時論(12月6日)生徒が開く新しい読書の扉 文化生活部長兼論説委員/橋爪充

 静岡県内の書店員と図書館員約600人が選ぶ静岡書店大賞が、今日発表される。今年で10回目。昨年の小説部門で大賞に輝いた一穂ミチさん著「スモールワールズ」はその後、本屋大賞の候補にも名を連ねた。潮流を的確に見定めた選考に、全国から注目が集まる。
 本との出合いは「誰が薦めているか」が重要だ。個人的な感覚だが、通販サイトの「おすすめ」をそのまま買う気にはならない。耳を傾けるのは信頼できる友人、愛読している書評サイトや書評家、なじみの書店主あたりか。読書は新しい世界を開くと言われるが、ならばこそ扉の番人はよくよく吟味したい。
 掛川市で先日開かれた「高校生が選ぶ掛川文学賞」は、工夫が凝らされていた。市民が選んだ小説5作品から、市内4校の生徒12人が「同世代に薦めたい」という観点で1冊を選んだ。安易に多数決で決めず、最後の最後まで意見をぶつけ合って結論を出したところに価値がある。
 「普段は本を読まない人も読みやすい」「かわいい表紙から想像もつかない内容。僕らが薦めれば興味を持ってもらえる」。高校生ならではの視点は揺るぎなかった。選出されたのは村上雅郁さん著「りぼんちゃん」。児童虐待を小学生の目線で描いたヒューマンドラマだ。
 振り返れば、2012年の第1回静岡書店大賞を受けた中脇初枝さん著「きみはいい子」も、子に手を上げる親を扱っている。世相を映すのは文学賞の常だが、10年前の書店員と現在の高校生が同じテーマに感応したことに驚きを禁じ得ない。問題の根深さを浮き彫りにしたという点でも、掛川文学賞の選考結果は意味がある。

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