旧工場 飛び交う新思考 アートスペース「DHARMA沼津」

 旧印刷工場をアートスペースとして再生した沼津市市場町のDHARMA[ダルマ]沼津で、公募型作品展「市場町アートフェス2023」が開かれている。同所を拠点とするアーティスト集団「EN」のメンバーらが参加。自由な発想による約30点が、既成概念からの飛翔[ひしょう]を競う。

正方形の重箱を活用した井口貴夫さんの「水面」シリーズ=沼津市のDHARMA沼津
正方形の重箱を活用した井口貴夫さんの「水面」シリーズ=沼津市のDHARMA沼津
見る位置によって色合いが繊細に変化する都築透さんの「Sterilization」
見る位置によって色合いが繊細に変化する都築透さんの「Sterilization」
かつての印刷工場が創作の場として活用されているDHARMA沼津
かつての印刷工場が創作の場として活用されているDHARMA沼津
水槽の中を再現したすぎあこさんの「丹頂の舞」
水槽の中を再現したすぎあこさんの「丹頂の舞」
正方形の重箱を活用した井口貴夫さんの「水面」シリーズ=沼津市のDHARMA沼津
見る位置によって色合いが繊細に変化する都築透さんの「Sterilization」
かつての印刷工場が創作の場として活用されているDHARMA沼津
水槽の中を再現したすぎあこさんの「丹頂の舞」

 2階会場には井口貴夫さん(伊勢原市)の「水面[みなも]」シリーズ3点が並ぶ。赤や黄の鮮やかな、少しにじんだ背景と、黒やオレンジの舞うような曲線のコントラスト。絵の具をしたたらせるドリッピング技法に見えるが「ケチャップの容器に絵の具を入れてストロークした」という。小さな正方形に、ピントが定まらない世界と、輪郭がはっきりした線を同居させ、見る者を画面の奥へ奥へと引っ張り込む。
 都築透さん(沼津市)の「Sterilization」は唾液に含まれる菌の赤外線写真をアルミ板に転写した。顕微鏡で微生物を観察しているようにも、大型望遠鏡で大宇宙の星雲を眺めているようにも感じる。「定まった解釈を遠ざけたい」。何を見ているのか。何を見せられているのか。知らず知らず思考が総動員される深遠な作品だ。
 すぎあこさん(同)の油彩画「丹頂の舞」は、6号キャンバスのフレームに赤い帽子をかぶったような形の金魚が身を寄せ合う。自然光を受けた銀色の体表に、生命の力をみなぎらせた鮮烈な赤が映える。「ありのままを尊重して存在することの素晴らしさ」が主題という。
 市場町アートフェスは23日までの土日曜開催。問い合わせはENメンバーの佐藤智明さんのEメール(hoop310@gmail.com)へ。22日午前11時半、午後5時15分からメンバーのダンサー松島誠さんと米ギタリスト、マイク・ノードさんのパフォーマンスがある。

制作と批評の空間
 DHARMA沼津は市内の印刷会社「耕文社」が1989年まで本社工場として使っていた築50年超の建物で、鉄骨造り3階建て、延べ床面積708平方メートル。2003年以後は倉庫として使われていた。
 18年から同社の同意の下、ENのメンバー約10人が制作や展示の拠点としている。アートフェスの期間中は、3階スペースで井口さんらの制作風景をのぞける。
 長橋秀樹代表は「制作を柱にした思考空間」と表現する。アーティストが互いの批評も行う研さんの場として機能させたいという。

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