舞台と客席 “共振”の会話劇/劇作家・演出家 山田裕幸さん(藤枝市)【表現者たち】
「それでね、駅前の居酒屋に寄ったんですよ」。5月中旬、藤枝市の「白子ノ劇場」で上演された劇団「ユニークポイント」の「4fish」は、装飾が何もないせりふで始まった。テーブルを囲んで、高校教師が4人。それぞれが顧問を務める演劇部の作品について、生徒の感想を交えて議論する。
県大会の出場1校を決める話し合い。時間の経過に伴い変化する互いの同意、反目、共感、違和感がありありと浮かぶ。作・演出で同劇団を主宰する山田裕幸さん(51)=同市=の会話劇は、「揺れ動くその場の空気」を、正確に客席へ届ける。どう演出しているのか。
「会話のリズムが重要。テンポが悪いと思ったら、現場で一部のせりふをカットする。テキストが決まって俳優の体に言葉が落ちて行ったら、芝居の緊張感を強めたり弱めたり。そうやって全体の温度感、リズム感を整えていく」
日常生活から戯曲の題材をすくい上げる。「設定は決めるけれど、プロットはほとんど書かない。結末がどうなるか分からないまま、最初から順番に脚本を書いている」。頭の中で自分の舞台を設定し、それを書き取るイメージという。物語が大きく動いた時は、前に戻って修正する。
ユニークポイントは1999年に東京で活動開始。2004年、山田さんの「トリガー」がテアトロ新人戯曲賞を受け、認知度を高めた。韓国公演の実績もある。18年、山田さんの出身地の焼津市に近い藤枝市に「白子ノ劇場」を開き、以後の拠点としている。席数約40の小劇場。客席と舞台が互いに響き合う“共振”の実現を目指す。
「実は、せりふより、俳優の表情や体から出ている情報の方が圧倒的に多い。お客さんが能動的に舞台を見ているからこそ“共振”が起こる。その仕掛けや基になるものを作っている」
谷崎潤一郎の「刺青」を山田さんが構成・演出し、SPAC俳優たきいみきさんが演じる「たきいとやまだの会」を9~11日、静岡市葵区の国登録有形文化財「鈴木邸」で開催。ユニークポイントは「ひとようたかた」を7月15、16日、同区の劇場「人宿町やどりぎ座」で上演。