青春のかけら きらり輝く 宮島未奈さん(富士出身)デビュー 「成瀬は天下を取りにいく」発刊

 富士市出身の作家宮島未奈さんがデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)を発刊した。過去に窪美澄さん、町田そのこさんらを輩出した同社主催「女による女のためのR-18文学賞」で大賞ほか全3冠を得た「ありがとう西武大津店」など6編からなる短編集。奇想天外な発案と揺るぎない行動力で周囲をあぜんとさせる女の子、成瀬あかりを中心に据えた連作は、地方都市の何げない日常にきらりと輝く「青春のかけら」を巧みにすくい上げる。

「1作1作短編を書いて、出来が良かったものを6作入れた」と話す宮島未奈さん。続編も予定されている(c)新潮社
「1作1作短編を書いて、出来が良かったものを6作入れた」と話す宮島未奈さん。続編も予定されている(c)新潮社

 「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。受賞作は「閉店が決まった百貨店に夏休みの間、毎日通う」という中学生成瀬の奇矯な宣言で始まる。幼稚園時代から運動、勉学、芸術に秀でながら、他人を寄せ付けない行動とマイペースな言動で周囲からの孤立を深める成瀬。同じマンションに住む幼なじみで自称“凡人”の島崎みゆきがほぼ唯一の友人だ。
 「1人は変わった子、もう1人は普通の子という設定だけがあった。成瀬がこんなことを言ったら楽しいんじゃないかと考えながら書いたらこうなった」
 女性2人の絆が強調される昨今はやりの「シスターフッドもの」とは異なる、ドライな関係性が新鮮だ。
 「べたべたし過ぎないよう、意識して書いた。2人で漫才コンビを結成したりはするけれど、違う方向を向いている。目標も同じではない。成瀬はやりたいことをやっているだけだし、島崎はそれについていくだけ」
 作者は2人の意志をあえてはっきり描写しないが、読者には高め合う関係の尊さ、理解者が存在することの大切さが明瞭に伝わる。「(物事が)思い通りにいかないのが青春だと思う。コロナ禍でそれがさらに増えている。『不自由の中で何をするか』がこの作品の肝なのかもしれない」
 富士市で生まれ育ち、京都大文学部を出た。小学生で創作を始め、高校時代は小説を書いて、仲間と文集をまとめたりもしていた。ただ、当時は小説家は漠然とした夢だったという。「成瀬-」の高評価は予想外だった。「戸惑いが大きい。だが、やっとスタートラインに立ったという気持ち」
 (教育文化部・橋爪充)

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