し、99年に国立館となった。西洋美術史に重要な位置を占める作品の樹脂や石こうによるレプリカなど、所蔵する300点以上
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流麗な音「復活」 右半身まひ乗り越え、6年ぶり本格ライブ 電子楽器「テルミン」竹内正実
電子楽器「テルミン」の演奏家、研究家の竹内正実(55)=浜松市西区=が、2016年の脳出血に起因する右半身まひを乗り越え、東京、大阪で6年ぶりに本格的なライブを行った。再起を祝して集まった旧知の音楽家たちとのアンサンブルで、流麗なテルミンの音を響かせた。 ステージ上で発症し、演奏続行が不可能になったライブから約6年。6日の東京・目黒での公演は、4人のピアニストとそれぞれ合奏する前半と、マトリョーシカ形テルミンを交えた6人編成のバンドを従えた後半の2部構成で進んだ。 ラフマニノフやサンサーンスのクラシック曲、「ムーンリバー」など映画主題歌、日本のバンド「アリス」のメドレーなど、多彩な選曲。
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時論(12月6日)生徒が開く新しい読書の扉 文化生活部長兼論説委員/橋爪充
静岡県内の書店員と図書館員約600人が選ぶ静岡書店大賞が、今日発表される。今年で10回目。昨年の小説部門で大賞に輝いた一穂ミチさん著「スモールワールズ」はその後、本屋大賞の候補にも名を連ねた。潮流を的確に見定めた選考に、全国から注目が集まる。 本との出合いは「誰が薦めているか」が重要だ。個人的な感覚だが、通販サイトの「おすすめ」をそのまま買う気にはならない。耳を傾けるのは信頼できる友人、愛読している書評サイトや書評家、なじみの書店主あたりか。読書は新しい世界を開くと言われるが、ならばこそ扉の番人はよくよく吟味したい。 掛川市で先日開かれた「高校生が選ぶ掛川文学賞」は、工夫が凝らされていた
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「草に憩う女」大正初期/竹久夢二作 静岡市美術館【美と快と-収蔵品物語㊻】
明治時代末期から大正時代にかけて、新感覚の女性像を描き続けた画家竹久夢二(1884~1934年)。旧蒲原町(現静岡市清水区)で生まれ育った郷土史家志田喜代江さん(1924~2017年)は叙情的な夢二の作品を熱烈に愛し、肉筆画をはじめ約300点を集めた。全国でも珍しい女性コレクターによる夢二の作品群は今、静岡市美術館が収蔵する。小さな町でこつこつと築かれたコレクションは、彼の画業のありようを明解に伝えている。 「夢二式」女性像凝縮 赤の着物に身を包んだ女性が穏やかにほほ笑む。草地の斜面に腰かけているのだろうか。黒い瞳と長いまつげが愛らしさを振りまく。純白の顔に比して手足は幾分大きいよう
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ビールの沼津へ 5カ所目醸造所「マスターズブリューイング」誕生 併設飲食店開業
JR沼津駅前に沼津市5カ所目のクラフトビール醸造所「マスターズブリューイング」が誕生した。15日に併設の飲食店を開業する。人口20万人規模の地方都市に醸造所が五つ共存するのは、国内では異例。市内の同業他社や関係者は“クラフトビールシティー沼津”の知名度向上に期待を寄せる。 「マスターズブリューイング」は13日、定番ビール3種の試飲会を開いた。代表で醸造責任者の益谷尚豪さん(56)は沼津市内で2007年から飲食店「さえ丸おじさんの店」を営業する。新醸造所には容量500リットルの発酵タンク4基を備え、缶飲料の通販にも力を注ぐという。 益谷さんは20代の頃から国内外のビ
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重要文化財・松城家住宅(沼津)公開 修復完了 漁師踊りで祝う
国の重要文化財に指定されている明治時代の擬洋風建築「松城家住宅」(沼津市戸田)が、2016年から続いた保存修理工事を終え、3日に一般公開が始まった。 同住宅前でオープニングセレモニーが開かれ、同住宅を所管する市教委の関係者や戸田地区の小中学生らがテープカットで新装公開を祝った。地元住民が漁師踊りと漁師唄を披露し、式典に花を添えた。頼重秀一市長は約150年前に建てられた同住宅の由来に触れ「歴史的建造物を情報発信拠点として活用し、戸田の発展に結び付けたい」と話した。 今回の工事は建物を半解体し、鉄骨などで補強。しっくいの壁、バルコニーやかまど、便所などを復元した。しっくい鏝絵(こてえ)の達人
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喉歌ホーメイ♪ 熱海で共鳴 ロシア・トゥバから4人組来日
ロシア連邦トゥバ共和国で1996年に結成された、伝統の喉歌「ホーメイ」を駆使した音楽を奏でる4人組「チルギルチン」が初来日を果たし、静岡、熱海の両市を含む全国8公演を行った。リーダーのコシュケンデイ・イーガリさん(44)は「伝統や文化の違いを乗り越えて日本人と共鳴できた」と話した。 来日ツアーは、自らもホーメイの使い手として知られる日本トゥバホーメイ協会会長でバンド「ヒカシュー」のリーダー巻上公一さん(66)=熱海市=の招きで実現した。 チルギルチンは、欧米のツアーも多数行う、トゥバを代表する楽団。ロシアによるウクライナ侵攻後の航空路線の混乱を受け、来日は困難を極めた。メンバーはモスクワ
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敬意と創意、バランス良く♪ 佐藤竹善 カバーアルバム第8作
人気バンド「シング・ライク・トーキング」のメンバーで、SBSラジオ「レコード部屋」のパーソナリティーを務めるシンガー佐藤竹善が、カバーアルバムシリーズ「Cornerstones(コーナーストーンズ)」の第8作「radioJAOR~Cornerstones8~」をリリースした。「シング-」の“育ての親”である音楽プロデューサーの故武藤敏史氏を思って選んだシティ・ポップの名曲9曲(LP版。CD版は8曲)を、オリジナルへの敬意と自らの創意をバランス良く詰め込んで再構築した。 旧ファンハウスの敏腕プロデューサーとして知られ、コンテストの審査委員長として「シング-」を見いだし
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加山雄三さん万感 最後の音楽フェス 富士宮・朝霧JAMに出演
年内で演奏活動を終了する歌手で俳優の加山雄三さん(85)が9日、富士宮市で開かれた「朝霧JAM(ジャム)」で、最後の音楽フェスティバル出演を果たした。 5人編成のバンドと登場した加山さんは、「君といつまでも」を皮切りに全10曲を終始笑顔で歌い上げた。「お嫁においで」「夕陽は赤く」など代表曲を次々披露。朗々とした歌声が、富士山麓に響いた。エルビス・プレスリーに面会したエピソードを語った後に「ラブ・ミー・テンダー」を演奏するなど、洋楽曲も取り上げた。 観覧エリアに手を振ったり親指を立てたりするなど、観客との交歓も楽しんだ。自身の年齢に触れ「生きていて良かった。支えてくれたみんなのおかげで今の
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連詩創作、高校生が挑戦 詩人野村さんから手ほどき 浜北西高
