一騎醸造(三島市)阿久沢健志さん 麹への興味「扉」開く ソロ活動で探究の旅【しずおかクラフトビール新世代⑱】

 醸造家としてのブランドネーム「一騎[いっき]醸造」を掲げ、さまざまな醸造所でビールをつくる阿久沢健志さん(34)=三島市=。その姿は「漂泊の醸造家」とも「ソロ・ブルワー」とも称される。

麦汁を攪拌する阿久沢健志さん=11月上旬、沼津市の柿田川ブリューイング
麦汁を攪拌する阿久沢健志さん=11月上旬、沼津市の柿田川ブリューイング
「IKKIヘレス」(左)と「ノーブルホップピルスナー」
「IKKIヘレス」(左)と「ノーブルホップピルスナー」
麦汁を攪拌する阿久沢健志さん=11月上旬、沼津市の柿田川ブリューイング
「IKKIヘレス」(左)と「ノーブルホップピルスナー」

 比類なきスタイルの原点には麹[こうじ]への強い興味があった。2012年に反射炉ビヤ(伊豆の国市)に入社し醸造を担当していたが、周辺に広がる水田からインスピレーションを得た。「日本の食文化にはみそ、しょうゆなど発酵食品が欠かせない。原料となる米や麦の麹をビールに使えないか」
 天ぷらやオムライスなど、換骨奪胎も日本の食文化の美点。ビールにもその伝統を取り入れたい。麹は新しい扉を開く鍵になる-。そんな発想だった。
 17年末、反射炉ビヤを退職しソロ活動開始。リパブリュー(沼津市)を皮切りに、県内外の醸造所で麹を使うビールをつくり始めた。「最初の黒麹ビールは、自作の麹10キロ超にセゾン酵母を合わせた。酸味と爽やかさが一体になって、特徴のあるビールができた」
 19年、柿田川ブリューイング(同市)の醸造を担うように。挑戦を恐れないユニークな醸造家として全国に名を知られるようになり、20年には群馬県桐生市のファークライ・ブルーイングから醸造所の立ち上げを依頼された。現在は週の半分を沼津、もう半分を桐生で過ごす。
 麹ビールの実験は、ファークライで結実させている。21年1月から本格的に醸造が始まった。レシピは全て阿久沢さんが考えた。「定番3種に麹が入っている。白麹のヴァイツェン、アルコール度8%の白麹ストロングサワーエールが好評」
 米国のクラフトビールメーカー「アンカー・ブリューイング」の経営者だったフリッツ・メイタックさん(83)に傾倒する。「小さい会社だからこそ、大手メーカーにできない独創性を発揮していた。小さいことは良いことと教わった」。ソロ活動を実行したのも、メイタックさんの影響が大きい。
 「ものづくりを通じて人とつながれる。文化や歴史と、目の前の農産物をつなげることもできる。それがビール醸造の楽しさ」。二足のわらじを履き、ビールの可能性追求の旅が続く。
 
 ■IKKIヘレス
 ■ノーブルホップピルスナー

 一騎醸造名義で今夏発表した「IKKIヘレス」はラガー酵母を使い、ドイツの伝統的なスタイルを踏襲。アルコール度5%で苦みが少なく、口当たりも柔らかい。泡持ちが良く飲み疲れしない設計で、何杯もお代わりできる。
 柿田川ブリューイング「沼津クラフト」の「ノーブルホップピルスナー」は、爽やかで膨らみのある味わいが特徴。本来は香り付けに使用するアロマホップを、苦み付けにもふんだんに使っている。酵母のキャラクターも際立つ。

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