「草に憩う女」大正初期/竹久夢二作 静岡市美術館【美と快と-収蔵品物語㊻】

「草に憩う女」 大正初期 竹久夢二作 88・7×32・5センチ
「草に憩う女」 大正初期 竹久夢二作 88・7×32・5センチ
「鴨東夜花」 大正9年頃 竹久夢二作 27・2×24・1センチ
「鴨東夜花」 大正9年頃 竹久夢二作 27・2×24・1センチ
静岡市美術館
静岡市美術館
「草に憩う女」 大正初期 竹久夢二作 88・7×32・5センチ
「鴨東夜花」 大正9年頃 竹久夢二作 27・2×24・1センチ
静岡市美術館

 明治時代末期から大正時代にかけて、新感覚の女性像を描き続けた画家竹久夢二(1884~1934年)。旧蒲原町(現静岡市清水区)で生まれ育った郷土史家志田喜代江さん(1924~2017年)は叙情的な夢二の作品を熱烈に愛し、肉筆画をはじめ約300点を集めた。全国でも珍しい女性コレクターによる夢二の作品群は今、静岡市美術館が収蔵する。小さな町でこつこつと築かれたコレクションは、彼の画業のありようを明解に伝えている。

 「夢二式」女性像凝縮
 赤の着物に身を包んだ女性が穏やかにほほ笑む。草地の斜面に腰かけているのだろうか。黒い瞳と長いまつげが愛らしさを振りまく。純白の顔に比して手足は幾分大きいようにも見える。志田コレクションの代表作とされる肉筆画「草に憩う女」は、「夢二式」と称された女性像の特徴がよく表れている。
 喜代江さんが夢二作品に初めて接したのは1935年。12歳で詩歌集「青い小径」を手にした。父親から「母の遺品」として渡されたという。30歳頃から本格的に収集を開始。肉筆画、日記帳、楽譜、封筒、カードなど幅広く収めた。広範な内容が評価され、70年代以降は美術館や百貨店で開催される展覧会への出品が相次いだ。
 作品について喜代江さんは、83年に佐野美術館(三島市)で行われた「竹久夢二展」の図録にこう記す。「真実美しいものを追い求めた夢二の絵や詩文には深い感情が秘められていて、心に染みる感動を覚えます」
 喜代江さんの弟正雄さん(2019年死去)の妻・真子さん(85)によると、作品は畳一つ分ほどもある木箱に収められていた。だが、70歳を過ぎた頃から管理がままならなくなった。
 貴重な収集品は1990年代後半に当時の蒲原町が買い取った。真子さんは「町が美術館を造る計画もあった」と話す。市町合併を経て2006年に所蔵先が静岡市に移った。
 静岡市美術館の山本香瑞子学芸課長は、喜代江さんの収集家としての熱意をくみ取る。「夢二の画業がちゃんと分かるコレクションになっている。全体像が理解できるように考えたのではないか」

 細部の描写力向上 「鴨東夜花」 大正9年頃 竹久夢二作
 京都・祇園の舞妓[まいこ]を描いた肉筆画。1916年から約2年京都に住んだ夢二にとって、舞妓は身近なモチーフだった。懐古趣味と現実世界が入り交じった、いわばファンタジーとも言える「草に憩う女」に比べ、細部のリアリティーが向上している。静岡市美術館の山本学芸課長は「きちんと結い上がった髪や着物の描写に、実在のモデルを写生した経験が生きている」と話す。
 黒地に竹の帯が画面全体を引き締め、着物の紅葉があでやかさを演出している。山本学芸課長は着物の所々に散らした緑のらせん形に注目する。「抽象度を高め、モダンな印象を強めている。画家としての成長が感じ取れる」

 静岡市美術館
 静岡市葵区紺屋町17の1、葵タワー3階。2010年5月、JR静岡駅北口にオープンした複合ビル内で開館。美術、デザイン、工芸など幅広いジャンルの展覧会を開催する。エントランスホールやワークショップ室などの交流ゾーンでは、講演会やワークショップ、コンサート、映画上映なども活発に行う。掲載した2作品は22年12月4日まで多目的室で開催中の「特集展示 竹久夢二展」(観覧無料)に出品されている。
 

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