静岡県文化財団は2日、詩人野村喜和夫さんを講師に招いた連詩のワークショップを、浜松市浜北区の浜北西高で開いた。同高と浜松学芸高の文芸部員計16人が連詩の方法論を学び、創作に挑戦した。 11月に静岡市駿河区のグランシップで実施する「しずおか連詩の会」(静岡新聞社・静岡放送共催)の関連企画。1999年から続く「しずおか-」の中で、生徒に本格的な連詩の手ほどきをするのは初めてという。 参加した高校生16人は4グループに分かれ、野村さんが作った3行詩に続ける形で、グループごとに4人のリレー形式で創作した。それぞれの価値観と美意識に基づいた3行詩が連なり、「空を見つめて」「物語」「時」「生きる」と
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4年ぶり「野外フェス」 聖地での音楽祭へ一丸 朝霧JAMS’代表/堀内潤氏【本音インタビュー】
富士宮市を会場とする野外音楽フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」が10月、4年ぶりに開催される。1万人規模のイベントを支えるボランティアグループのリーダーに現在の心境、地方フェスの役割や課題について聞いた。 -2001年から毎秋開催が定着していたフェスが19年は台風、20、21年は新型コロナウイルス禍で中止となった。どんな思いだったか。 「秋開催が当然のように感じていたので、ここ3年は残念な10月だった。朝霧JAMS’(ジャムズ)は地元のコアメンバー約30人に加え、開催期間に全国から集まる約150人で構成されている。メンバーの士気を維持するために、電話やメール、LINE(
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熱海未来音楽祭プレイベント 音楽家・巻上公一さん×演劇批評家・鴻英良さん 起雲閣でアートの深淵語る
音楽家巻上公一さん(熱海市)がプロデュースする即興音楽やパフォーミングアーツの祭典「第4回熱海未来音楽祭」のプレイベントが、同市の起雲閣で開かれた。23日の開幕を前に、巻上さんと演劇批評家鴻英良さん(旧舞阪町=現浜松市=出身)が、米国の劇作家リチャード・フォアマン、旧ソ連(現ウクライナ)生まれの現代美術家イリヤ・カバコフを題材に、アートの深淵[しんえん]をのぞくトークを繰り広げた。 1990年代前半に米ニューヨークで上演されたフォアマンの演劇「マインドキング」について、感想を述べ合った。鴻さんは教会の狭い部屋を劇場にした同作品について「演者のささやくようなせりふが部屋のあちこちから聞こえて
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加山雄三さん朝霧JAM出演へ 「最後のフェス」は富士宮
コンサート活動終了を宣言した歌手で俳優の加山雄三さん(85)が、最後の音楽フェスティバルでの演奏機会として、10月に富士宮市で開催する「朝霧JAM(ジャム)」に出演することが12日、関係者の話で分かった。近く正式発表する。 加山さんは9月9日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で最後の単独コンサートを終えたばかり。2013年から続く国内各地の野外フェスへの出演も10月8、9日の朝霧ジャムで打ち止めとなる。12月のクルーズ船イベントで正式に演奏活動から引退する。 朝霧ジャムは2001年から富士宮市で毎秋開かれている国内屈指の伝統を誇る野外フェス。19年は台風接近、20、21年は新型コロナ
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琴線に触れたアート本は 浜松でトーク
浜松市中区の市鴨江アートセンターで、お気に入りのアートブックを語り合うトークイベントが開かれた。写真家小林久人さん(51)=浜松市東区=が主導し、参加者8人が写真集、画集など、自らの琴線に触れた本を紹介した。 米写真家ソール・ライターの作品集、荒木飛呂彦さんの人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の特別編集本、コロンビアの美術家フェルナンド・ボテロの展覧会図録-。参加者は一人ずつ、アートの関心領域、持参した本との出合いを披露した。 英出版社のハードカバーのファッション本を持ち込んだ山口祐子さん(77)=同市中区=は「10年前に香港の空港で手に入れた。装丁が美しく、写真集、実用本の両方の要素を併
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袋井「樂土舎」25年 アート拠点、創設からの歩み出版物に
1996年に袋井市の豊沢地区でスタートした「樂土[らくど]の森アートプロジェクト」を主宰するマツダ・イチロウさん(65)が、25周年を記念した出版物「ドキュメント樂土舎1996-2021 樂土の森アートプロジェクトの25年」を発刊する。「樂土舎」と名付けたアート拠点に、音楽、美術、ダンスなど表現の壁を超えてアーティストが集うようになった経緯を、写真や年表、関係者の寄稿などで紹介した。記念誌を手にしたマツダさんが、創設からの歩みを振り返った。 ドラム缶によるまき窯の設置が樂土舎の出発点。当時のマツダさんの胸の内には、1995年の阪神淡路大震災で壊滅的な損害を被った神戸の街並みと、春埜山大光寺
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秋野不矩さん親子よみがえった合作 長男・癸巨矢さん宅に原画 絶版絵本、半世紀ぶりに復刻
浜松市天竜区出身の日本画家秋野不矩さん(1908~2001年)と文筆家の長男秋野癸巨矢(きくし)さん(1933~2008年)が1969年に発刊した絵本「クリシュナのつるぎ」の原画が約半世紀ぶりに見つかり、絶版だった絵本がこのほど復刻に至った。 原画は神戸市内の癸巨矢さん宅の書斎で妻美樹さん(62)が発見した。「昨年11月に13回忌を終え、年明けに遺品の整理をしていたら、引き出しから出てきた。手にした時は、原画の迫力におののいた」。不矩さんの作品の著作権管理などを行う一般社団法人秋野不矩の会(京都市)を通じて神戸市の出版社「BL出版」での復刻が決まった。 インド神話に材を取った「クリシュナ
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阿久先生に見守られ 歌手・増田惠子(静岡市出身) ソロ40周年記念盤、ピンク・レディー時代皮切りに新旧37の代表曲収録
歌手増田惠子(静岡市出身)がソロデビュー40周年を記念したアルバム「そして、ここから…」を発表した。ピンク・レディー時代のソロ曲を皮切りに、作詞家阿久悠(1937~2007年)の未発表作品を歌った2曲など、新旧の代表曲を詰め込んだ。 静岡市内の中学校で出会ったミー(現・未唯mie)とともに上京し、ピンク・レディーとして世に出たのが1976年。解散後の81年、中島みゆき作詞作曲の「すずめ」でソロデビューした。 全37曲を収録した2枚組CDは、2021年から続く「40周年プロジェクト」の最大のコンテンツだ。新録音の5曲、全てのソロシングル表題曲に加え、ピンク・レディー時代の
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アートの魅力 伝え方学ぶ ACしずおかが初の文章講座
静岡県民の創造活動を支援する「アーツカウンシル(AC)しずおか」は21日、文化芸術の魅力を言葉で表現する人材を養成しようと、初の文章講座「かきかたきかく」を静岡市駿河区のグランシップで開いた。 本紙「文化・芸術」面にも寄稿する美術評論家の福住廉さんが講師を務めた。参加者約20人が事前に執筆したエッセーを素材に、読み手に伝わりやすい文章の組み立て方を指南。段落の構成の工夫、段落ごとの論点と具体例の示し方などを分かりやすく説明した。 アートを文章の題材にする際の要点も論じた。書き手の心情を伝える上で、「好き」「嫌い」という言葉を使うだけでなく、作品や情景を描写する際にどんな形容詞や副詞を選ぶ
