富士山御殿場口 登山道140周年 歴史に思いはせる写真展

 御殿場市の御殿場口新5合目が現在の起点となっている「御殿場口登山道」は今年、開設140周年。山小屋関係者らは開削の中心人物である伴野佐吉(1839~1905年)や登山道の歴史に思いをはせる。

マウントフジトレイルステーションが開催する登山道140周年記念写真展=御殿場市の御殿場口新5合目
マウントフジトレイルステーションが開催する登山道140周年記念写真展=御殿場市の御殿場口新5合目

 富士登山の4ルートで最も新しい同登山道は、開設年やいきさつがはっきりしている唯一の道でもある。ルート上の山小屋などでつくる山内組合の福島邦彦組合長(71)は伴野佐吉について「富士山を観光資源として捉え、御殿場に人を呼ぶ方策を考え、実行に移した」とたたえる。
 毎年7月1日に市内で行う開山式には、佐吉の子孫にあたる伴野琢也さん(東京)が列席する。新型コロナ禍で途絶えていた慣例が今年、4年ぶりに復活した。御殿場市観光協会の芹沢明彦事務局長(59)は「開拓者としての努力、彼らへの敬意、感謝を、これからの世代にもつなげていきたい」と力を込める。
 同登山道が“信仰の山”富士山への認識を変化させたという見方もある。御殿場市社会教育課の勝俣竜哉副参事(48)は当初の登山道の起点に浅間神社がなかったことに着目し「欧州のアルピニズム(趣味の山登り)の影響がうかがえる」と指摘する。
 富士山に対する柔軟な発想は、現在に受け継がれる。10周年を迎えた富士山ツーリズム御殿場実行委員会が運営する多目的スペース「マウントフジトレイルステーション」は、ランニングセミナーやフォトコンテストなど、ユニークなイベントを主催する。自転車愛好家のためのスペースも作った。今年は登山道140周年を記念した写真展を開催している。スタッフの山口拓哉さん(41)は「富士山の楽しさは登頂だけではない。さまざまなアクティビティーを提案したい」と意気込む。

 <メモ>御殿場口登山道の開設は1873年、富士山東麓の中心的集落だった御殿場村の旅館経営者伴野佐吉ら約30人が県に対して請願を出したのが発端。須走口の反対で却下されたが、当初から「登山者の負担が少ない登山道を開きたい」と考えていた伴野はあきらめず、通行料を徴収しないという条件をのんで県の許可を取り付けた。既存の道を改修する形で83年5月に完成し、8月に開通式を行った。
 89年の東海道線開通、御殿場駅開設を受け、伴野は90年、県に登山道の変更を申し出た。駅に近い新橋(にいはし)浅間神社をルートの起点とした。鉄道の駅と山頂を結ぶ道として、にぎわったという。

記念手拭い作製 宿泊者に贈呈 残りわずか
 御殿場口登山道の山内組合は140周年を記念して、かつて起点だった新橋浅間神社から山頂までの道のりをイラスト化した手拭いを作製した。5800枚を宿泊者にプレゼントしている。すでに残数希少という。福島組合長は「宿泊者以外から販売してほしいという声も届いている」と手応えを語る。

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