針金に血が通い“生”が宿る ワイヤーアーティスト・法月健一さん(静岡市葵区) 【表現者たち】
針金に命を吹き込む。簡略化された線の集合から表情が生まれる。ワイヤーアーティスト法月健一さん(38)=静岡市葵区=の、動物や人物をモチーフにした立体作品は、無機的な素材を「生々しさ」に変換する。その過程、落差がスリリングだ。
ペンチを用いるが、多くの部分は素手で仕上げる。「触りながら作るので、血が通いやすい。体温を伝えやすい」。作業のありようは、手を使って土をこね、繊細に成形して、茶人の手になじむわんをこしらえる陶芸家に近い。作り手の“手の跡”が感じられる。
針金との付き合いは13年目という。グラフィックデザインを志していた専門学校時代、仲間6人と東京ビッグサイト(江東区)で開かれた大規模アートイベント「デザイン・フェスタ」にブース出展。共通テーマを「蜂」とし、作品を持ち寄った。
「自分の作品を生み出したのは初めてだった。素材に針金を選んだのは軽い気持ち。ただ、これなら独自の表現ができるという強い確信はあった」
出品作は片手に乗るサイズのハチ。この小品が、その後10年以上に及ぶ創作を決定づけた。「とにかく制作過程が楽しかった。無機質な針金が人の手によって体温を帯びていく」
針金を三つ編みにして動物の肌を表現したり、線の密度を変化させて顔の陰影をつくったり。「手本」がないまま、技法やスタイルの開発を重ねた。2017年には米ニューヨークのギャラリーで個展を開いた。
今月1日に静岡市清水区のフェルケール博物館で始まった個展は、アーティストとしての分岐点と自覚する。葵区で工房を運営しているが、一般の注文作品を、昨年秋から一時休止している。「そもそも自分は何を表現したいのか。それを突き詰めた表現に集中したい。自問自答を作品化するべき時期だと思っている」
(教育文化部・橋爪充)
法月健一展「変遷」は3月31日まで。