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匠宿「静岡醸造」初の瓶ビール 「ラガー」「ホワイト」2種セット
静岡市駿河区丸子の観光施設「駿府の工房 匠(たくみ)宿」内で今夏から醸造を始めたクラフトビールメーカー「静岡醸造」は21日、同醸造所初の瓶入りビールの販売を始める。 「TAKUMI CLASSIC(タクミ・クラシック)」と名付けたブランドの2本セットで、それぞれの瓶に匠宿のオリジナルラベルを貼付した。瓶詰めも醸造所内で行っている。 日本人になじみが深い「ラガー」と、ユズやコリアンダーを使用した爽やかな味と香りの「ホワイト」の2種。福山康大社長は「伝統工芸が体感できる匠宿で、食分野の職人による製品にも接してほしい」と願いを込める。 価格は特製ギフトボックス入り2本セットで2千円。匠宿内で
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地域の魅力 アーティストが発信 ACしずおか招致、森町などに滞在 住民との交流も促進
静岡県民の創造活動を支援する「アーツカウンシル(AC)しずおか」が地域住民とアーティストの出会いを提供する事業「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」が8月、始まった。全国から選ばれたアーティストたちが、まちづくりや移住促進などに取り組む県内団体の“地元”に滞在し、地域の魅力の発信や住民との交流を図る。事業は昨年度に続き2回目。 本年度第1弾として、森町のまちづくり団体「森と町づくりの会」が写真家秋野深さん(52)=千葉県=、画家鋤柄ふくみさん(39)=愛知県=を8日から受け入れている。9日は団体の岩瀬進哉代表(41)=同町役場移住コーディネーター=らが2人を
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“生きるもの”慈愛表現 静岡の画家松井さんが個展
作家三木卓さんの静岡新聞連載「鎌倉だより」の挿絵を担当していた画家松井正之さん(76)=静岡市清水区=の16年ぶりの個展が11日、同市葵区の「しずぎんギャラリー四季」で始まった。 60~70代を通じて取り組んでいる、哺乳類や魚類、鳥などを落ち着いた色調で描いた大作約30点を出品した。全て油彩で、キャンバスを黒で下塗りし、少しずつ明度の高い色を重ねている。 日本平動物園(同市駿河区)や旅先のインドなどでスケッチした羊やカバ、カラスなどは、ほぼ全て側面から描かれている。縦横のラインを意識した巧妙なモチーフの配置、限られた色使いによる静的な画面構成も相まって、生きるものへの共感や慈しみを伝える
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静岡市葵区に新拠点を開設 アニメ新旧技術を融合 制作会社「シャフト」社長/久保田光俊氏【本音インタビュー】
「魔法少女まどか☆マギカ」「3月のライオン」など多くの人気アニメーション作品を手掛ける制作会社シャフト(東京)が、静岡市葵区に「静岡スタジオAOI」を設立した。地方都市に設けた新拠点の狙いを聞いた。 -スタジオ開設のいきさつは。 「アニメ制作のデジタル化や技術の進歩、通信環境の向上で、オンラインのやりとりに不自由がなくなった。さらに、新型コロナウイルス禍を受けて約2年間、テレワークを進めた結果、東京の本社から離れた場所でも十分に仕事ができるという手応えを得た。静岡は都内から近く、住みやすく、働きやすい。本社から『隣のスタジオに行ってくれ』というぐらいの感覚で行き来できる」 -新拠点の
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地域住民とアーティストの交流促進 12団体が38人受け入れ
静岡県民の創造活動を支援する組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」は、地域住民とアーティストの出会いと交流を促進する取り組み「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」に参加するアーティストと受け入れ団体を発表した。 MAWは2021年度に続く2回目。8月上旬から11月中旬まで県内外38人のアーティストが順次、県内に拠点を置く12団体の活動エリアに4~7日間滞在し、フィールドワークや地域住民との意見交換会を行う。 アーティストに各地域の魅力発信や新しいプロジェクトの創出を担ってもらい、地域の未来につなげるのが狙い。5月下旬から7月上旬までそれぞれ募集し、23都府県の121人、13団体
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彫刻表現の成果を総覧 建築家・川口宗敏さん(静岡市)、写真集を発刊
静岡文化芸術大名誉教授の建築家川口宗敏さん(73)=静岡市清水区=が、過去40年間の自作の彫刻やモニュメントを集めた写真集「宗敏の芸術美」(静岡新聞社)を発刊した。建築設計や都市デザインを手がける中で高まった芸術への探究心、彫刻表現への興味関心を、自らの手による写真で総覧した。 約10年前から制作した、白大理石にさまざまな女性の表情を刻んだ「ミューズ」3部作の完成を機に発刊を決意した。2012年の建築集「川口の空間美」(同)の続編。「静岡県わかふじ国体炬火[きょか]台『炎輪』」(03年)、静岡市呉服町通りのベンチやアーチ(1995、96年)、「浜松モザイカルチャー世界博」に出品した「紅雲の
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旧幕臣の歩み語る 小説家渡辺房男さん講演 静岡
現在の静岡市葵区にあった静岡学問所で教えた米国人教師エドワード・ウォレン・クラーク(1849~1907年)を顕彰する事業の実行委員会(委員長・今野喜和人静岡大名誉教授)は23日、歴史小説家渡辺房男さん(78)を招いた講演会を静岡市葵区のアイセル21で開いた。渡辺さんは、クラークと同時代を生きた旧幕臣たちの歩みを語った。 明治維新後に静岡に移った旧幕臣1万5千人のうち、窮乏した約300人が牧之原で茶畑の開墾を担った経過をたどった。旧幕臣の子孫の居宅でやりを見つけた自身の経験から「彼らは武士の魂を忘れずに生き抜いたのだろう」と推察した。 NHK職員時代の1980年にクラークが主題の番組を制作
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人材派遣会社がビール醸造 激戦区・沼津で挑戦の”一滴”
沼津市の人材派遣会社がクラフトビール事業に乗り出した。JR沼津駅南口の沼津仲見世商店街に面した自社所有ビルで、3月から醸造を開始し、6月にはビアレストランも開業した。GKB(旧御殿場高原ビール)=御殿場市=の支援を受け、ビール激戦区の沼津でブランドの確立を目指す。 人材派遣会社は「イカイ」。新たに設立した会社、ビールのブランドを「ONE DROP(ワン・ドロップ)」と命名した。 2012年にイカイが取得した鉄筋コンクリート造り地上4階建てのビルの地階約600平方メートルに、醸造所と飲食店を設けた。コンサルタント契約を結ぶGKBの醸造家がビールのレシピを作成。容量500リットルの発酵タンク
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客に“ささげる”即興詩 詩人・さとう三千魚さん 静岡で新感覚ライブ
