里山、海岸… 土地の記憶とともに 奥能登国際芸術祭 石川・珠洲
石川県珠洲市で11月12日まで、国内外50組超のアーティストが集う広域フェスティバル「奥能登国際芸術祭2023」が開かれている。能登半島の変化に富んだ景観や古くから受け継がれてきた生活・文化を下敷きにした作品を鑑賞するため、海岸線や里山の集落を巡った。
芸術祭は2017年に初開催。トリエンナーレ(3年に1回)方式を想定していたが、20年は新型コロナ禍で1年延期した。ことしの第3回も、5月5日に起こった震度6強の地震が開催を危うくした。「人口約1万3千人の半数以上が高齢者。復興優先との声もあった」と事務局の水上昌子次長は振り返る。
開催の決め手は、過去の実績だった。17年の第1回は7万1千人、21年の第2回は4万9千人が訪れた芸術祭を震災後の市の経済活性化、コミュニティーの復元に役立てようという意見が勝った。
市内には鉄道がないため、点在する作品の鑑賞は車での移動が前提。展示場所の近隣に車を誘導するパネルが置かれ、各作品にストレスなくたどり着くための工夫が凝らされている。
作品の設置場所には土地の記憶が深く根を下ろす。塩田が続く国道249号沿い、蚕の飼育棟、天井の高い木造家屋、かつての小学校や幼稚園―。作品のほとんどは同市の産業、文化、伝統との関わりが強調される。地元住民との協働で完成させた作品もある。
過去2回の開催は住民の意識にも変化をもたらしている。ドイツ在住の塩田千春さんによる「時を運ぶ船」を展示する旧清水保育所では、地元の老人クラブのメンバーが案内役を務める。南昭義会長(82)は「関東や関西から大勢のお客さんが来てくださる」と顔をほころばせる。「作品は自分の孫のようなもの。誇りに思う」と胸を張った。
総合ディレクターの北川フラムさんは芸術祭の未来について「面白がって来る人、移住する人が少しずつ増えている。20年以上かかるかもしれないが、何かが生まれる契機になってほしい」と願いを込めた。
(教育文化部・橋爪充)