詩人・水沢なおさん(長泉出身) 初の小説集「うみみたい」 言葉に導かれ 見つめる「生殖」

 中原中也賞詩人の水沢なおさん(長泉町出身)が、初の小説集「うみみたい」を発表した。雑誌「文芸」2022年冬季号掲載の表題作を含めた全4編は、生き物の「生殖」に対する崇敬、畏怖、葛藤がテーマ。デビュー時から研ぎ澄ませてきた代名詞的モチーフだ。

初の小説集「うみみたい」を発刊した水沢なおさん=3月下旬、都内
初の小説集「うみみたい」を発刊した水沢なおさん=3月下旬、都内

 表題作は美術大を卒業し、同居してそれぞれ創作に励む女性2人、「うみ」と「みみ」が主人公。昆虫や両生類の繁殖施設「孵化[ふか]コーポ」でアルバイトするうみは、生き物の増殖に美を感じるが、自分の恋愛には及び腰。「異性と性行為をすることでふえていく自分のことを思うと、目の前が真っ暗になる」。一方のみみは「ひとがひとをうむってことが、人間のすることのなかで一番、悲しいことだと思う」と全否定する。
 「産む」「生まれる」という極めて普遍的な現象に対する、20代女性の繊細かつパーソナルな感情が丁寧に描かれる。対話を通じて相手の考え方を推し測り、その差異を尊重し合う二人の関係が心地よい。
 第一詩集「美しいからだよ」(19年)、第二詩集「シー」(22年)とは異なるアプローチで生殖を取り上げた。水沢さんは「執着と言ってもいいと思う」と笑う。「人が産むこと、生まれることに対して不思議さ、時には恐ろしさを感じながら、強く引かれている。異なる感情が常にある」
 今作では生殖についての複雑な思いを、登場人物二人に幅広い視点で語らせている。「うみとみみは自分の分身のような存在。今、自分が持っている生殖への気持ち、モチーフを存分に詰め込んだ」
 小説執筆に当たり、人物造形の解像度を意識的に高めた。「詩の世界では読者にどういう人物、どういう存在かを委ねられるが、小説ではそこをはっきり書きたかった」
 タイトルが物語を導いた。「『うみみたい』の5文字がまず浮かんだ。『つかんだ』と思った」。これまでも詩集や詩のタイトルでダブル・ミーニングを多用してきただけに、大きな可能性を感じた。「大切にしている『海』と『産み』の両方が含まれる。うみとみみが出てくる話、というのもその時点で決まった」
 今後も詩と小説の境界線をまたぎながら創作を続ける。「1対1の関係性を描きたいという点は同じ。小説は小説、詩は詩の方法で表現を広げ、深めていきたい」

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