現代詩のウェブサイト「浜風文庫」を主宰する詩人さとう三千魚[みちお]さん(静岡市駿河区)が3日、同市葵区の古書店「水曜文庫」で、来店客に詩を作るパフォーマンス「無一物野郎[むいちぶつやろう]の詩、乃至[ないし] 無詩[むし]!」を行った。 同店では5月に続く2回目。創作を希望する客に好きな花の名と詩のタイトルを尋ね、そこから想を得た詩をその場で編み出す。スマートフォンに文字を連ね、プリントアウトして目の前の客に渡す。新しい形の「現代詩ライブ」だ。 これまで、希望した12人に詩を書いた。報酬は投げ銭形式で受け取る。花の名をリョウブ、タイトルを「透明なアクリル板」とした会社員増田早希さん(掛
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奇想天外「夫婦げんかもの」 富士宮市出身・横関大さんが新刊「忍者に結婚は難しい」
テレビドラマ化、映画化された「ルパンの娘」シリーズで知られる作家横関大さん(富士宮市出身)の新刊「忍者に結婚は難しい」(講談社)は、現代に生きる伊賀忍者と甲賀忍者の夫婦を主人公に据えた多面的なエンターテインメント作。表裏の顔を使い分けて社会生活を営む忍者たちの冒険活劇、禁断の組み合わせのカップルが巻き起こすコメディー、本格的な謎解きが潜むミステリーという三つの要素を巧みに操る手さばきが光る。 泥棒一家の娘と刑事のカップルが主人公の「ルパン-」をはじめ、「水と油」とも言える人物の顔合わせを説得力のある物語に昇華させるのはお手の物。「忍者に-」は「『夫婦げんかもの』を書きたかった」という思いが
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栄光、絶望…半生を振り返る著書 サッカー元代表主将・森岡隆三
サッカー元日本代表主将の森岡隆三が、自らの半生を振り返る著書「すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT」(徳間書店)を発刊した。夢中でボールを蹴った少年時代からプロ選手を経て指導者になった現在までを全11章にまとめた。サッカーを通じて味わった歓喜や栄光だけでなく、苦悩や絶望も包み隠さず記した。 シドニー五輪、アジア杯、日韓ワールドカップ(W杯)への出場。清水エスパルスでのタイトル獲得。華々しい選手キャリアと裏腹に、著書は2002年日韓W杯の初戦、左足の違和感で途中交代を余儀なくされたシーンで幕を開ける。 「本を書くことになって半生を振り返ってみると、思い出すのは苦い経験ば
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富士宮出身作家 横関大さんサイン会 富士
テレビドラマ化、映画化された小説「ルパンの娘」シリーズなどで知られる作家横関大さん(47)=富士宮市出身=が3日、富士市の書店「谷島屋富士店」で自身初のサイン会を開き、地元ファンとの交流を楽しんだ。 新刊「忍者に結婚は難しい」(講談社)のキャンペーン活動の一環。店舗入り口付近に設けた特設コーナーで、さまざまな年代の来場者が差し出す書籍に次々サインした。 横関さんは富士高の卒業生。富士宮市役所勤務時代の2010年に「再会」で第56回江戸川乱歩賞を受賞した。なじみ深い地域での初サイン会に「作品を読んでくださっている方々と会えるのが楽しい」と述べ、担当編集者らを交えてファンと言葉を交わした。
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ビール醸造所直営の宿泊施設内覧 静岡・用宗の魅力、発信拠点に
クラフトビールメーカー「ウエストコーストブルーイング(WCB)」(静岡市駿河区用宗)は29日、醸造所近隣に7月オープンする直営宿泊施設の内覧会を開いた。取引先関係者ら約120人が、タップルーム(パブ)とベッドルームが一体化した新施設の門出を祝った。 老舗レストランをリノベーションした2階建て宿泊施設「ザ・ヴィラ・アンド・バレル・ラウンジ」は全5室。各部屋に生ビールサーバーが付き、1階のタップルームでも同社の多彩なビールが楽しめる。ビール醸造所が宿泊施設を運営するのは珍しい。 2017年から用宗地区の観光開発に取り組むCSA不動産(同市葵区)の小島孝仁社長は「クラフトビール界屈指の人気ブラ
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静岡市歴史博物館 建物設計の意図「SANAA」2氏に聞く
7月23日にプレオープンする静岡市歴史博物館(葵区)は、市の歴史や文化を学ぶ展示とともに、世界的に活躍する建築事務所「SANAA」(サナア)が担当した館のデザインも見どころだ。博物館の機能と「かたち」の美をどう両立させたのか-。SANAAの妹島和世さん、西沢立衛さんに、設計の意図を聞いた。 抑揚生む「雁行配置」 徳川家康や今川氏の歴史をはじめとした、静岡市の成り立ちを理解するための展示と資料を収める同館。市街地と、家康の居城だった駿府城公園を結ぶ地点に位置する。 SANAAの二人は設計にあたり、何度も直角に折れ曲がりながら城下を通り抜ける旧東海道に着目した。石垣を直角に曲がってたどり着
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伊豆市資料館「埋甕」 縄文時代中-後期【美と快と-収蔵品物語㉛】
旧中伊豆町の町立施設として1987年に建てられた伊豆市資料館。館内に掲示された市内の主な遺跡の地図には誰もが目を見張る。その数、116カ所。うち縄文時代が約80カ所を占める。狩野川支流の大見川流域、天城連峰の懐に抱かれた肥沃[ひよく]な地は、はるか昔から人の営みとともにあった。同館が収蔵する国指定史跡「上白岩遺跡」の「埋甕[うめがめ]」などの出土品は、3000~4000年前にこの地に生きた人々の確かな証しである。 ■集落営み 今に伝える 上白岩遺跡は1976年の予備調査を踏まえ、77年に本格的な発掘調査が開始された。調査は2004年までに計12回行われている。旧中伊豆町立中伊豆歴史民俗
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各部屋にサーバー ビール醸造所が宿泊施設 静岡、7月1日開業
クラフトビール醸造・販売のウエストコーストブルーイング(WCB)は7月1日、静岡市駿河区用宗の醸造所の向かい側に直営宿泊施設「The Villa&Barrel Lounge(ザ・ヴィラ・アンド・バレル・ラウンジ)」を開業する。小規模ビール醸造所は全国に580カ所超、本県に20カ所超あるが、本格的な宿泊施設を運営するのは珍しい。30~50代の国内ビールファンをターゲットに年間稼働率6割を目指し、宿泊客の周辺回遊を促すことで、用宗地区一帯で開発が進む観光関連ビジネスの活性化に寄与する。 「ブルワリーに泊まれる」をコンセプトにした全5室を提供する。各室とも生ビールサーバー付きで、宿泊者限定ビール
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静岡人インタビュー「この人」 鈴木康広さん(東京都) 県文化奨励賞に選ばれた現代美術家
ありふれた日常に新しい切り口を与え、世界の捉え方を問い直す作品をつくり続ける。2021年に静岡市美術館の入り口ホールで開いた個展では、10年の同館開館時の展示作品「まばたきの葉」を同じ場所に“再生”。時空を超えた参加型アートとして話題を呼んだ。武蔵野美大教授。浜松南高出。43歳。 -受賞の感想を。 「たいへん光栄。活動機会をいただいたこと、それを文化・芸術として認めてもらえたことがうれしい。僕は生活の中で『大切だ』と思ったことを、研究機関や展覧会を企画する方々と具現化してきた。街の空間に新しい場所を見つけるのが自分の活動だと再認識できた」 -「楽しさ」を深く、広
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アニメ制作スタジオ 静岡市に初進出 県内学生採用に意欲
