鈴木慶則さん 画業巡り座談会 トロンプ・ルイユ→水絵 転換の背景は? 清水・フェルケール博物館

 静岡市清水区のフェルケール博物館で、同区を拠点にした美術家鈴木慶則さん(1936~2010年)の作品を有識者4人が論じる座談会が開かれた。12日まで同館で開催中の企画展「水の絵 『幻触』と『幻触』以降の鈴木慶則」の関連企画。

鈴木慶則さんの画業を語り合った座談会=静岡市清水区のフェルケール博物館
鈴木慶則さんの画業を語り合った座談会=静岡市清水区のフェルケール博物館

 1960年代、当時清水に住んでいた美術評論家石子順造さんを中心に結成された美術家グループ「幻触」に参加した鈴木さんは「トロンプ・ルイユ」(実物と見間違うほどの徹底的な写実的描写、だまし絵)の手法による作品を次々発表していた。座談会は、この時期から、水を用いて水を描く「水絵」シリーズを描き始めた70年代後半までの状況に焦点を当てた。
 県立美術館の川谷承子上席学芸員は西洋画を一部模した鈴木さんの代表作「非在のタブロー 梱包されたオダリスク」(66年、同館蔵)などの創作意図を解説し「技巧が際立つ一方で、絵画というものを皮肉ったり客体化したりしている」とした。60年代後半から自然物を作品として提示していた美術グループ「もの派」の中心人物李禹煥さんが72年頃から絵画を制作し始めたことに着目。「少なからず慶則さんに考えるきっかけを与えただろう」と推論した。
 美術評論家の本阿弥清さんは、晩年の石子さんがフィールドワークを行った球体状の天然石に神が宿ると考えた民間信仰に言及した。「石子さんは、大地から掘り起こされた『いいかたち』にほれ込んだ。鈴木さんも影響を受けてのめり込んだ。そのことで、トロンプ・ルイユが抽象になり、最終的に(水絵の初期段階の)あぶり出しにつながっていく」と指摘した。
 「慶則さんは美的感性を追い求めた画家だった。ただ、『幻触』時代の評価が先行していて、圧倒的に長い『水絵』時代の評価が進んでいない」としたのは常葉大教育学部の堀切正人教授。「だまし絵的なものを全部見切って『転向』したのか、継続的な動きなのか。両面から考える必要があるだろう」と問題提起した。
 展覧会の監修者で美術家の白井嘉尚静岡大名誉教授は「トロンプ・ルイユの作品が、絵画という制度を疑うことから出発したとするなら、『水絵』も絵画という仕組みを相当解体している。表面上のつながりはないように見えるが、姿勢はつながっているように思える」と応答した。
 (教育文化部・橋爪充)

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