メディアの変化伏線に 横関大さん(富士宮出身)「メロスの翼」

 昨年発刊したユーモアミステリー「忍者に結婚は難しい」が第10回静岡書店大賞に選ばれた作家横関大さん(富士宮市出身)が、若い男女3人の絆を描くエンターテインメント小説「メロスの翼」を出した。故郷への感謝を胸に執筆し、謎解きと人間ドラマを絶妙なバランスで配置した。

新作では卓球を題材にした横関大さん。「ユーチューブ動画で一生懸命勉強した」という=5月下旬、東京都文京区の講談社
新作では卓球を題材にした横関大さん。「ユーチューブ動画で一生懸命勉強した」という=5月下旬、東京都文京区の講談社

 世界の強豪が集まる卓球のトーナメント大会を、急きょ出場した中国の補欠選手が席巻する。世界ランキング3位を一蹴した彼のユニホームにはなぜか日の丸が縫い付けられていた―。
 物語は試合が行われている現在と21年前、15年前、11年前、6年前を行き来する。3人の生い立ちと出会い、かけがえのない関係性が語られる。過去の悲劇的な犯罪、その背景―。彼らを取り巻く人間関係が少しずつ解き明かされる。
 「幼なじみ」という設定は、江戸川乱歩賞を得たデビュー作「再会」(2010年)でも用いた。
 「あこがれがあるのかもしれません。『再会』とはグループの構成が異なりますが、同じモチーフを、キャリアを積み重ねた上で書いたらこうなった。デビュー作のテーマにもう一度きちんと向き合った、という気持ちです」
 3人が学齢期を過ごす場所は静岡県内。それぞれの葛藤や反発心が、互いへの思いやりに昇華していく。
 「『リハビリの場』として静岡を選んでいます。自分自身の懐かしい記憶、泥にまみれて遊んでいた幼少期の記憶がそうさせたのでしょう。『理想的な場所』という意味合いも込めているんです」
 あえて時系列を崩した語り口は過去作でも取り入れた手法。読み進めるごとに、物語のスピードがどんどん上がっていく感覚を覚える。
 「過去にさかのぼり、現在に戻る。その際に謎を一つ提示する。ポイントごとに読者の興味を引き付け、ジャンプする。その繰り返しが加速力につながっているのではないでしょうか」
 20年以上が経過する物語の中で、メディアやコミュニケーション手段の変遷を丁寧に描写した。小学生が手紙のやりとりをしていた時代から、卓球の試合がウェブ中継で楽しめる時代まで。精緻なエピソードの積み重ねが、結末の仕掛けを際立たせる。
 「時代に即したラストが書けた。今だからこそのクライマックスだと思います」

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