東京都に本社を置くアニメ制作会社「シャフト」が6月、静岡市葵区に制作スタジオを新設した。アニメ制作会社が同市に進出するのは初めてで、アニメ業界への就職先として市内の専門学校からも歓迎の声が寄せられている。首都圏から移住した社員もいて、市は「若者の人口流出を防ぎ、地域活性化の起爆剤になれば」と期待を込める。 23日にはシャフトの久保田光俊社長(62)=菊川市出身=が静岡市役所を訪れ、田辺信宏市長に新設した「静岡スタジオAOI」の業務開始を報告した。久保田社長は「ここ数年の通信環境の向上やテレワークの定着で、首都圏以外でも制作できると考えた。静岡から世界に作品を発信するというロマンを追い掛けた
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ドラムの楽しさ♪議論 浜松で気鋭2人が座談会
気鋭のドラマー2人が奏法を語り合う「ドラム・ザ・座談会」が、浜松市西区のカフェ「エスケリータ68」で開かれた。バンドサウンドを下支えする苦労や楽しさについて、お互いへの敬意を込めて議論した。 インストバンド「SAKEROCK」の創設メンバー伊藤大地さんと、ジャズやラテンなど幅広い音楽性のバンド経験がある滑川博生さん(三島市)が登場。2基のドラムセットに座り、それぞれが参加した近年の楽曲を聴きながら、ドラムパートの工夫を実演、説明した。 スティックさばきの練習や、バンド演奏時のテンポの修正方法など、寄せられた質問にも専門家の立場から答えた。高校時代はロックバンド「X JAPAN」に憧れてい
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丸子のビール醸造開始 静岡の食に対応、ラガー中心 駿府匠宿内
静岡市駿河区丸子の観光施設「駿府の工房 匠(たくみ)宿」内に新設されたクラフトビール醸造所「静岡醸造」が21日、本格的に醸造を開始した。市内四つ目のビール醸造所が動きだした。 福山康大代表(33)=同区=、醸造担当の折山徹郎さん(32)=同区=が、醸造所の第1号となるホワイトビールを仕込んだ。コリアンダー、ユズの皮、米こうじを副原料に使い、ラガー酵母で発酵させるという。240リットルの発酵タンク5基が並ぶ醸造所内に甘い香りが漂う中、2人は麦汁の煮沸や糖化の作業にいそしんだ。 ホワイトビールは7月中旬に完成する見込みで、同時期に仕込むIPA、ラガーとともに醸造所に隣接する飲食施設で提供する
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戦争の記憶にじませて 静岡の岩崎さん短編集「水の彼方」刊行
小説家岩崎芳生さん(静岡市葵区)の新刊「水の彼方 十四の短編」は、静岡に深く根を下ろし、市井の人々に材を求めた約40年間を俯瞰[ふかん]する自選集。岩崎さんは過去の14編と向き合い、ストーリーラインをくっきりと浮かび上がらせるべく、曖昧さのそぎ落としに没頭した。極限までシェイプさせた小説群は、読む者の胸の底に確かな刻印を残す。 1979年の「牛坂」から2021年の新作「川の中で」まで、人々の暮らしに潜むドラマを描く作品が続く。何度となく故郷を題材にした小川国夫(1927~2008年、藤枝市出身)の言葉が常に頭にあったという。「『何を書くかではなく、どう書くかだ』と言っていた。見えているもの
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親子でハマる野外音楽フェス♪ 心と体に開放感【NEXTラボ】
開放的な空間で多彩なアーティストの演奏が楽しめる野外音楽フェスティバル(フェス)が、本格的なシーズンを迎えた。若者向けのイメージもあるイベントだが、近年は参加者の年齢幅が広がり、静岡県内会場でも家族連れの姿が増えている。新型コロナウイルス禍の中でも、主催者は世代を超えて愛されるフェスを目指し、子ども向け企画や過ごしやすさに配慮した運営に力を注ぐ。 増える家族連れ 過ごしやすく 5月中旬に富士市の「富士山こどもの国」で開催された「FUJI&SUN(フジ・アンド・サン)」は、子ども向けの広大な遊び場が会場。イベントとしての企画に加え、動物への餌やり体験や大型遊具の開放など、既存の設備を使った
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三善(掛川市)川合利弘さん 食品スーパーの一角 “架空の醸造所”出現【しずおか クラフトビール新世代㉔・完】
食品スーパー「フードマーケットサンゼン葛川店」(掛川市)には、「醸造所」を名乗るスペースがある。「『サンゼン・ブリュワリー』。2021年2月の店舗改装に合わせて“架空の醸造所”を出現させた」と話すのは、運営会社「三善」の川合利弘社長(52)=同市出身=だ。国内外のクラフトビール約150種をずらりと並べ、オリジナルのグラスやTシャツも販売。市内生産者の豚肉を使ったソーセージなど、おつまみの提案にも余念がない。スーパーとしては異例の売り場をつくり出した。 創業から120年以上、食品スーパーとして半世紀以上の歴史がある三善の4代目である川合さんがクラフトビールにのめり込む
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侵攻前の貧村「息吹」鮮明に ウクライナ出身写真家が来日個展
ウクライナ・マリウポリ生まれで現在はドイツ・ベルリンを拠点に活動する写真家ビクトリア・ソロチンスキーさんが、旧知のキュレーターで映画監督の渡辺真也さん(沼津市出身)の招きで来日。東京・渋谷でチャリティー展覧会「生命[いのち]を夢見て:ウクライナと共に」を開いている。首都キーウ近郊の貧村を捉えたシリーズは図らずも「失われた風景」の記録となってしまった。「ロシア軍の侵攻は、ウクライナの文化を破壊している」と訴える。 世界23カ国で展覧会を開いている。日本での個展は2017年に京都で開かれた「Anna&Eve」展以来。自身の内部を戯画的に映し出すポートレートでも知られるが、今回展ではドキュメンタ
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ほぐせない関係性、平穏の背後に 宇佐見りんさん「くるまの娘」
芥川賞作家の宇佐見りんさん(沼津市出身)が、受賞後第1作の「くるまの娘」(河出書房新社)を発刊した。人間同士の解きほぐせない関係性と、その不均衡を包摂して紙一重で保たれている平穏。何げない日常に潜む危うさを、家族という共同体に託して物語化している。 高校生のかなこは、祖母危篤の報を受け、父母、弟、兄と父の実家に車で向かう。車中泊、祖母の死、集まる親戚たち、葬儀-。淡々と進む儀礼の合間に、家族の過去が差し挟まれる。 かなこと父、かなこと母、父と母、父と兄、かなこと弟。傷つけ、傷つけられしながら今に至る1対1の関係性が容赦なく描かれる。のんきな家族間の会話の背後に、暴力の気配が立ちこめていく
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ウクライナの子ども支援へ写真展 沼津出身の映画監督、東京で開催
沼津市出身のキュレーターで映画監督の渡辺真也さん(42)が代表を務めるアートボランティア団体「アートエイド実行委員会」が、ロシアによるウクライナ侵攻で被害を受けた現地の子どもを支援しようと、世界的評価を受けるウクライナ出身の写真家ビクトリア・ソロチンスキーさん(42)を招いた個展を12日、東京・渋谷の「ギャラリーTOM」で始めた。 2009~18年に首都キーウ近郊の村に通い、古い民家に住む高齢者たちの生活を撮影したシリーズ「Lands of No-Return(帰らざる国)」など約30点を出品した。 ソロチンスキーさんはウクライナ南東部のマリウポリ生まれ。1990年に家族とともに当時のソ
