袋井「樂土舎」25年 アート拠点、創設からの歩み出版物に

 1996年に袋井市の豊沢地区でスタートした「樂土[らくど]の森アートプロジェクト」を主宰するマツダ・イチロウさん(65)が、25周年を記念した出版物「ドキュメント樂土舎1996-2021 樂土の森アートプロジェクトの25年」を発刊する。「樂土舎」と名付けたアート拠点に、音楽、美術、ダンスなど表現の壁を超えてアーティストが集うようになった経緯を、写真や年表、関係者の寄稿などで紹介した。記念誌を手にしたマツダさんが、創設からの歩みを振り返った。

山下洋輔さんのソロライブを契機に作られた「地下の舞台」=2009年9月、袋井市の樂土舎
山下洋輔さんのソロライブを契機に作られた「地下の舞台」=2009年9月、袋井市の樂土舎
「樂土舎は、既存施設の活用ではなく、何もないところから始まった」と話すマツダ・イチロウさん
「樂土舎は、既存施設の活用ではなく、何もないところから始まった」と話すマツダ・イチロウさん
山下洋輔さんのソロライブを契機に作られた「地下の舞台」=2009年9月、袋井市の樂土舎
「樂土舎は、既存施設の活用ではなく、何もないところから始まった」と話すマツダ・イチロウさん

 ドラム缶によるまき窯の設置が樂土舎の出発点。当時のマツダさんの胸の内には、1995年の阪神淡路大震災で壊滅的な損害を被った神戸の街並みと、春埜山大光寺(浜松市天竜区)にある樹齢1300年とされる杉の大木の姿があったという。
 「人間の英知を集約した構造物のもろさを痛感する一方で、大地に根差して千年以上生きながらえている巨樹の力強さを目の当たりにした。改めて自然への畏敬の念が湧き、土をベースにしてさまざまな人が関わる施設を構想した」
 知人の陶芸家らと作陶を繰り返す中で、多目的スペースを自分たちで建て、音楽の演奏会を開くようになった。2000年代以降は、舞踊家田中泯さんが演じる場所として石舞台、ジャズピアニスト山下洋輔さんの演奏会場として半円形の野外ステージをそれぞれ建設。美術家の作品を展示するギャラリーも順次出来上がった。
 「(さまざまな施設は)明確に未来図を描いていたというより、その都度即興的に作っていった。樂土舎は僕の『作品』かもしれない。でも、敷地をキャンバスに例えるなら、多くの作家がそこに独自の色を塗り込んでいる。僕個人の枠からはみ出している。だから面白い」
 アートスペースとしての樂土舎は、時間の経過とともに姿を変えている。だが、根本にあるオリジナルの表現を希求する意志は変わらない。公演を希望するアーティストには「ここでしか表現できないもの」があるかを問う。
 「貸し会場ではない。演者、運営側、聴衆が共感し合わなければここでやる意味がない。一緒に作り上げる感覚があるかどうか」
 四半世紀の着実な運営で、音楽やパフォーミングアーツの演じ手のみならず、県内のアート関係者の信頼も得た。今後もあえて目標を掲げず、即興性を重視した活動を目指す。
 「記憶の痕跡を積み重ねるのが、われわれのプロジェクトの本質。一つ一つの痕跡に力があれば、後世の人々の中に残る。壊れないものをいかに作るかがテーマ」

 ■11日に記念イベント
 樂土舎は25周年記念誌の発刊当日の11日午後6時から、カイ・ペティートさん(ギター、ボイスほか)、アール・スペンサーさん(打楽器ほか)のライブイベントを行う。同エリアのドキュメンタリーも上映する。入場予約はキャンセル待ち。問い合わせは「出版記念の集い事務局」にEメール(rakudonomori16@gmail.com)で。表題に「出版の集い」と記す。
 24日には田中泯さんのダンス公演、10月15~22日は松浦延年さんの個展を実施する。10月28日~11月13日は「樂土の森現代美術展2022」と題した美術展も開催。参加作家は小林由季さん、長橋秀樹さん、奈木和彦さんら。問い合わせは樂土舎にEメール(rakudonomori16@gmail.com)で。

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