喉歌ホーメイ♪ 熱海で共鳴 ロシア・トゥバから4人組来日

 ロシア連邦トゥバ共和国で1996年に結成された、伝統の喉歌「ホーメイ」を駆使した音楽を奏でる4人組「チルギルチン」が初来日を果たし、静岡、熱海の両市を含む全国8公演を行った。リーダーのコシュケンデイ・イーガリさん(44)は「伝統や文化の違いを乗り越えて日本人と共鳴できた」と話した。

「ホーメイ」を取り込んだ楽曲を披露するコシュケンデイ・イーガリさん(右から2人目)率いるチルギルチン=15日、熱海市の起雲閣
「ホーメイ」を取り込んだ楽曲を披露するコシュケンデイ・イーガリさん(右から2人目)率いるチルギルチン=15日、熱海市の起雲閣
トゥバ共和国
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「ホーメイ」を取り込んだ楽曲を披露するコシュケンデイ・イーガリさん(右から2人目)率いるチルギルチン=15日、熱海市の起雲閣
トゥバ共和国

 来日ツアーは、自らもホーメイの使い手として知られる日本トゥバホーメイ協会会長でバンド「ヒカシュー」のリーダー巻上公一さん(66)=熱海市=の招きで実現した。
 チルギルチンは、欧米のツアーも多数行う、トゥバを代表する楽団。ロシアによるウクライナ侵攻後の航空路線の混乱を受け、来日は困難を極めた。メンバーはモスクワ経由の来日を避け、モンゴル・ウランバートルの空港を使った。トゥバの首都クズルからウランバートルまでは陸路で移動したという。出発から来日までに5日間かかった。
 コンサートでは、2弦の擦弦楽器「イギル」やギターに似た形状の弦楽器「ドシュプルール」、口琴などの民族楽器を演奏しながら牧畜にまつわる歌や自然賛歌を披露した。曲の中で、鳥のさえずりのような「スグット」、低音を響かせる「カルグラー」をはじめ、美しい倍音を出す多彩なホーメイを聴かせた。
 「動物の鳴き声や自然の音を、人の心をのせて表現するのがホーメイ」とイーガリさん。10歳からホーメイに親しみ、現在は国が認めた「トゥバ共和国人民ホーメイ歌手」の称号を持つ。
 ホーメイは民謡として口承されるだけでなく、チルギルチンのように現代の音楽グループにも取り入れられている。教え手は、かつては国内各地に点在していたが、現在はクズルに集中している。
 「個人的な感触では、約30万人の国民の15%ほどがホーメイに親しんでいる」。ほとんどが男性だが、近年は女性歌手もいる。「自然の力を借りて歌うため、歌い過ぎると(自然の主に)連れて行かれてしまうとされてきた。出産があり得る女性の健康に差し障ると考えられていたようだ」
 喉歌はトゥバの隣国アルタイ共和国では「カイ」、モンゴルでは「ホーミー」と呼ばれ、古くから中央アジア地域に存在するが、最も進んだ形態はトゥバから生まれているという。
 「唱法は『基本のホーメイ』、スグット、カルグラーの三つが基礎にあり、そこから歌い手の状況や環境に応じて枝分かれしていく。例えば『草原のカルグラー』『山のカルグラー』といった具合に」
 イーガリさんには伝統文化の継承を担う国立文化センター長という肩書もある。「口承の昔話やことわざ、伝統的な儀式が正しく受け継がれていくための活動をしている。近代化に伴って地域や民族の文化が忘れられてしまうのを防ぎたい」

 トゥバ共和国 ロシア連邦に属する22共和国の一つ。モンゴルの北西に位置し、面積は日本の約半分。3千メートル級の山岳地帯、砂漠地帯、森林など変化に富んだ自然が特徴で、遊牧と放牧が共存している。全人口に占めるトゥバ人の割合は約8割で、公用語はロシア語とトゥバ語。

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