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ビアパブ12年礎築く 呉服町タップルーム(静岡市葵区)横田史剛さん【しずおかクラフトビール新世㉓】
JR静岡駅は、徒歩圏内にビアパブやビアバーが約20軒ある。「日本一のクラフトビールシティー」と評価する声も聞こえる。 クラフトビールが今ほど認知されていなかった2010年、17タップを並べたビアパブ「ビールのヨコタ」を市役所近隣に開き、クラフトビールシティーの礎を築いたのが横田史剛さん(41)=吉田町出身=だ。2年前に「呉服町タップルーム」と名を変えた店は4月4日、12回目の誕生日を迎えた。 「30年は続けるつもりで始めた。まだ12年しかたっていないのかと」。ひょうひょうとしたキャラクターだが、大人数の来店をご法度とするなど、確固たる哲学を持つ。12年間の営業を経て、一人客の居心地を優先
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193バレーブリューイング(島田市) 渡辺威夫さん 茶農家に縁、思い込め【しずおかクラフトビール新世㉒】
島田市の伊久美地区と縁を紡いで丸10年。193[イチキューサン]バレーブリューイング(同市)の渡辺威夫醸造長(30)は、2月に完成した、地元産茶葉を使ったビール2種を前に来し方を振り返った。「今までのつながりに、やっと答えが出た気がする」 伊久美に初めて来たのは、東京農大の学生だった2011年12月。環境保全や食に関わる課題解決を目指す学生のネットワーク「世界学生フォーラム」の活動の一環として、先輩に導かれた。 東京生まれで、島田市や静岡県に特別な思いはなかった。中山間地の少子高齢化、過疎化の対策を実地研修を交えながら考える上で適切。伊久美はそうした意味合いで選ばれた地域だった。茶の栽培
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アオイブリューイング(静岡市葵区)星野賢人さん 倒産から1年で復活「恩返しを」【しずおかクラフトビール新世代㉑】
運営会社の倒産に伴う醸造停止から1年。22日、復活なったアオイブリューイング(静岡市葵区)のビール3銘柄が市内3店舗で飲めるようになった。 2014年から稼働したかつての「アオイ」の代表的ブランドであるゴールデンエール、IPA、アルトを同じレシピで再現。同区のビアスタンド「ザ・パイント・シャック」では、午前11時の開店を待ちかねたように注文するファンもいた。アオイの醸造長星野賢人さん(35)は「ファンの期待が大きくプレッシャーを感じていたが、第1弾が完成してほっとした。醸造を重ね、品質をさらに高めていきたい」と気を引き締めた。 星野さんがアオイに入ったのは20年10月。広島市でのビール醸
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伊豆の国ビール(伊豆の国市)渡辺仁さん なじみの水で仕込み「飲みやすさ高める」【しずおかクラフトビール新世代⑳】
自分が育った町で、飲み慣れた水を使ってビールをつくっている。「伊豆の国ビール」の醸造担当、渡辺仁さん(42)は醸造所が立地する旧大仁町(伊豆の国市)出身、在住。「大仁の水は昔からおいしいと言われていた」と胸を張る。 20代から30代半ばまで、ビールが全く飲めなかった。日本酒、焼酎、サワーなど酒類は何でも飲めたが、唯一の例外がビール。「ホップの苦みが苦手だった」という。 2015年、醸造所のレストラン担当として、毎朝のビールテイスティングを任された。「ピルスナーもヴァイツェンも苦さが控えめ。口当たりが柔らかく、のど越しが良かった」。人生で初めてビールを「うまい」と感じた。 同醸造所のルー
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ZOO(静岡市葵区)伏見陽介さん 百人百様の味わい 飲み比べ楽しんで【しずおかクラフトビール新世代⑲】
自他共に認める、静岡のクラフトビールの「伝道師」だ。2021年春に自らの会社「ZOO」を立ち上げ、11月末に生ビールの有料試飲ができる酒販店「MUGI」をオープンした伏見陽介さん(27)=静岡市葵区=。「市内のどんな居酒屋にも県内の醸造所のビールが常時置かれている。そんな状況を目指す」と理想を掲げる。 17年に同市内のクラフトビール店を紹介した「静岡クラフトビアマップ」を発刊し、名をあげた。19年には全県版を12万部発行。18年からは清水区で秋に開かれる「静岡地ビールまつり」の企画も担当する。セミナーや講座の講師としてもおなじみだ。本県のクラフトビールファン増と、各醸造所のブランド向上への
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一騎醸造(三島市)阿久沢健志さん 麹への興味「扉」開く ソロ活動で探究の旅【しずおかクラフトビール新世代⑱】
醸造家としてのブランドネーム「一騎[いっき]醸造」を掲げ、さまざまな醸造所でビールをつくる阿久沢健志さん(34)=三島市=。その姿は「漂泊の醸造家」とも「ソロ・ブルワー」とも称される。 比類なきスタイルの原点には麹[こうじ]への強い興味があった。2012年に反射炉ビヤ(伊豆の国市)に入社し醸造を担当していたが、周辺に広がる水田からインスピレーションを得た。「日本の食文化にはみそ、しょうゆなど発酵食品が欠かせない。原料となる米や麦の麹をビールに使えないか」 天ぷらやオムライスなど、換骨奪胎も日本の食文化の美点。ビールにもその伝統を取り入れたい。麹は新しい扉を開く鍵になる-。そんな発想だった
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マイン・シュロス(浜松市中区)杉本大樹さん 老舗の転換点を演出【しずおかクラフトビール新世代⑰】
マイン・シュロス(浜松市中区)の製造部主任杉本大樹さん(34)=旧天竜市出身=は2016年、“体育会系”からビール醸造の世界へ足を踏み入れた。 1994年の酒税法改正による「第1次地ビールブーム」まっただ中の97年に設立されたレストラン併設型の同醸造所は、静岡県内屈指の老舗。「開業したばかりの頃、家族で訪れた。振り返れば、クラフトビールとの初めての接点だった」 小中高校を通じてサッカーに没頭。名門国士舘大でもサッカー部に籍を置き、卒業後は故郷の遠州地域で仕事をしながら社会人プレーヤーとして活躍していた。 小学生時代のおぼろげな記憶しか残っていなかった場所が職場に
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古関裕而 幻の楽曲「静岡ファンタジー」をCD収録 今春静鉄で発見
1964年東京五輪の「オリンピック・マーチ」を作曲した古関裕而(09~89年)の「幻の楽曲」とされ、今春静岡市内で音源が発掘されたご当地ソング「静岡ファンタジー」が、古関楽曲を集めたCDに収録されることになった。 29日発売のCDは、古関が所属していたレコード会社日本コロムビア(東京)が編集した「古関裕而秘曲集」の「歌謡曲編」「社歌・企業ソング編」に続く第3弾「新民謡・ご当地ソング編」。古関が生涯に作った約5千曲から47曲を選んだ。 「静岡ファンタジー」は、レコード会社の「吹き込み台帳」に49年の録音が記録されているが、音源や楽譜のありかが不明で、研究者の間で「幻の楽曲」とされていた。古
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1杯の「原型」に衝撃 外食業から醸造家へ GKB(御殿場市)加田雄一郎さん【しずおかクラフトビール新世代⑯】
東京、新宿御苑近くのビアパブで飲んだ1杯のビールが人生を変えた。GKB(旧御殿場高原ビール)=御殿場市=の副工場長、加田雄一郎さん(38)=熊本市出身=は5年前を振り返る。 「チェコのラガービール『ピルスナーウルケル』を飲んだ瞬間、衝撃を受けた。ホップの苦みをしっかり感じて、モルトの甘みも十分。バランスが自分の好みにどんぴしゃだった。『ビールをつくりたい』という強い気持ちが湧いた」 ピルスナーウルケルは国内大手の主力スタイル「ピルスナー」の原型とされる、19世紀半ばにチェコで生まれたビール。現地から空輸し、生で飲ませる店は希少だった。 都内の大学で欧州の文学、哲学を学び、大手外食会社に
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BCビアトレーディング(静岡市駿河区)草場達也さん カナダと日本橋渡し【しずおかクラフトビール新世代⑮】
カナダのクラフトビール輸入業者の先駆けとして知られる草場達也さん(32)。2016年に東京で輸入販売会社BCビアトレーディングを起こし、20年11月に静岡市駿河区用宗に本社を移した。「静岡の人は、地元の醸造所にすごく愛着を持っている。全国的に見てもクラフトビールの消費が多い街。ここへ来るのは必然だった」 同市清水区でのビールイベント出展をきっかけに19年、葵区駿府町にクラフトビール専門の酒販店「ビア・アウル」を開店。あっという間に市内のビールファンに浸透した。自社倉庫を市内に整え、商材の到着先も東京港から清水港に切り替えた。本社移転は自然な成り行きだった。 留学先のカナダ東部の都市トロン
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ベアードブルーイング(伊豆市)大川英紀さん 日本酒業界から転身、醸造の楽しさを満喫【しずおかクラフトビール新世代⑭】
琉球大でコウモリの研究に没頭し、卒業後は関西の三つの酒蔵で日本酒づくりにいそしんだ大川英紀さん(38)は5年前の7月、狩野川沿いにあるベアードブルーイング(伊豆市)の門をたたいた。見知らぬ土地。知り合いはいない。ビールづくりへの情熱だけを携えてやってきた。 同社のオーナー、ブライアン・ベアードさん(54)=米国出身=は、沼津市で2001年に自家製ビールの提供を始め、同社を国内屈指のクラフトビールメーカーに押し上げた立志伝中の人。大川さんは「ビールを好きでたまらない人が、会社までつくってしまった。ビール、酒が心底好きな人が集まる場所で働けると思った」と語る。 転身前は京都市の老舗、玉乃光酒
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ウエストコーストブルーイング(静岡市駿河区)小島直哉さん カナダでの宣言胸に “二足のわらじ”実現【しずおかクラフトビール新世代⑬】
飲食店経営者と醸造所の社員。小島直哉さん(33)は“二足のわらじ”でクラフトビールの世界を歩く。静岡市内の専門店「クラフトビアステーション」「cove」を運営する一方で、2020年3月、同市駿河区の醸造所「ウエストコーストブルーイング(WCB)」に入社した。 「約10年前から自分で醸造することを考えていた。日本トップクラスの醸造所でそれを学べるのは幸運」。タンクの洗い方、ホース類の殺菌方法、酵母の扱い方-。「手を動かさないと作業の意味が理解できない。全てが将来の役に立つ」 出発点はカナダだった。大学院を出て就職を決めた自動車部品メーカーには、内定者の海外研修制度が
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古関裕而 幻の楽曲「静岡ファンタジー」どこに…【NEXT特捜隊】
作曲家古関裕而の幻の楽曲を探してくれないか-。2020年6月25日本紙夕刊の見開き特集「古関裕而楽曲 静岡県内にも」を見た古関の研究者から、紙面を作った静岡新聞社文化生活部に、依頼が届いた。曲名は「静岡ファンタジー」。研究者は楽曲を聴いたことがなく、古関の故郷にある福島市古関裕而記念館やレコード会社にも音源がないという。曲名を手掛かりに取材を進めると、思わぬ発見があった。 >>「静岡ファンタジー」 依頼者は日本大商学部の刑部[おさかべ]芳則准教授。古関研究の権威として知られ、古関をモデルにした20年放送のNHK連続テレビ小説「エール」の風俗考証も担当した。 古関は生涯で約5000曲
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ガルシアブリューイング(静岡市清水区)フレディ・ガルシアさん 夢の場所まで10年超 ペルー雑穀で独自色【しずおかクラフトビール新世代⑫】
醸造機器は少しずつ買った。時には自分でつくった。ガルシアブリューイング(静岡市清水区)の工場は、長い時間をかけて整えられている。ペルー出身の醸造責任者フレディ・ガルシアさん(44)は「夢が実現するまで10年以上。でも、疑いはなかった。いつかかなうと信じていた」と振り返る。 一番古い240リットルのタンクは2013年に購入。もちろん、それだけでビールはつくれない。自動車工場、水産会社、大工-。仕事から得た給料を積み立て、一定の額がたまるごとに一つ一つ機器を購入した。「外国人だから金融機関の融資は望めない。最初は全部自己資金」。2019年に醸造免許を取得し、工場を稼働させるまでは、臥薪嘗胆[が
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宇佐美麦酒製造(伊東)小川大河さん 消費者の好みを熟知 売り手から醸造側へ【しずおかクラフトビール新世代⑪】
クラフトビールを売る側からつくる側へ-。宇佐美麦酒製造(伊東市)の小川大河さん(34)は、営業専従から醸造スタッフに転身した、県内ビール業界では数少ない人物だ。 2008年に「風の谷のビール」で知られる酪農王国(函南町)に入社。クラフトビール専門の営業マンとして、市場が拡大する様子を、販売の最前線で体感した。 県内外の酒販店や飲食店を巡り、時には飛び込み営業をかけて販路拡大を図った。小売店用の販促グッズを自作し、売り場の棚から付加価値の高さを訴えた。「消費者の手元に鮮度を落とさずに届ける。工場を出たところから店頭で買ってもらうまでが責任領域だと認識していた」。国内各所で行われる「ビアフェ
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酪農王国オラッチェ(函南町)木村岳司さん ドイツで醸造を習得 「職人」の気構え実践【しずおかクラフトビール新世代⑩】
ビールの本場ドイツのベルリン工科大で醸造を学び、公的資格「ブラウマイスター」を取得した酪農王国オラッチェ(函南町)のビール工房工場長木村岳司さん(45)は、「職人」という言葉に特別な思いを込める。「顧客の好み、与えられた条件に従ってベストの仕事をするのが職人。そのためにはビールづくりの全てを知っておかないと」 自分のつくりたいビールを追求するのも醸造家の在り方として認める。一方で、ドイツの伝統的なものづくりの考え方に共鳴する。「販路や会社の方針などに対して柔軟でありたい。ドイツで、そういう人間として育てられたから」 国内の大学では法律を学んだ。在学中にドイツ人留学
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フジヤマハンターズビール(富士宮市)深沢道男さん 全ての原料を地元で 循環型ブルワリーへ【しずおかクラフトビール新世代⑨】
地域の産物でビールをつくり、地域で消費する。2018年に開業したフジヤマハンターズビール(富士宮市)の醸造責任者深沢道男さん(48)の考えは、まさしく「循環型ブルワリー」と言うべきものだ。「原料の100%自給を達成するには、まだまだ超えなくてはいけないハードルがある。でも、少しずつ実現しているのも事実」と自負を示す。猟師、農業従事者を兼ねる、全国でも珍しい醸造家だ。 「教科書通りのビールばかりじゃつまらない。つくりたいのは、例えるなら農産品直売所に置かれたゴツゴツのコンニャク。形は整っていないが、原料の良さが全て引き出されている」 芝川を見下ろす小さな醸造所の構想
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柿田川ブリューイング(沼津市)片岡哲也さん 英国パブ文化に憧れ 飲み手の人生を彩る【しずおかクラフトビール新世代⑧】
17年前に英国で出合ったパブ文化、ビール文化の美点を日本にも広めたい-。柿田川ブリューイング(沼津市)のエンブレムに刻まれた「SLOW BEER SLOW LIFE」のスローガンには、社長片岡哲也さん(36)=秋田市出身=の願いが込められている。「ビールはコミュニケーションを豊かにするツール。英国のパブに通って、それを学んだ。おいしいビールを通じて、飲み手の人生を豊かに彩りたい」 語学留学で住んだブライトンは、ロンドンの南に位置する港町。現地に着いてすぐ、ホームステイ先の近所のパブに一人で行った。住宅街の真ん中にある約20席の小さな店は、近隣住民と常連ばかり。だが片言の英語でラ
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時之栖富士(富士市)冨川宏一さん 醸造20年新たな挑戦 知見をレシピに凝縮【しずおかクラフトビール新世代⑦】
傘下に御殿場高原ビールや伊豆の国ビールを持つ時之栖(御殿場市)が、富士市の常葉大富士跡地に開業した複合型スポーツ施設内で醸造する「富嶽麦酒」。今夏完成した新ビールブランドは、工場長の冨川宏一さん(43)=御殿場市=が、約20年の醸造経験と欧州各国を訪問して得たビールの知見をレシピに凝縮した。 「1月に缶のデザインが決まり、キャッチコピーの『濃くて苦い』が刷り込まれていた。苦みを生かしたIPL(インディアペールラガー)というスタイルは決めていたが、缶に合わせる形でレシピを最終調整した」 新工場はビールだけでなく、ウイスキーやハイボールも製造する。冨川さんにとっては、
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アオイビール(静岡市葵区)宮脇浩樹さん 鉄道マンから醸造士 「個の評価」求め転身【しずおかクラフトビール新世代⑥】
県中部初のクラフトビール醸造所、アオイビール(静岡市葵区)の醸造士宮脇浩樹さん(25)=沼津市出身=は、かつてJR東海道線や御殿場線で車掌を務めていた。社内研修を経て「運転士」に進むレールが敷かれていたが、「醸造士」への道を選んだ。「好きなことをやっていく。生活するためのお金はどうにでもなる」 従業員1万8千人超のJR東海を20代半ばで退職してビールを造る。約2年前にそう決めた。周囲は止めたが「何を言われてもぶれなかった。自分がつくったものへの評価を、顧客からダイレクトにもらう。そんな世界に身を投じたかった」。 クラフトビールとの出合いが、胸の奥底に眠った感情を呼
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リパブリュー(沼津市)畑翔麻さん 多様なレシピを公開 市場拡大図る起業家【しずおかクラフトビール新世代⑤】
25歳で合同会社を設立し、JR沼津駅前に醸造所兼パブを開いたリパブリュー(沼津市)の畑翔麻さん(29)は、醸造家としてだけでなく起業家としても注目を集める。技術や成功事例を同業者と「シェア(共有)」し、クラフトビール市場全体の拡大を図る。 約240平方メートルの店には20本のタップ(ビールサーバーの注ぎ口)がある。最大で生ビール20種を提供可能だが、約1年前から全て自社銘柄とした。醸造所の発酵タンク約10本をフル回転させて多種多様なスタイルのビールを造り、来店客に出来たてを提供する。 「10年前に構想した姿」。16年にはクラフトビールの中心地の一つ、米国サンディエ
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池田屋麦酒(牧之原市)月居麻水さん 老舗継承の「最適解」 酒屋に小さな醸造所【しずおかクラフトビール新世代④】
県内では希少な女性のビール醸造家、月居麻水(つきおりまみ)さん(46)。2019年秋に池田屋麦酒(牧之原市)を設立し、20年5月から醸造を始めた。 実家の酒販店「池田屋酒店」の一角を区切った工場は約20平方メートル。容量300リットルの発酵タンク4基、煮沸釜など必要最小限の機器を置いたマイクロブルワリー(極小醸造所)だ。机や椅子も設置し、来店客が出来たてのビールが飲める仕組みも整えた。 月居さんは約150年前から続く同店の7代目。「高齢の両親の後を継いで、この店をどう維持していくか。その最適解がビール造りだった」と明かす。 少し前までは自分がビールを
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反射炉ビヤ(伊豆の国市)山田隼平さん ワイン製造技術応用 木のたるで発酵熟成【しずおかクラフトビール新世代③】
世界遺産構成資産の韮山反射炉の隣で醸造する反射炉ビヤ(伊豆の国市)。1994年の酒税法改正に端を発する第1次地ビールブームさなかの97年に開業した、県内有数の老舗ブルワリーだ。浮沈が激しいビール業界の中で生き残り、24年目の夏を迎えている。 醸造長の山田隼平さん(27)=東京都出身=は山梨大工学部の特別コースでワインを学んだ。酵母菌をはじめとした微生物の生態から、ブドウの栽培と収穫、仕込みの方法、味わいの表現まで、実地研修を交えてあらゆる知識と技術を習得した。 2015年、反射炉ビヤに入社。今度は一からビール造りを教え込まれた。工程の違いに改めて気付かされた。「ワ
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マウントフジブリューイング(富士宮市)会森隆介さん “背水”で技術習得 切れの良さを追求【しずおかクラフトビール新世代②】
加和太建設(三島市)のビール醸造部門として2019年3月に産声を上げたマウントフジブリューイング(富士宮市)。醸造責任者の会森隆介さん(42)が醸造を学び始めたのは開業の1年前だった。異例の短期間で醸造法を習得し、今春のビール審査会「ジャパン・グレートビア・アワーズ」(日本地ビール協会主催)で3部門入賞を果たすなど急成長を遂げている。“背水の陣”で身に付けた技術を礎に、新しいビール造りを見通す。 「ビールについては知識ゼロだった」と3年前を振り返る。県内外の飲食店でソムリエやホール担当を経験し、17年に加和太建設入社。函南町のすし店を任されていたが、18
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オクタゴンブリューイング(浜松市中区)千葉恭広さん 運命変えた一冊の本 醸造家志しドイツへ【しずおかクラフトビール新世代①】
小規模醸造所がつくるクラフトビールが人気を高めている。静岡県は20以上の醸造所がひしめく国内屈指のビール大国。近年醸造を始めたブリュワー(醸造家)を訪ね、それぞれの“ビール人生”をひもとく。 2018年1月に醸造を始めたオクタゴンブリューイング(浜松市中区)の醸造責任者千葉恭広さん(45)は、05年からドイツのミュンヘン工科大ビール醸造工学部で理論と実践を学んだ。 出発点は1990年代半ばに出合った一冊の本だった。英国人ビール評論家のマイケル・ジャクソンが著した「地ビールの世界」。ウィートエールやトラピスト系など、多種多様なベルギーのビール